なぜ指導者は学び続ける必要があるのか。630人が参加し、自身の存在意義と向き合った「ぐんま野球フェスタ2025」
慶應義塾高校野球部前監督で、香川オリーブガイナーズの社長を務める上田誠氏が壇上から語りかけた言葉が、1月13日にALSOKぐんま総合スポーツセンターで開催された「ぐんま野球フェスタ2025」の価値を何より表していた。
慶友整形外科の古島弘三副院長が中心となって2019年に始まった「ぐんま野球フェスタ」。
野球少年・少女への肩肘検診に加え、多彩な講師による指導者講習会、東京ヤクルトスワローズの元投手でマルハン北日本カンパニー野球部監督の館山昌平氏による講演、コーディネーショントレーニングや打撃・投球フォームの指導、ベースボール5、企業展示会、さらに2024年夏の群馬大会でベスト8に進出した全校が参加しての野球遊びなどが行われた。
将来を見据えた育成の重要性
慶友整形外科の古島弘三副院長は野球少年・少女の野球肘を予防する上での留意点などを伝えた。甲子園常連校を対象にした調査によると(※60人を調査)、高校での肘痛発症者の90%が再発で、肘痛既往者の46%が再び痛めているという。
古島副院長は「学童期に傷害を起こしていなければ、その後痛めるリスクは減少する」とし、学童機に携わる指導者の重要性を改めて示した。
学童野球から高校野球では4〜6月生まれの選手が活躍しやすい傾向にある一方、プロ野球では早生まれの選手が“逆転”を起こしていることをデータとともに紹介。
「他人との比較(横比較)ではなく、過去の自分との比較(縦比較)で評価し、『野球が楽しくて仕方ない』という選手の育成」が大事だと語った。
千葉ロッテマリーンズの元クローザーで今年からジャイアンツU15ジュニアユースの投手コーチに就任した荻野忠寛氏は、「選手の肩肘をどう守るのか」というテーマで自身のプロ時代を踏まえて講演。
故障を避けるために指導者が投球数を管理するだけでなく、投手や捕手が練習中から投球数を数える習慣をつけることで自分たちの身体に敏感になり、故障予防につながると話した。
指導者の意識で子どもの未来は変わる
慶應義塾高校は「エンジョイベースボール」で知られるが、肝になるのは監督に指示されてから動くのではなく、自ら考えて行動する選手の育成だ。
そのために、指導者はどのように寄り添うべきか。その答えはないからこそ、指導者自身が「独自の視点を持つ」ことが大事になる。
森林監督自身は慶應義塾幼稚舎で小学4年生の担任も務めていることもあり、「高校生が大人に見える」という。それは森林監督ならではの武器で、強みになっていると紹介した。
日本は甲子園出場や目の前の試合で勝利することが大きな目標となるのに対し、ドミニカでは20歳以降でメジャーリーガーとして成功することを念頭に育てられるという。
とりわけ大きな違いは、日本の公式戦はトーナメント戦で行われる一方、ドミニカではリーグ戦で多くの実戦経験を積みながら育成されていくことだ。
「リーガ・アグレシーバ」というリーグ戦の取り組みを広める阪長代表は、育成環境を整備する重要性を強調した。
埼玉県や新潟県では、まだ野球を始めていない“野球未満”の子どもたちに草の根でアプローチし、野球人口が増えていることを伝えた。筑波大学の川村卓教授の考案した「ならびっこベースボール」など、野球遊びの具体的な方法も紹介された。
「尊重」「勇気」「覚悟」の3つが「Good Game」を成り立たせるとした上で、とりわけ興味深かったのが対戦相手の捉え方だ。よく「敵」(enemy)と表現されるが、あくまで「相手」(opponent)である。そもそも相手がいなければ試合は成り立たず、「sportsman=good fellow」という考え方が示された。
講習会では指導者たちが熱心に学ぶ一方、野球少年・少女たちは高校生と野球遊びに興じたり、打撃や投球、走り方を熱心に教わったりするなど、会場に集まった人たちが「野球」という競技の魅力、奥深さを堪能している様子が印象的だった。
終了後のアンケートに回答した602人のうち、講習会の満足度について「非常に満足」が156人、「満足」が364人で86.4%。講習会が現場で役立つかについては「非常に役立つ」が210人、「役立つ」が365人で95.5%だった。
指導者、そして野球に携わる者たちはなぜ、野球を学び続ける必要があるのか。「ぐんま野球フェスタ2025」は、その重要性を再認識できる1日だった。
(文/撮影:中島大輔)
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