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三笘はサウジからの超破格オファーに目もくれず 見つめるのはフットボーラーとしての「成長」だけ

森昌利

三笘は「レベルが高いところでプレーするのが重要」と返答

2月1日、ブライトンは好調フォレストを相手に歴史的大敗を喫した。前半だけプレーしてベンチに下がった三笘は、試合後に記者団の前でサウジ行きをきっぱり否定 【写真は共同】

「カオルはサウジアラビアに行く気は全くないよ」

 2月1日、ノッティンガム・フォレストとのアウェー戦直前の記者室で、ブライトンの広報部長であるポール・カミリン氏が日本人記者団に開口一番そう言った。この日の午前中、ブライトンが約152億円のオファーを断ったという速報が流れていた。

 クラブがオファーに満足して、所有選手との直接交渉を認めることも重要だが、そもそも選手自身が望まなければ移籍は実現しない。とすれば、このカミリン氏の言葉からして、三笘にはサウジアラビア移籍の選択は全くない。

 カミリン氏はさらに、「もしも相手がバイエルンやバルセロナなら引き留めるのは難しいかもしれない」と付け加えて、三笘が移籍するとすれば、その理由は選手として進歩するためだけということを示唆した。

 そして0-7の大敗だったにもかかわらず、試合後に記者団の前に姿を現した三笘本人に、「サウジアラビア移籍の可能性はありえないのか?」と直接聞いた。

「もちろん、そうですね」

 短いが明確な意思がこもった答えだった。移籍はありえないんだね? と尋ねて「もちろん」と返ってきたのだ。

 さらに「やはり選手としての成長が見えない移籍には興味がないのか?」と尋ねると、「サッカーをしている理由をしっかり考えなくてはならないですね。レベルが高いところでプレーするのが重要だと思います」と語った。

 レベルが高いところ――つまり三笘にとって、現在世界一と言われるプレミアリーグでプレーすることにまず大きな意義があるのだ。そしてもしも次の移籍先があるとしたら、それはカミリン氏が言ったように、例えばバイエルンやバルセロナといったブライトン以上に選手として成長する舞台を用意できるクラブ。つまり欧州CLの舞台を与えてくれるようなビッグクラブということになる。

チェルシーもマンCも真の敬意は得られていない

サウジ行きに全く興味を示さなかった三笘の姿勢は、英国内にポジティブな感情をもたらした 【写真:REX/アフロ】

 もしも今回、三笘がサウジアラビア行きを了承していれば、デュランと同様、30億、40億円級の年俸を提示されたに違いない。それでも27歳日本代表MFは全く見向きもしなかった。

 この三笘の姿勢は、デュランがあっさりアル・ナスル移籍を決断したのとは真逆で、ある種の爽快感と安堵(あんど)感を英国内に広げたと思う。

 もちろんプロである以上、選手にとって年俸額が1つの評価となることは間違いない。しかしそのサラリーが、あり余るオイルマネーから出される法外なものなら、金額が真の実力を示すことにはならないのは明白だ。

 お金はすごく大事ではあるが、結局それは全てではない。誰にも強要されない本物の愛、それに人間の、腹の底から自然に巻き起こる感動とともに湧き出る敬意は、金では買えないものだ。それはこの国のフットボール・ファンのクラブ愛と敬意に通じる。

 例えば、2000年代のチェルシーはロシアの大富豪、ロマン・アブラモビッチ氏の個人資産を背景に急速かつ大胆な補強を繰り返し、ジョゼ・モウリーニョ監督の下でイングランドの頂点に立った。

 またアブダビのオイルマネーをバックに、前人未到のプレミア4連覇を達成したマンチェスター・Cの近年の成功は解説する必要もないだろう。

 しかし、チェルシーの栄光も、115件もの財務規程違反の疑いがあるマンチェスター・Cの偉業もお金の匂いがしすぎて、かつてのマンチェスター・Uやリバプールが築いた黄金時代に対してこの国の人々が抱いた敬意は得られていない。

 これは逆説的な話になるが、だからこそサウジアラビア移籍を完全拒否した三笘には、是が非でもプレミアリーグの歴史に残るような記録を残し、フットボール発祥国の人々の記憶に永遠に残るような選手になってほしいと願う。そうなって、KAORU MITOMAという名前とともにそのフットボーラーとしての存在が、イングランドで伝説となる未来をぜひとも作ってほしい。

 するとその伝説のなかで、一生不自由しない大金に目もくれずブライトンに残った今回の三笘の決断も、忘れられることなく称えられ、語り継がれることになるだろう。

(企画・編集/YOJI-GEN)

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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