石川開催のSVリーグオールスターに選手はどう臨んだか? それぞれの思い、優しさで生まれた笑顔

田中夕子

石川県で開催されたオールスターゲーム。西田有志(中央)らが会場を沸かせた 【写真提供:SV.LEAGUE】

 たとえ今は微力でも、この日が大きな力になるように。

 そんな選手たちの思いを受けた子どもたちが笑顔でボールを追いかける。

 1月26、27日に石川県かほく市のとり野菜みそBLUECATS ARENAで行われたオールスターゲーム。男女それぞれファン投票やリーグ推薦で選ばれた選手たちが試合をする同じ体育館の同じコートで、両日朝10時半から行われたバレー教室。輪島市や七尾市、能登町の小中学生に向け、オールスターへ選出された選手たちがパスやトスなどグループに分かれて指導に当たる姿があった。

西田が作ろうとした「笑顔にできるきっかけ」

 子どもたちに向け、ボールを打ち、互いにパスでボールをつなぐ。限られた時間ではあったが、目を輝かせてボールと選手の姿を追う子どもたちに、時折アドバイスしながら同じボールを追いかける選手たちからも笑顔があふれる。

 SVリーグの最中であり、コンディショニングの面を考慮すれば選手の負担を危惧する声もあったが、そんなことは関係ない、とばかりに1人のプロ選手としての思いを述べたのが、大阪ブルテオンの西田有志だ。

「むしろ僕はたとえシーズン中だろうと、こういうきっかけ、機会をいただけたことをありがたく思いました。プロである以上、どんな時もバレーボールを楽しむことはもちろんだし、バレー教室は教えるというよりもまず、自分たちには想像もできないようなつらい思い、経験をしてきた方々、子どもたちが少しでもバレーボールを楽しんでくれればと思っていたので、嬉しそうにしている姿を見て嬉しかった。短い時間でしたけど、このバレー教室をきっかけに夢や目標を持ってくれたら、そのきっかけを僕らがつくれたなら嬉しい。その思いだけでした」

 バレー教室だけでなく、本番のオールスターでもプレーはもちろん、西田の優しさが生んだワンシーンがある。男子のオールスターゲームでクイックモッパーなどコートオフィシャルを務めたのは輪島高校、輪島中学、能登中学のバレーボール部員たちだった。コートの隅に座り、クイックモッパーを務める女子選手のもとへボールを西田が手渡し、彼女が持っていたタオルは髙橋藍が持ってコートを拭くパフォーマンスで会場を沸かせ、盛り上がったところで「サーブ、打ってごらん」と西田が促す。

 突然の出来事に驚きながら、コートエンドから打ったフローターサーブは見事にコートインで、サービスエース。大きな拍手が沸き起こる中、柳田将洋が主将を務めた「チームMASA」の選手たちとハイタッチをしてコートを去る姿は嬉しそうで、何より微笑ましかった。

髙橋藍が「クイックモッパー」として盛り上げる一幕も 【写真提供:SV.LEAGUE】

 誰に言われたわけでもなく、とっさに思いついた、とその場面を西田が振り返る。

「自分がもしその子の立場だったら、あそこでサーブが打てたらいい思い出になるんじゃないかな、と思ったんです。彼女も何も知らない状況でしたけど、立って、ああいうところでも臆することなくサーブを打てて、すごいな、って思わされました。まだ復興が進まない地もあって、苦しい現状が今も続いている。そこで僕らが『頑張ってください』と言っても、頑張っているのにこの現状であることが苦しいわけじゃないですか。だから頑張ってくださいなんて簡単に言えないし、じゃあ僕らに何ができるかと言われたら、募金活動やバレーボールで見せて、つなげることだけ。何か1つでもいいから、笑顔にできるきっかけをつくりたい、と思って臨んだし、これからも同じように思い続けたいです」

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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