千葉ジェッツのファン層がこの1年で急増!? その秘密は「2分で撮影する」YouTubeショート動画
若年層、女性の新規ファンが増えるきっかけに
小原 やっぱり「2択ショート」ですかね。1日にたくさんの本数が撮れなかった課題を一気に解決できた企画だと思います。この「2択ショート」というのは、例えば「ドリブルとシュート、大事なのはどっち?」みたいな質問を何人かの選手に答えていただくのですが、その質問を10問くらい用意して、たくさんの選手に聞いていけば一人当たりの時間もかからずに動画もたくさん作れる。今、僕たちのやっている施策の原型になったのがこの「2択ショート」だと思っているので印象に残っていますね。
沖浦 そのほかですと、僕たちは「即出しショート」と呼んでいるのですが、試合の切り抜きに印象的なワードをつけて出している動画が一つの武器になっているのかなと思っています。どのスポーツ業界を見ても、良いプレーの切り抜き動画はよくある手法だとは思うのですが、それを新規ファンに届けるために、よりキャッチーなワードチョイスを心がけています。
分かりやすい例で言いますと、パ・リーグTVさんの動画のサムネイルがキャッチーさの極みだと思っています。つまり、ついつい見たくなってしまう絶妙なワードセンスということなんですけど、そうやって他のチャンネルから気づきを得たところで、どういう切り取り方をしたらバスケに興味のない人たちにも届くのだろうか、みたいなことはずーっと考えています(笑)
――ついつい観たくなってしまうワードセンスとはもう少し具体的に言いますと?
小原 サムネイル、もしくは動画が始まって数秒で視聴者は動画を見続けるか、次にスキップするか判断していると言われています。そこで、スキップされず動画を観続けてもらうために我々が知恵を絞って考えているのが、ついつい観たくなってしまうフレーズです。
例えば、選手がダンクを決めている映像があったとします。この動画に「豪快ダンク!」というキャッチフレーズをつけるのと「まるでスラムダンク!」というキャッチフレーズをつけるのでは、どちらが良いか。正解は後者で、このフレーズにすれば、スラムダンク世代はもちろん、漫画・アニメのファンの方たちにも観てもらえる広がりがあるからです。なので、いかにしてついつい観たくなってしまう人を増やせるか?という点を意識して言葉選びを慎重に行っています。
――なるほど。もし千葉ジェッツのことをあまり知らなくても、何気なく流れてきたショート動画の中に気になるワードがあったら目を止めてしまいますよね。
沖浦 そうですね。(きっと)気になるようなカットを後にショート動画のサムネイルに設定できるよう、サムネイル逆算で編集している点も徹底していますね。
――ショート動画の本格的なスタートは2023年からとのことですが、これまでファン、あるいは視聴者に向けてどのような思いで企画を進めてきたのでしょうか?
沖浦 千葉ジェッツのことを知ってもらって、好きになってもらって、会場に来ちゃった!そんな人を1人でも増やすことが当初からの一貫した思いですね。もちろん、今ではショート動画をきっかけに千葉ジェッツを知っていただく方も多いとは思いますが、もうちょっと知りたいな〜と思ってもらえたら、各人の好みに合わせて縦横関係なく、様々な種類のコンテンツが手厚く揃っているのもこのチャンネルの強みです。十人十色の染まり方で、少しずつ濃い赤になっていってもらえたらと思います(赤)
小原 僕もまったく同じ思いですね。ショート動画で千葉ジェッツのことが気になったキミたち、横動画も見て、ぜひ千葉ジェッツを好きになってね! という感じですね。
「属人化」しないように、それが今後の課題
沖浦 まず、リソースの壁が大きいかもしれないですね。特にショート動画はリソースさえあれば実は無限に作れます(笑)。ただし作るだけではダメで、ついつい観たくなるキャッチフレーズを丁寧に考えて、どこまで狙いを持って作れるのかが肝。しかし、そうやって狙いを持って作ろうと思うと、新規に刺さる客観的な目線に加え、選手のパーソナル・チーム状況・バスケの知識を一定持った人が作らないといけません。そうなると、どんどん作業が属人化してしまいますよね。属人化した結果、もっと出せるはずのコンテンツ数が、その人のリソースによって左右されてしまう。ここが最大の課題と捉えています。
そしてその属人化を軽減すべく、ナレッジの言語化を行い、僕だけじゃなく新しくチームに入ってきた人でも3カ月で同じ作業ができるようになる。そんな健全で盤石な組織作りに向けて日々、奮闘中です(笑)
――その属人化を防ぐことと重なる部分があるのかもしれないですが、千葉ジェッツさんは今回の施策、取り組みについて独り勝ちするわけではなく、そのノウハウをすべてリーグ全体などに公開しています。それはなぜでしょうか?
沖浦 元々MIXIの企業風土的にナレッジをシェアする文化が根づいているというのが大きい点ですが、正直どんどん真似できる部分は真似してもらっていいと思っています。
我々は追いつかれないように違うものに挑戦していきます。そもそも一つのチームのYouTubeが盛り上がったところでまだまだ影響力も小さいですし、Bリーグ全体の人気を底上げするためには全チームのYouTubeが盛り上がるに越したことはないと思います。
小原 例えば、僕たちと同じことを他のチームさんが始めて、そのチームさんの新規ファン層がさらに拡大したとします。そこからBリーグ全体のファン層も拡大し、さらに千葉ジェッツにも流れてくる可能性があるかもと考えると、ノウハウをシェアすることでBリーグ全体が盛り上がり、それによって千葉ジェッツにも大きな恩恵があるのではと考えています。
次世代の子どもたちの「夢」になるために
小原 これまではどちらかと言いますとバラエティ系動画が多かったと思いますので、よりバスケ自体を楽しんで、好きになっていただけるようなコンテンツを強化していきたいなという思いが個人的にはありますね。
沖浦 会場に足を運んでみたいと思っていただけるような動画を作り続けていきたい。それに尽きますね。また将来の展望で言いますと、動画を見てジェッツのことを好きになってくれた人たちが集まれる場所があったらいいなと個人的には考えています。そうした場をYouTubeがきっかけで作れたとなると、それは前例のないことかなと思いますので……
遠い未来の話かもしれませんが実現させてみせます!!!(笑)
――スポーツ業界にはリソースのないチームが多いという話もありましたが、それでも動画コンテンツに力を入れるべきだとスポーツ業界、スポーツチームに向けて伝えたいメッセージがあれば、最後に教えてください。
小原 YouTubeに限らず、TikTok、Instagramのリールなど、縦型のショート動画はリーチを伸ばすという意味ではすごく効果的で、拡散されやすいコンテンツだと思っていますので、ぜひ強化すべき施策かなと思っています。またYouTubeはショート動画での拡散、横動画でのコアファンの醸成という2つの側面を持っていますので、そこに力を注ぐことでリーチとエンゲージメントの両方に効果があるのではないかなと考えています。
沖浦 小原君とはちょっと視点を変えた意見になりますが、野球やサッカーのユニフォームを着て遊んでいる子どもたちはよく見かけますが、それがバスケやバレー、卓球、ラグビーなどほかのスポーツチームのユニフォーム姿で遊んでいる姿はあまり見ない。子どもたちの夢に関しても、プロ野球選手!プロサッカー選手!以外のプロアスリートになりたいという声はまだまだ大きくはないと思います。しかし、こうした現状を変えられる可能性を秘めているツールがYouTubeを始めとした「SNS」ではないでしょうか。今後、SNSネイティブとして育つ子どもたちには、チームのSNS運用者の努力次第でいくらでもコンテンツを届けることができると思います。その積み重ねが、次世代の子どもたちがやりたいと思うスポーツ競技にも影響を与えてくれることを信じて、僕は今の仕事をしています。
ちなみに、我が家の長男は4歳にして、すでにパパのiPadを日常利用しているのですが千葉ジェッツのチャンネルを1人でいろいろ観ては、「パパ!ボク富樫になりたい」と富樫選手を呼び捨てにして、バスケの自主練を始めています。(笑)そういう子どもたちがもっともっと増えてくると、YouTubeやSNSを運用している側としては嬉しいなと思いますね。