阪神・近本光司、4番を経験したことでの意識変化 スランプを回避する“哲学的思考”に五十嵐亮太も感嘆
自分が戻れる場所が大事
近本 僕は基本的に常に新たな取り組みをしています。いろんなことを探して、ダメだったら戻れる場所が自分にはあるので。いろんなことに取り組んでいきますが、ベースになるところは自分の体のコンディションだと思っているんです。新しいことに挑戦したいと思っても、足が痛い、腰が痛い、肩が痛いとなったら、そのやりたいことができない。まずは自分の体を理解して、コンディションをしっかりと整えて、いつでもやりたいことができる状態に準備をしなければいけません。まずはそこをオフから取り組みます。シーズン中でもやりたいことがいっぱい出てくるんですよ。今日はこれをやってみよう、今日のピッチャーにはこれをやろうとか。
五十嵐 それは元々やっていたことの出し入れですか? それともその時に思いつくことなのでしょうか?
近本 引き出しですね。この投手に対しては「この引き出しとこの引き出しを合わせよう」など。基本的に自分の打ち方、自分のベースとなるフォームがありますが、そこから外れてもいいと思っているんです。新しいことに挑戦して、何かのきっかけで引き出しが1つ増えることもありますから。でも、その挑戦がダメだったとしても、またすぐに自分に戻れる。それが自分の長所だなと思っています。
五十嵐 盗塁についても聞かせてください。昨年もタイトルは獲得しましたが、プロ6年間で最も少ない19盗塁でした。打順が変わったことの影響もあるかと思いますが、近本選手だけではなく、セ・リーグ全体でも盗塁の数が減っています。その理由はどう捉えていますか?
近本 盗塁、バント、エンドランは作戦なんです。ホームランやヒットは作戦ではありません。盗塁に関しては、自分がどれだけ走りたいと思っても、サインに従わないと監督のイメージする戦略で戦えません。そこが自分の中でも難しいところでした。「グリーンライト」という(選手に盗塁の判断を任せる)サインがありますが、とはいっても監督がすべてを考え、すべてを動かすので、僕らが勝手にプレーすることはできません。セ・リーグ全体が、というところは僕も正直わかりませんが、昨年の阪神で言えばそういうところも要因の一つかなと思います。
五十嵐 近本選手がチームの状況だったり、監督の要求に対してどう対応していくかということをすごく大切にしていることがわかりました。藤川監督になってどんな野球をやりたいのか、どんなことが求められるのか、監督と話したり、何かイメージはありますか?
近本 藤川監督にはよくコミュニケーションを取っていただいていますし、まだ内容は言えませんが、どんな野球をやりたいかもミーティングで話していただいています。でも実際に、どんなタイミングで作戦を仕掛けるのか。自分たちが「ここはバントだな、エンドランだな」と思うタイミングと、監督が思うタイミングとのギャップはシーズンに入ってからでないとわからない部分もあります。監督がベンチでどんな言葉を発するのかも、実際に聞かないとわからないですから。僕は選手ですし、自分の結果を出さないといけないので、監督の求めることもそうですけど、まずは自分の結果を出すためにやることが大事だと思います。そこがすごく難しいところでもありますね。
再現性を高めるための言語化と自己理解
近本 プロに入ってからかもしれないです。それまで自分は感覚的にやってきたのですが、それではどうしても成績が安定しない。2年目の時から再現性を高くするために「言語化」というものを意識し始めたんです。
五十嵐 人って自分を見失うことがあると思いますが、自分の戻るところがしっかりあるというところと、チームのことも考えて自分の状態も崩さないで結果を出し続けられることがすごいなと感じました。
近本 まずは自分を理解することがすごく大事だと思っています。何かに挑戦するんだけど戻ることができなくて、何をしたらいいのかわからなくなる選手はたくさんいると思います。自分の強みや弱み、何が楽しいか、何が楽しくないかといったこともすべて理解する。自分はなぜ野球をしているのか、自分は何でプロ野球選手になってまで野球をするのか、ということをわかっていない選手も多いのかなと思います。
五十嵐 そこまで考えているとは……もう哲学ですね。元々考えることが好きで、考える癖がついていたのかなと思いますが、例えば両親がそうだったのか、何か本を見て気付いたのか、どんな影響があったんですか?
近本 基本的には性格だと思います。昔は自分のことを理解してくれる人に対しては自分の考えも言えていましたが、人前で意見することがすごく苦手でした。でもプロに入ってからは自分のことを知ってもらわないといけない。その人から好かれる、好かれない、というよりは、まずは知ってもらうことが大事だと思っていました。こういう場でもしっかりと自分の発言をしていきたいなとは思います。
五十嵐 すごいですね! ここまで深く考えている人は少ないと思います。本当に自分のことを俯瞰的に見られているし、その幅も広い。今後、プレーヤーとしても楽しみですけど、その後のキャリアも含めて、いろんな分野で活躍しそうなイメージが湧きます。
近本 僕は考えるスタイルが好きですし、そのやり方が自分には合っているだけだと思います。考えないで感覚的にやるほうがスピードは早いと思います。何も考えずにできることが一番タイムラグはないので。一方で、僕のように考えて、考えてというスタイルは時間が掛かります。でも「再現性がある」というところは確かだなと思っています。すべてそれが正しいわけではないですけどね。
五十嵐 やはりそこに行き着くんですよね。感覚だけではやれない時が必ず来る。その時に考えるし、普段から考えている人の方がすぐに答えを導き出せるし、スランプも短い。自分のところに戻りやすいということにつながりますよね。今日はためになるお話、ありがとうございました!