独自の言葉で振り返る、大谷翔平の2024年

盗塁王リッキー・ヘンダーソンは大谷翔平の“スタイル”をどう見たのか? 両者の意外な共通点に迫る

丹羽政善

リッキーが「歩いてでも盗塁を決められる」秒数とは?

 スタートを重視する意識も、両者は近いのではないか。

 マッカローコーチは、「盗塁の成否にもっとも関わってくるのが、最初の10~15フィートのスピードだ。トップスピードに乗るのが早ければ早いほど、残りの距離を速く走れるから」と指摘する。大谷は今年、その15フィートまでのスピードアップを図るべく、昨年1月からスプリントの練習を積んだ。結果、5フィート、10フィート、15フィートの平均タイムで今年、自己ベストをマークした。

大谷翔平のスプリントスピード平均タイム(秒) 【Baseball Savantのデータを元に筆者作成】

 ヘンダーソンは、スタートについてこう語る。

「リッキーより足の速いやつはいた。でも、1歩目、2歩目、3本目までなら誰にも負けなかった。4目にはもう盗塁が成功するかどうか、決まっていた」

 トップスピードというよりは、スタート。ヘンダーソンも大谷も、その点の価値観は近い。

 なお、投手のクイックのタイム(投球動作を開始してから、投球が捕手のミットに到達するまでの時間)に関して、ヘンダーソンはこう豪語する。

「1.25秒でもいける。1.32秒~1.35秒なら、歩いてでも盗塁を決められる」

 1.2秒を切れば、クイックはトップの部類。マイナーでは1.3秒を切るように指導されるが、1.3秒を超えるなら余裕でセーフになる、ということのよう。

 大谷は、投手によってリードの幅を変えるので、本人もマッカローコーチも明確なタイムを口にすることはなかったが、二盗の場合、捕手のポップタイム(捕球し、ボールを持ち替えた後、二塁へ送球し、その送球がベース上に到達する時間)と合わせて3.2秒を超えていれば、確信を持ってスタートを切っていたのではないか。

 さて、ここまでさまざまな角度で両者を比較したが、盗塁とは別のところで、共通項が感じられた。

 今回もコメントを紹介する中でそのまま訳したが、ヘンダーソンはインタビューなどで、自分のことを「リッキー」と呼ぶ。「リッキーは、〇〇だと思う」。「リッキーは、〇〇だと考えた」。まるで、第三者のような視点で自分を語るのが常だったのだ。

 大谷も自分を客観的にみているようなところがある。試合後の会見では、非常に冷静にプレーを振り返る。かつて、イチロー(マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)にもそういうところがあって、「イチローは」と言い出しそうな雰囲気があった。

 自分のプレーを俯瞰できるかどうか。トップアスリートに求められる特性でもあるかもしれない。彼らはそれをテクニックとして身につけ、意識的に行っているのか。あるいは、無意識なのか。

 もっとも、ヘンダーソンを取材していたベテラン記者にそう尋ねると、「彼の場合、一人称に深い意味はないと思う」と苦笑した。

「あれは、ただの口癖だから」

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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