大宮はレッドブル買収でどう変わっていくのか? 「RB」トップ会談で見えてきた理想の関係性

舩木渉

RBライプツィヒのヨハン・プレンゲCBO(左)と大宮アルディージャの原博実フットボール本部長(右) 【写真:舩木渉】

レッドブルが日本に進出

 大宮アルディージャはこれからどうなっていくのだろう――。

 今年8月、大宮はレッドブル・ゲーエムベーハーへの株式譲渡を発表。同10月には来シーズンからクラブ名を「RB大宮アルディージャ」に変更すると明らかにし、Jリーグ史上初となる海外資本によるクラブ買収が成立した。

「レッドブル」はただのドリンクメーカーではない。エクストリームスポーツやアーバンスポーツ、eスポーツと呼ばれる若者に人気の新興競技を積極的にサポートし、知名度や認知度の向上に大きく貢献してきた。またF1にも参戦しており、モータースポーツの世界でも絶大な存在感を発揮している。

 サッカーにおける「レッドブルグループ」はヨーロッパのみならず北米や南米にもクラブを保有し、イングランドの名門リーズ・ユナイテッドやフランスの古豪パリFCの経営にも少数株主として関わってきた。現在は保有クラブこそないが、アフリカにも強力なネットワークを構築している。

 では、なぜ大宮だったのか? 来シーズンからJ2に昇格するクラブはどのように変わっていくのか?

「1年から1年半をかけて協議を続け、いろいろなものを分析しながら物事を進めてきました」

 そう語ったのはレッドブルグループのテクニカルディレクター(TD)としてスポーツ部門を統括するマリオ・ゴメス氏だ。

予定にはなかったが、急きょ取材に応じてくれたマリオ・ゴメスTD 【写真:舩木渉】

 筆者は12月中旬、大宮の経営陣やスタッフの視察に同行する形でドイツ・ライプツィヒを訪れた。そこにはレッドブルグループで最も世界トップレベルに近いクラブ「RBライプツィヒ」が本拠を構えており、ホームゲーム開始直前にたまたま会場入りしていたゴメス氏に話を聞くことができた。

「(クラブ買収の過程で)大宮のスタジアムはどこにあるのか、ファン・サポーターの皆さんがクラブにどういう関わり方をしているのか、地域のコミュニティはどうなっているのかなどを様々な角度から分析してきました。もちろん目の前の試合に勝つことは大事だと思いますが、そのために急に何かを大きく変えるのではなく、ステップバイステップでしっかりと積み上げていきたい。それは私が関係しているグループのどのクラブも全く同じ考え方です」

なぜ大宮アルディージャだったのか

ヨハン・プレンゲCBOはローカルコミュニティとのつながりの重要性を何度も強調していた 【写真:舩木渉】

 かつてドイツ代表としても活躍したゴメス氏の話を聞く直前には、RBライプツィヒのヨハン・プレンゲCBO(最高ビジネス責任者)と大宮の原博実代表取締役兼フットボール本部長(2025年1月より新社長に就任)の対談セッションが催された。

 その場でプレンゲCBOが強調したのはコミュニケーションの重要性だった。「サッカークラブとして本当に大事なのは、ローカルコミュニティを構築し、そことしっかりつながっていくことだと思っています。そうすることによってアイデンティティが生まれ、より良いものを築き上げられるのです」と語るRBライプツィヒのトップは、次のように続ける。

「私たちがRBライプツィヒとしてスタートした2009年当時、クラブは5部リーグに所属していました。そこから現在のようにインターナショナルなクラブに成長し、ライプツィヒにはヨーロッパだけでなく世界から興味を持っていただけるようになりました。

今では世界中から様々な方が試合観戦に訪れてくれますし、国外のクラブと対戦する機会も増えています。そうしたインターナショナルなコミュニティをしっかり築き上げるためには、まずローカルコミュニティを大事にした基盤を築き上げたうえで輪を広げていくべきだと考えています」

 先に述べたように、レッドブルグループは世界中にネットワークを張り巡らせている。しかし、これまでアジアとのつながりは薄かった。だからこそ次にアジア進出を狙うのは自然な流れだったと言えよう。

 そこで大宮と関係を深めていこうとしたのはなぜか。ゴメス氏やプレンゲ氏の発言からその背景を分析してみると、様々な要因が浮かび上がってくる。大宮という街の地理関係、周辺地域の経済力、地元に根づくサッカー文化、すでに確立されたファンコミュニティ、そしてアカデミーも含めたクラブ全体が持つポテンシャルの大きさも高く評価されたはずだ。

 さらに視野を広げると、クラブ運営の自主性が担保されず将来が見通せない中国や、閉鎖的でリーグ内のヒエラルキーが確立されている韓国、発展途上で国際的なプレゼンスの弱い東南アジアなどと比較した場合、日本にはアジアのトップレベルで存在感を発揮するための安定した土壌がある。近年の低迷によって失ったものは多いが、新たに導入する一貫した哲学のもとでクラブを育てていけば、大宮にはトップレベルを目指せる力がある。

アルディ&ミーヤの残留もレッドブル流!?

RBライプツィヒは地元からの反発を乗り越えて多くのファンを獲得。熱狂的なサポーターがスタジアムを埋め尽くす 【写真:舩木渉】

 かつてライプツィヒが5部リーグからヨーロッパの舞台まで駆け上がっていったように、大宮も「RB」を冠することで急成長を遂げるかもしれない。レッドブルグループには世界中でクラブを運営してきた経験によって積み上がった膨大な知見があり、それらを日本でも活用していくつもりのようだった。

 プレンゲCBOは言う。

「新しく何かを始めるときに、いろいろな考えやいろいろな意見をいただくことはもちろんありました。そういった中でも皆さんの意見をしっかりと受け入れるところからスタートするのが重要です。

クラブを取り巻く状況や環境、ファン・サポーターの皆さんの考えなどを全て受け入れた上でしっかりと分析し、どういったことが大切かを整理して、アイディアや経験を持ちながらポジティブに進んでいくことが大事だと思っています」

 来シーズンから大宮は「RB大宮」に生まれ変わるが、クラブ名には「アルディージャ」が残り、クラブカラーであるオレンジも受け継がれる。長らく愛されてきたマスコットのアルディとミーヤの“残留”も決まった。全てをひっくり返すような劇的な改革を試みるのではなく、歴史にも敬意を払いながら前進していく姿勢は、レッドブルグループが過去の失敗から学んでいる証拠だ。

 例えばザルツブルクでは70年以上の歴史を持つSVアウストリア・ザルツブルクを買収した際、クラブのアイデンティティを否定するような急激な変化を起こし、ローカルコミュニティからの大きな反発が生まれた。RBライプツィヒもルールの抜け穴を突くような手法でのリーグ参戦が問題視された過去を持つ。ブラジルでは独自のリーグシステムに翻弄され、クラブ運営が頓挫しかけた。

 そうした苦い経験も糧としながら積み上げてきた知見をどのように生かして大宮の成長につなげていくのか。2000年代からレッドブル・サッカー・インターナショナルに関わってきたプレンゲCBOは「日本の皆さんと一緒に仕事をすることでいろいろなことを学びながら、私たちとしてもさらに成長できると考えています」と、グループ内での相乗効果に期待を寄せていた。

「例えば日本人の規律の素晴らしさや尊敬を持って物事に取り組む姿勢、礼儀正しさ、どんなことにも全身全霊をかけてハードワークするところなどは、私たちが日本の皆さんから学べるチャンスだと思っています。そういったところがアグレッシブなプレスやインテンシティを重視し、攻撃的な私たちレッドブルグループが掲げるサッカースタイルの進化にもつながってくるのではないでしょうか」

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著者プロフィール

1994年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。世界20カ国以上での取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、Jリーグや日本代表を中心に海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。

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