【新旧女王対談:後編】あんな試合がしたい――晝田瑞希がアメリカで見据え、藤岡奈穂子さんも期待するビッグマッチとは?
1⽉17⽇にアメリカ・デビュー戦を迎えるWBO⼥⼦世界スーパーフライ級王者の晝⽥瑞希(左)と元女子世界5階級制覇王者の藤岡奈穂子さん 【写真:伊藤キコ】
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「私が魅力的な選手になれば、女子ボクシングも盛り上がる」
晝田 うん、そうですね。プロの女子は1ラウンド2分しかないから(アマチュアの女子は1ラウンド3分)、KOするのは難しいと思うんですね。あ、あと少し時間があったらできたのに、とか。相手も結構、逃げ切れちゃうから難しいんですけど、やっぱりKOはしたいですし。
藤岡 KOしてるもんね。
――それもロサンゼルス合宿に行くようになってから、ここ2戦続けて。
晝田 まあ、最近は……一応……。
――どうして声が小さくなっちゃうの?(笑)
晝田 まだね、たまたまかもしれないから(笑)。
藤岡 たまたまでもいいんだよ。たまたまでも倒せないんだから(笑)。
晝田 でも、ほんとに1回、チャンスを逃したら、次があるか分からないぐらい時間がないから。ここ、というときに行けるかどうかがすごい大事だと思ってて。そのための材料をずっと集めてるような感じ。まだほんとに。
――例えば、その材料というのは?
晝田 私はアマチュアの感覚があるから、当てて、引いちゃうんですよね。もらいたくない、が強くて。で、せっかく当てたのに、なんで行かないの? なんで下がっちゃうの? って、アメリカではめっちゃ言われるんですね。当てたら引くんじゃなくて、横に動いて、ボディを打って、また横に動いてとか。相手が嫌がるポジションを継続して取るとか。
――離れるんじゃなくて、ディフェンスも意識しつつ、角度を変えて、攻め続けるような。
晝田 そう。それをミットだったり、スパーリングだったり、シャドーでもそうだし、そういう動きを繰り返し、繰り返し。その中にウィービングとか、ダッキングを入れるので、リングにヒモを張って、それをくぐる練習をしたり。そもそも、そういう動きを今までやったことがなかったんですよ。
藤岡 ウィービングとか? そうなんだ(笑)。
晝田 そうなんですよ。だから、最初にアメリカに行ったときは、動きが小さ過ぎる、とか言われたり、今もなんですけど、動きが硬くて、なめらかに動けないから、動きがロボットみたいとか(笑)。昔よりは、少しはできるようになってきましたけど。
リングに張ったヒモをくぐりながらのシャドーボクシングを繰り返す晝田 【写真:伊藤キコ】
晝田 あ、めっちゃ言われます! もっとヒザを柔らかくって。
藤岡 そう。ヒザを柔らかく使えないと連動しないから。
――藤岡さんは今の女子のレベルは高くなった、巧くなったけど、強さという部分では足りないと。まさに倒すとか、KOはプロの醍醐味だから、求めていかないといけないと言っていましたね。
藤岡 難しいんですけどね。バランスが。お客さん目線で言えば、バチバチの打ち合いとか、倒すか倒されるか、みたいなのが見たいので、きれいなボクシングだけで危険を冒さなかったら、やっぱり面白くない。でも、危険領域に踏み込んで、ムダにパンチをもらうとかじゃなくて、そこで巧さの中に強さがあるのが魅力的だから。
晝田 そうですよね。でも、それが一番、難しいんですけど。
藤岡 うん。でも海外で試合していくとなると、それがますます求められる。だから、さっき言っていた練習でやってるギリギリのポジショニングとか、ウィービングとか、すごい大事だと思う。そのスレスレのディフェンスが。
晝田 そうですよね。プロである以上、お金をもらってる以上は。
藤岡 そうね。魅せないと。お客さん、というより、ファンとしてね、つかないから。ファンになってほしいじゃない。せっかく体を張ってるんだから。
晝田 今、私が思ってるのは、女子ボクシングは盛り上がってないとかいう前に、私がもっと魅力的な選手になればいいんだって、思ってて。私がめちゃくちゃ面白い試合、バンバン倒すとか、それこそムダにもらわないで打ち合うとか。それができたら、自ずとついてくるものだと思うから。だから、まだ自分の実力不足ということなので、今は自分に目を向けてます。
藤岡 うん。相手がいる競技だから、レベルが高い者同士でやればやるほど、その中で魅せるって、ほんとに難しいことではあるんだけど、プロで、トップでやってる以上、そこを目指さないと。
海外の女子ビッグマッチに刺激
藤岡さん(左)にあやかろうと両手をかざしてエネルギーを吸い取る(?)晝田 【写真:伊藤キコ】
2022年4月、ニューヨークの殿堂マディソン・スクエア・ガーデンを舞台とした女子では初のメインで行われた両者の第1戦は女子ボクシングの金字塔、観衆を熱狂させる激闘となり、プロに転向したばかりの晝田も大いに刺激を受けていた。
今回もまた大熱戦が繰り広げられ、セラノがテイラーに再び惜敗したが、アメリカ・デビューが現実に近づく状況で見た第2戦は、より自身の目指すべき姿として晝田の目に映っていた。
晝田 この前のロサンゼルスにいる間に「ケイティー・テイラー×アマンダ・セラノ2」があって、『Netflix』で見てたんですけど。ほんとにすごくて、感動しちゃって。あれぐらいパワフルで、見てる人たちも、本人たちもエキサイトするような、あんな試合を私もしたいな、と思って。
藤岡 同じぐらいのレベル同士でやれたらね。
晝田 そうですね。あれはほんとにレベルが高い同士で、お互いめっちゃ怖いだろうな、と思いますけど。
藤岡 でも、楽しいと思う。楽しいだろうし、ああいう大きな会場、大観衆の前でやることで興奮もするだろうし。
晝田 そうですよね。ああいうのを自分の憧れとして、常に忘れずにいたいな、と思いますし。あのアマンダ・セラノの(右目の上の)カット、めっちゃヤバかったじゃないですか。それでも彼女は「できる」って言って、最後までめちゃくちゃ打ち合いましたよね。「どんな根性!?」って思ったんですけど。
藤岡 アドレナリンも出てるし、負けず嫌いも出てくるだろうし。強い気持ちがないと。
晝田 はい。私も、どんな状況でも、何が起こっても強くありたい、強い人になりたいと思ってます。
――大きい会場ということでは、藤岡さんの最後の試合の舞台になったアラモドームも。
藤岡 そうですね。あのときは2万人かな? あれでも半分ですけどね。
――最大4万人ですか。そういう先輩がいるわけだから、目標にできますよね。
藤岡 いや、やれますよ。可能性はあると思います。
晝田 エネルギーを吸い取っておこう……(と藤岡さんに向かって両手をかざす)。
(一同笑)
藤岡 いけるよ、いけるよ、全然(笑)。
晝田 今のでいける気がしてきた(笑)。
藤岡 でも、イメージは大事。ここでやりたいじゃなくて、やるんだって思わないと。向こうで試合も観に行ったでしょ?
晝田 はい。前にラスベガスにも行って。マジで祈ってきました(笑)。
藤岡 ここでやれますようにって?(笑) いや、大事、大事。