現地発! プレミア日本人の週刊リポート(毎週水曜更新)

三笘の背後に迫るアディングラの足音 2戦連続スタメン落ちは酷使による疲れが原因だが…

森昌利

昨秋の代表招集が3回でなく2回だったら…

昨秋に3カ月連続で日本代表に呼ばれた三笘はスタメン5回、途中出場1回と6試全てでプレーした 【Photo by Kaz Photography/Getty Images】

 以前にもこのコラムで書いたことがあるが、欧州の移籍市場で日本代表選手の評価が若干低くなるのは、北半球を半周する母国との距離が要因の1つだ。

 9月、10月、11月、そして3月にも代表ウイークがあり、過酷なプレミアリーグのシーズン中に4回も往復30時間弱の移動をこなすのは、欧州やアフリカ諸国の代表選手との比較で相当きつい。

 移動だけでもきついのに、三笘は1日の3分の1も時差がある日本でフットボールの試合をする。もちろん鍛え抜かれたアスリートであり、欧州でプレーするようになって3年半が経ち、こんな理不尽な移動も選手生活の一部となって、三笘自身も個人でさまざまな対策をとっているとは思うが、それでもこれは欧州でプレーする日本人選手にとって大きなハンディキャップである。

 実際、イングランドにやって来た日本代表選手がレギュラーの座をつかみかけながら、代表戦から戻った直後の試合で疲れから先発を外れ、時にはベンチからも外れて、また一から出直しとなったケースをこれまでに何度も見てきた。

「スクワッド・ゲーム」という言葉を紹介したが、これは代表選手の多くが欧州で活躍する現在、SAMURAI BLUEのチーム運営にも通じる概念なのではないだろうか。欧州のクラブ監督が対戦相手などに応じて選手をやりくりし、リーグ戦と国内カップ戦、欧州戦を戦っているように、日本代表監督も試合の重要性、対戦相手との力関係、そして何より選手のコンディションを考慮して誰を招集するか決める時代が到来したように思う。

 無論、三笘をはじめ欧州で活躍するスター選手の招集は、興行面で日本サッカー協会にとって非常に重要だろう。しかし日本人選手が欧州でしっかりと存在感を示し、レギュラーとして活躍する時代だからこそ、彼らのコンディション維持、そしてその一方で新たな才能発掘のためにも、親善試合や明らかな格下とのアジア予選にはJリーグでプレーする若手を中心に起用するべきではないだろうか。そこで若手が活躍すれば、レギュラー陣への刺激にもなる。

 今の三笘の疲労も、昨年秋の3回の代表招集が1回減っただけでもかなり緩和されたはずだ。

 12月に入り、三笘が縦抜けできなくなっていた印象もあった。三笘は現在27歳。まさに全盛期に突入する年齢で、スピードが衰えるわけがない。けれども疲労が蓄積していたということなら、それも納得できる。

三笘がポジションを失う事態も起こり得る

アーセナル戦の試合前にウォーミングアップする三笘。まずは練習でアピールして、試合ではゴール、アシストという目に見える結果がほしい 【Photo by Shaun Brooks - CameraSport via Getty Images】

 アーセナルと1-1で引き分け、これでブライトンはリーグ戦8試合連続未勝利となったが、後半36分のゴールで2-2のドローに持ち込んだ前節のアストン・ヴィラ戦に続き、リーグ2位の強いチームを相手に勝ち点1を獲得したことには価値がある。

 すると次戦もアディングラが先発する可能性がある。結果が悪くなければメンバーを変えないのが選手起用の鉄則だ。

 その次節、1月16日のイプスウィッチ戦でアディングラが活躍し、ゴールやアシストを挙げてチームが勝ち点3を奪うことになったら、それこそ三笘がポジションを奪われる恐れもある。1試合の結果が選手の運命を大きく変えることはこれまでに何度もあった。

“You never know what football will bring tomorrow”(フットボールの世界では明日、何が起こるか分からない)。

 これは英国でよく聞く表現だが、それなら絶対的レギュラーだと誰もが思っている三笘が控えに回ることだって起こり得る。

 アーセナル戦後、途中出場した三笘本人が「より良い結果を出さなくてはならない」と言っていたというが、まさにその通りの状況だ。まずは練習場で疲れを感じさせない、はつらつとした姿を見せること。そして途中からでも試合に出たら、「さすが三笘、チームに不可欠な選手だ」と言われるような力強いパフォーマンスを見せて、ゴール、アシストという結果も示してほしい。

 と、ここまで書いてきてはっと気付いたのは南米の代表選手のタフさだ。ブラジルまでは約12時間、アルゼンチンまでは約16時間、英国からの移動に時間がかかる。欧州からの長時間移動という点では彼らも同じだ。それでも南米の選手がチーム内で序列を落とさないのは、フットボーラーとしての体力、そして精神面も彼らのほうが上だからだろう。

 そしてやはりその強さの差には、フットボールが万人の心を沸騰させる国技である南米と、人気スポーツの1つにすぎない日本との違いがある気がする。

(企画・編集/YOJI-GEN)

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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