息子・角田裕毅はなぜレッドブルに選ばれなかったのか 父・信彰氏に独占インタビュー

柴田久仁夫

「去年の裕毅のベストレースはハンガリーだった」

去年のハンガリーGP決勝レース。ジョージ・ラッセルの猛攻を必死に凌ぐ角田 【(c) Redbull】

 話題を変えて、「お父さんが去年一番印象に残ったレースは?」と問うと、信彰氏は「ハンガリーGPですね」と即答した。予選でトップ10に入り、さらにレースでは唯一1ストップ作戦を敢行して9位入賞を果たした会心の週末だった。

 信彰氏は現地で角田の走りを目の当たりにして、予選とレースの走行ラインの違いに注目したという。

「フンガロリングはパドックから、最終コーナーが見下ろせるんです。裕毅だけは予選で、そこをまったく違うラインで攻めていた。レース後に夕ご飯を食べながら、『他の連中はアウトインアウトだったのに、裕毅はずっとミドルミドルアウトだったね。あれが多分速いよね』と言ったら、『よくわかるね』と褒められました(笑)」

 他のドライバーも時々試したりしたが、終始ミドルミドルアウトの走行ラインで通したのは角田だけだったという。

「あのコーナーは傾斜がちょっとある分、アウトよりもミドルで入ったぐらいの方が高い速度でうまく処理できるっていうか、向きがうまく変わってくれるんでしょうね」と言うのが信彰氏の分析だ。しかしこの走り方では、タイヤへの負荷が高い。

「そう。なので裕毅は、レースに向けては走行ラインを変えて行きました。F1はクルマごとの性能差が本当に大きい。レッドブルだったらアウトインアウトが最適だったかもしれない。でもRBはそうじゃなかった。裕毅はあの週末、一番いいところを見つけたんでしょう」

 カート時代の裕毅少年に信彰さんは、「路面と友達になれ」「漫然と走るな」と、いつも言っていたという。

「たとえば上り坂のコースなら、一気に加速してそこでブレーキをかければ荷重で押さえつけられて止まるし、タイヤにも優しい。雨で水溜まりができたら、そこを避けるのか通過するのか、ラインを考えながら走れとか。そういうことをいつも考えながら走れ。決まった走行ラインなんかないよと、裕毅には言ってましたね」

息子へのエール

信彰氏の趣味部屋は角田選手の思い出で溢れている 【写真:柴田久仁夫】

 角田は今季、レーシングブルズで5年目のF1を戦う。新チームメイトのイザック・ハジャ以上の速さを見せ、一方でローソンが苦戦した場合、レッドブルは今度こそ角田を呼ぶかもしれない。

「その可能性はあるでしょう。そして裕毅も、そのチャンスを拒む理由はない。そこで結果を残せば、レッドブル以外への選択肢も広がるわけですし。レーシングブルズにいる限りは、『車は悪いけど頑張ってるドライバー』という評価でしかない。でもやっぱり上の結果を取った方が、評価はされやすいですから。(フェルスタッペンやローソンと)同じ車に乗ることで、力関係がはっきりすると思うんです」

 角田のリベンジが期待できるシーズンになることを期待しよう。

(了)

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著者プロフィール

柴田久仁夫(しばたくにお) 1956年静岡県生まれ。共同通信記者を経て、1982年渡仏。パリ政治学院中退後、ひょんなことからTV制作会社に入り、ディレクターとして欧州、アフリカをフィールドに「世界まるごとHOWマッチ」、その他ドキュメンタリー番組を手がける。その傍ら、1987年からF1取材。500戦以上のGPに足を運ぶ。2016年に本帰国。現在はDAZNでのF1解説などを務める。趣味が高じてトレイルランニング雑誌にも寄稿。これまでのベストレースは1987年イギリスGP。ワーストレースは1994年サンマリノGP。

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