「知られざる欧州組」の現在地

イングランド2部に活躍の場を求める日本人選手が急増 「チャンピオンシップ」は理想の受け皿なのか

田嶋コウスケ

リーズの田中(左)とブラックバーンの大橋(右)は、ともに今シーズンからチャンピオンシップに参戦している 【Photo by MI News/NurPhoto via Getty Images】

 近年、イングランドの2部リーグに相当する「チャンピオンシップ」に活躍の場を求める日本人選手が増えている。今シーズンは過去最多の8人が参戦し、2025年1月の現時点で7人がこの舞台でプレーする。なぜ、日本人プレーヤーが急増しているのか。そして、彼らにとってここは理想的な受け皿と言えるのか。実際にこのリーグでプレーする選手や関係者の言葉も交えながら、ロンドン在住の識者が考察する。

年間収益はオランダやポルトガルの1部リーグを上回る

 世界で最もリッチな2部リーグ──。イングランド2部リーグに相当する「チャンピオンシップ」は、そう位置づけられている。

 米デロイトの「Annual Review of Football Finance 2024」によれば、2022-23シーズンにおけるチャンピオンシップの年間収益は「7億4900万ポンド(約1435億円)」で、これは欧州で6位に入る規模である。

 トップは、イングランド1部のプレミアリーグが記録した60億ポンド(約1兆1150億円)で、「世界最高峰」の称号に相応しく、他のリーグを圧倒する資金力を誇る。2位につけるのは35億ポンド(約6700億円)のブンデスリーガ(ドイツ)で、3位は32億ポンド(約6130億円)のラ・リーガ(スペイン)。4位に23億ポンド(約4400億円)のセリエA(イタリア)、5位に16億ポンド(約3065億円)のリーグ・アン(フランス)が続き、いわゆる欧州5大リーグがトップ5を占める。

 そして6位が、7億4900万ポンドのチャンピオンシップなのである。7位エールディヴィジ(オランダ)の5億ポンド(約958億円)、8位プリメイラ・リーガ(ポルトガル)の3億ポンド(約575億円)、9位スコティッシュ・プレミアシップ(スコットランド)の2.5億ポンド(約479億円)を収益面で上回っているのだ。「世界で最もリッチな2部リーグ」というだけでなく、欧州全体を見渡しても十分な資金力を持つフットボールリーグである。

 スタジアムのキャパシティも大きい。今シーズンのチャンピオンシップでは、サンダーランドの本拠地がリーグ最多の約4万8000人の収容人数を誇り、2位がシェフィールド・ウェンズデイの約3万9000人、3位がリーズの約3万7000人と、プレミアリーグの主要クラブに匹敵するキャパシティを持つ。3万人を超えるスタジアムは全24クラブ中10クラブに達し、2万人まで基準を下げれば20クラブがこれをクリアしている。

 もちろんこうした大型スタジアムは、熱心なサポーターの存在があってこそ成り立つもの。スタジアムに集まるファンの熱気はプレミアリーグに比べても遜色なく、スタンドからは拍手とチャント、ときに愛情のこもったブーイングが鳴り響く。各スタジアムには目の肥えた“住人”たちが足繁く通い、良いプレーには割れんばかりの歓声が沸き起こるのも、おなじみの光景だ。熱狂的なサポーターが集うリーズの田中碧は、イングランドならではの雰囲気について「やっていて楽しい」と嬉しそうに話している。

昨季の三好、坂元の活躍が日本人急増の一因

昨夏にコベントリーに加入した坂元(右)は今シーズンも奮闘。このアタッカーの活躍も、チャンピオンシップで日本人選手の需要が高まっている要因だ 【Photo by Catherine Ivill - AMA/Getty Images】

 こうした要因から、チャンピオンシップには2部リーグでありながら代表クラスのプレーヤーが世界中から集まるようになった。例えば、1月19日時点(現地時間、以下同)で首位を走るリーズでは、イタリア代表FWのウィルフリード・ニョントや、元マンチェスター・ユナイテッドでウェールズ代表MFのダニエル・ジェームズらがプレーする。

 チャンピオンシップを足がかりにステップアップしていった選手も少なくない。今シーズン、ポルトガル1部のスポルティングで公式戦32ゴールと爆発しているFWヴィクトル・ギェケレシュは、2020-21シーズンから3シーズンにわたりチャンピオンシップでプレー(スウォンジーで4カ月、コベントリーで2年半)。2023年夏に移籍したスポルティングで覚醒し、いまや欧州のメガクラブが熱視線を送るストライカーに進化した。

 もう少しさかのぼれば、現レアル・マドリー所属でイングランド代表MFのジュード・ベリンガムも、バーミンガムの下部組織からトップ昇格した若手時代はチャンピオンシップで技を磨いた。ちなみに彼の実弟ジョーブは19歳ながら、現チャンピオンシップのサンダーランドの主軸として活躍中だ。

 さらに、イングランド代表FWハリー・ケイン(現バイエルン)も、若手時代に当時チャンピオンシップのミルウォールやレスターへのレンタル移籍で武者修行を積んだ。同代表MFのジャック・グリーリッシュ(現マンチェスター・シティ)も、チャンピオンシップ所属時のアストン・ヴィラで研鑽を積んだ1人。つまり、イングランド2部は将来有望な若手の登竜門としても機能しているのである。

 そんなチャンピオンシップに、日本人選手が数多く参戦するようになった。今シーズンは史上最多の8人の日本人選手がしのぎを削り、日本でも注目度が高まっていると聞く(筆者注:カーディフの角田涼太朗が1月にベルギー1部のコルトレイクにレンタル移籍したため、現在は7人がプレー)。

 背景にあるのは、2016年に決まった英国のEU離脱である(正式に離脱したのは2020年)。英就労ビザの取得は、それまではA代表の出場試合数で決まる場合が多かったが、英国のEU離脱を機にポイント制システムに変わった。例えば、坂元達裕はA代表のキャップ数が「2」しかなかったものの、このビザ取得条件の変更によりコベントリーに移籍できた。

 チャンピオンシップのWBAで昨年12月までコーチを務めた白石尚久氏は、日本人選手が急増した理由と背景について、指導者の視点から次のように説明する。

 「イングランドの2部クラブが日本人選手に注目するようになった理由の1つとしてあるのは、昨シーズン、バーミンガムでプレーした三好康児(現ドイツ1部ボーフム)と、コベントリーの坂元達裕が活躍したことがあります。彼らの活躍は大きかったと思います。また日本のクラブに所属している選手の移籍金が安く、さらに就労ビザが取りやすくなったのも大きいです。

 日本人選手の特徴としていえば、テクニックとアジリティ、そしてスピードがあります。もちろん選手個々の長所は違いますが、これらの点は日本人が持つ特徴だと思います。他国の選手に比べても、ここは優れている。ハードワークもできるし、規律も守る。バランスの良い選手が多いですね」

1/2ページ

著者プロフィール

1976年生まれ。埼玉県さいたま市出身。中央大学卒。2001年より英国ロンドン在住。サッカー誌を中心に執筆と翻訳に精を出す。遅ればせながらX(旧ツイッター)の更新を24年12月から開始。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント