久保もターゲットになった人種差別被害 スペインにはびこる悲しい問題の根底にあるものとは?
一部には代表選考に対する嫌悪感も
そういったスペイン人は、ニコ・ウイリアムス(アスレティック)、ミケル・オヤルサバル、マルティン・スビメンディ(ともにソシエダ)、ヤマル、ダニ・オルモ、パウ・クバルシ(いずれもバルサ)などがスペイン代表に招集されることを露骨に嫌がり、「代表の試合を見る気が失せる」などと平気で口にする。そこに「肌の色が白くない」という要素が加われば、なおさらだ。
そうした声が耳に入ってくるたびに、悲しい気持ちになる。スペインが人種差別主義者で溢れ返っているかのようなイメージを与えかねないからだ。とはいえ、出身地や外見で差別する人々は、スペインに限らず、どの国にも一定数いるという事実を否定することはできない。
久保とバレネチェアに対する人種差別発言がバレンシアであった時、スペインのスポーツ紙は一斉に「非常に重大な侮辱」と、この問題を大きく取り上げた。メディアのその姿勢は正しいと思うし、これこそがメディアの役割だ。もちろん事態を重く見たソシエダも、「人種差別やその他の侮辱」があった事実をラ・リーガに書面で訴えている。
しかし、そのわずか1週間後、今度はヘタフェのコリセウム・スタジアムで、バルサのバルデに対して人種差別的な野次が飛んだ。ところがラ・リーガのハビエル・テバス会長は、「人種差別発言を聞いたのは、本人(バルデ)だけだ」とし、バルデの訴えに疑問を呈したのだ。
テバス会長がそうした態度を取るなか、先週末(2月2日)のベティス対アスレティック戦では再び、「サナディ、アフリカに帰れ」、「(アスレティックのオスカル・)デ・マルコス、車の下を見ろ、爆弾を仕掛けに行け」といった声がスタンドから響いている。嘆かわしいことだ。
胸に刻むべきフリックの言葉
「バレンシアの会長(レイ・フーン・チャン)は、しょっちゅう“チーナー!(中国人女性を指す言葉)”と呼ばれているが、誰もそれが人種差別だとは言わない」
これはどう解釈すべきなのだろうか。いちいちその言葉に反応しないバレンシアの会長の態度を鵜呑みにし、シンガポールと中国、日本と中国の違いなんて細かいことは気にせず、十把一絡げで「中国人」と呼ぶのは差別ではないという論理なのだろうか。
ちなみにテバス会長は、スペイン第一主義のVOX党の支持者であることを明言している。VOX党は移民の制限、バスク語やカタルーニャ語などの使用制限を求め、ブラック・ライヴズ・マター(黒人に対する暴力や人種差別の撤廃を訴える運動)は「過激な左翼活動」として反対の立場をとる極右政党だ。
そんな政党に投票を続けるテバス会長は現在、人種差別をなくすために処分を厳格化すべきであり、ひいてはスタジアム閉鎖、クラブへの罰金処分などの権限を全面的にラ・リーガ、つまりは自分に与えてほしいと訴えている。
しかしこれは、あくまでも自らの権力を増幅するための表向きのポーズ、戦略と見る向きが少なくない。それが成った暁には、人種差別問題に関して自身に都合の良い解釈を行い、気に入らないチームにのみ制裁を加えるといった行動にも出かねないのだ。
楽観的にはなれないこの状況下で、我々にできることは少ないが、バルデが人種差別発言を受けた時のバルサの指揮官、ハンジ・フリックの言葉を多くの人が胸に刻むべきだろう。
「サッカーにおいても人生においても、人種差別が割り込むスペースはない。今、この時代にそれが起きるのは完全に間違っている。結局のところ、これは不公平だ。(人種に関係なく)普通に一緒に生きていきたいと願う我々への敬意を欠いている。そういった人たちは家にいるべきだ。試合に行くべきではない。我々は差別と戦っていかなければならない。それが誰にとっても良いことになる。まずは身の回りにいる人たちに対して始めればいい。何かはできる。(やろうと思えば)誰もができることだ」
(企画・編集/YOJI-GEN)