RBライプツィヒの巨大施設に潜入! 最先端技術も活用…「RB大宮」の未来がここにあり!?

舩木渉

最新技術を活用したトレーニング施設に潜入

VRトレーニングについて説明するニルス・ガツマガ博士(左)とデモ役を務めたアントン・ブラント(右) 【写真:舩木渉】

 意欲にあふれた若者たちがさらなる成長を追い求められる環境も整っている。RBライプツィヒでは最新技術を活用したトレーニングを積極的に導入しており、今回の取材ではその一部が紹介された。

 VRヘッドセットを着用した選手とともに我々を迎えてくれたのは、専任のスポーツ心理学者としてRBライプツィヒに在籍するニルス・ガツマガ博士だ。

「サッカーではボールを受ける前に必ず周囲の状況を認知しなければなりません。これは非常に重要です」

 RBライプツィヒではノルウェーの企業と共同開発した「Be Yout Best」というアプリケーションを使い、選手たちの認知力向上を目指したトレーニングを実践している。VRヘッドセットを着けると周囲にはまるでピッチ上にいるかのような光景が3Dで映し出され、ミニゲームのような形のセッションが始まる。

 すると選手は首を振って周囲の状況を確認しながらコントローラーを操作してプレーを選択していく。セッション終了後には正しいポジションに立ってボールを受けられたか、そのうえで最も適した次のプレーを選択できたかなどが詳細に数値化される仕組みだ。途中には数秒前の一瞬の光景が静止画として表示され、ハイライトされた選手が味方だったか相手だったかを当てるクイズも組み込まれていた。

 デモンストレーション役を担ったRBライプツィヒU-19所属のアントン・ブラントは、このVRトレーニングを約2年間にわたって続けているといい「ピッチ上でもここで取り組んでいることが助けになっています。最適なプレーを選択するための認知は非常に重要ですし、ピッチ上で生きると感じます」と述べる。チームの全体練習とは別に行う補助トレーニングではあるが、「リアルになってきていて、練習ですけどビデオゲームのような形で少し楽しみながらできるのもいいと思います」と非常に気に入っている様子だった。

 ガツマガ博士によれば、ブラントはグラウンドでの練習前にも寮の自室でVRヘッドセットを着けて脳を活性化するようなウォーミングアップを行ったり、練習後にリラックス効果のあるVRコンテンツに取り組んだりしているという。もし負傷離脱中でもVRであれば擬似的にグラウンド上の状況を再現しながらのトレーニングが可能で、今後さらに活用の幅は広がっていきそうだ。

 ガツマガ博士は「あくまでグラウンドでのトレーニングが第一で、これは追加トレーニングになります」と強調しつつ、次のように述べる。

「バルセロナでプレーしていたシャビがボールを受ける前に、どれだけ周囲の状況を確認しているかを詳しく調べた科学的研究があります。それによると彼はパスを受ける前の10秒間で8回から10回のスキャンを行っていることがわかっています。アントンはまだ2回から3回しかできないかもしれませんが、それを自覚しながらトレーニングを積めば、ピッチ上でもっと回数を増やしていけるでしょう。VRでのトレーニングはそうした個々の取り組みを補助するためのものになります」

360度スクリーンで試合を再現!?

SoccerBot360のデモンストレーションを披露するアントン・ブラント 【写真:舩木渉】

 次に紹介されたのは「SoccerBot360」だ。天井に吊るされたプロジェクターから周囲360度を囲む32枚のパネルに映像が投影され、まるでピッチに立っているかのような環境を再現できるVRトレーニング設備の一種である。

 こちらもゲームのような形で認知能力向上を図ることができる。「空いたゴールに何回ボールを入れられるか」や「指示と同じ形のブロックにボールを当てる」「動く的に当てた数を競う」など多彩なミニゲームが用意され、それぞれの難易度は選手の年齢やレベルに応じて細かく調整できる。

 筆者もハイライト表示されたゴールにボールを蹴り込んでいくミニゲームを体験させてもらったが、どこに空いたゴールがあるかを確認しながら動き、次のターゲットを予測してパネルから跳ね返ってくるボールを正しい場所にコントロールしなければならないなど難易度は非常に高かった。

「SoccerBot360」の魅力はボールを使った実践的なトレーニングを積めることだけではない。天井に吊るされたカメラは1秒間に120枚の画像を撮影でき、それらを動作解析や選手へのフィードバックに活用することが可能。また、360度スクリーンには過去の試合を再現した3D映像を1分の1スケールで投影できるという。

タブレット片手に説明するトム・スタッキー氏の背後には1分の1スケールで試合を再現した選手目線の映像が投影されている 【写真:舩木渉】

 デモンストレーションを担当したRBライプツィヒU-13監督のトム・スタッキー氏は次のように説明する。

「これまでは試合の分析や振り返りに俯瞰で撮影した映像しか使えませんでした。しかし、『SoccerBot360』では全ての選手の動きを本物と同じに再現できるので、まるでピッチ上に立っているかのような視点で試合を分析できます。その選手から実際にはどこが見えていて、どこが見えていなかったのか。本来立っているべきポジションと見ておくべき場所はどこだったのか。その状況ではどんなプレーが最適だったのか。そういった細部に至るまで選手の目線に立ってフィードバックすることができるのです」

「SoccerBot360」はゲームセッションの難易度調整や映像の視点変更などをタブレットから簡単に操作できる。そのためトップレベルの選手からアカデミー所属の若い選手まで、年代やカテゴリに合わせて設定を最適化しながら活用できるのも魅力だという。

 レッドブルグループではここまでに紹介した設備や最新機器を導入したトレーニング施設をブラジルやニューヨークにも建設している。特にアカデミーをはじめとした若手育成を重視しており、今後は大宮も含めたグループ内での人材交流にはじまり、現場レベルでの練習メソッドの共有や機材導入、設備投資などが急速に進んでいくだろう。大宮のアカデミーにも「認知」を重視する育成のノウハウや最新機器が導入されれば、若手選手がこれまでとは違った刺激を受けて急成長を遂げるかもしれない。

 いずれはRBライプツィヒのクラブハウスのような施設が日本にも……。レッドブルとRB大宮が日本サッカー界に革命を起こす存在になるのではないかと、夢は膨らむばかりだ。RBライプツィヒだってコンテナのロッカールームから始まったのだから。

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著者プロフィール

1994年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。世界20カ国以上での取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、Jリーグや日本代表を中心に海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。

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