小さな体に大きな使命を帯びた河村勇輝 上昇一途の司令塔がNBAで成功するために必要なものとは?

杉浦大介

2月16日のGリーグ・アップネクストゲームで、最も大きな歓声を浴びていたのが河村だ。大男たちの世界で奮闘する小兵ガードは、今やリーグの顔的存在に 【写真は共同】

 メンフィス・グリズリーズと2ウェイ契約を結び、日本人として4人目のNBAプレーヤーとなった河村勇輝。現在は下部リーグのGリーグ、メンフィス・ハッスルでのプレーがメインだが、今後この小さな司令塔がNBAで成功を掴むために必要なものとは何か。先日のGリーグオールスターゲームを取材した現地在住ライターが、レポートする。

“大きい者が正義”の世界で異彩を放つ

「ユウキィー、カワァムゥラァ!」

 サンフランシスコのダウンタウンにあるモスコーンセンターに選手紹介のアナウンスが響き渡ると、会場に集まった約1000人の観衆から大歓声が沸き起こった。

 2月16日、NBAオールスターの開始前に開催された「Gリーグ・アップネクストゲーム(NBA傘下マイナーリーグのオールスター)」。この日、一番の人気選手は間違いなく河村勇輝だった。

 Gリーグの精鋭たちが集まったショウケースの舞台で、河村は4リバウンド、3アシストをマーク。Bリーグの島田慎二チェアマンもコートサイドから見守ったビッグステージで、ハーフコートからアンダーハンドのパスでアリウープを演出してファンを歓喜させるシーンもあった。

「(ファンの)声援には本当に感謝したいと思います。彼らがいなければこのオールスターでプレーはできなかったので、本当に感謝したいです」

 イベント終了後、河村はいつもながら謙虚にそう述べていたが、多くのファン、関係者は、感謝するのは自分たちのほうだと考えているかもしれない。

 身長2メートル以上の大男たちに支配されたNBAの世界。“大きい者が正義”のスポーツであることは誰も否定できないなかで、身長173センチという河村のサイズは異彩を放つ。そんな小兵ガードがすでにNBAで20戦に出場し、Gリーグのメンフィス・ハッスルでも平均12.9得点、8.7アシストの数字を残して、すでに“リーグの顔”的存在になっている。

「今日も日本から、アジアからたくさんの方が応援しに来てくださっているなかで、そういった方々に小さくてもプレーできる、NBAでプレーできるってことを証明したい。それが僕の1つのミッションかなって思っています」

 小さな体に大きな“使命”を帯びた河村の進む先に、このアメリカの大地でさらに明るい未来が開けようとしている。

無印から瞬く間にNBAプレーヤーに

オープン戦で実力を示し、グリズリーズとの2ウェイ契約を勝ち取った河村。開幕直後のこのロケッツ戦で早くもNBAデビューを飾るなど、上昇気流に乗っている 【Photo by Tim Warner/Getty Images】

 ここに至るまでの河村の上昇ぶりは、誰にとっても印象的なものだった。

 日本代表の司令塔として臨んだパリ五輪で平均20.3得点をマークして名を揚げたスピードスターは今夏、ついにNBA挑戦に乗り出し、メンフィス・グリズリーズとエグジビット10契約を締結。秋季キャンプ参加が前提のこの契約でグリズリーズの一員となったが、しかし当初は開幕前の10月10〜13日にはNBAロースターからカットされ、下部リーグのGリーグに行くことが規定路線だった。

 そんな小さな日本人ガードがキャンプ中、オープン戦で確かな実力を誇示していく。多彩なパスワーク、スピード豊かなドリブル、稀有なコートビジョンはNBAでもまったく見劣りしない。サイズ不足ゆえにディフェンス面が不安視されたが、ポジショニングの良さと意外にも強いフィジカルで後ろには引かなかった。その堂々としたプレーを見て、グリズリーズ首脳陣も考えを変えざるを得なかった。

「ユウキはインパクトを生み出してくれている。私やチームメイトともコンスタントにコミュニケーションを取り、一丸となろうとしている」

 グリズリーズのタイラー・ジェンキンスHCが、目を細めてそう語っていた姿が思い出される。

 オープン戦のサプライズプレーヤーとなった河村が他チームに流出してしまうことを恐れたグリズリーズは、10月19日に2ウェイ契約(基本はGリーグの選手ながら、期間限定でNBAへの出場も可能)を与える。すると、勢いに乗る河村は、開幕直後の同26日には交代出場で早くもNBAデビューを飾るのだ。

 キャンプ開始前はほとんど無印の存在だったにもかかわらず、これほどのスピードで田臥勇太、渡邊雄太、八村塁に続く日本人4人目のNBAプレーヤーになってしまったのだから、見事としか言いようがない。その過程でグリズリーズのエース、ジャ・モラントとの間で育む友情が話題になるなど、河村は瞬く間にチーム内外の人気選手に上り詰めた印象があった。

1/2ページ

著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント