石川祐希から続く中大→イタリア派遣 「ずっと行きたいと思っていた」舛本颯真らが誓う海外での成長

田中夕子

のべ12人が在学中に海外へ

記者会見でマイクを手に海外派遣への抱負を語る舛本颯真 【写真:田中夕子】

 バレーボールだけでなく人間力も磨く。そんな目的のもと、中大の海外派遣プロジェクトが本格的に始動したのは2016年。2年前の14年に当時中大1年だった石川祐希がモデナへ渡ったことを機に、後援会のサポートを受け、次世代の選手育成を目的とした中大独自のプロジェクトがスタートした。

 石川は16、17年にラティーナでプレー、中大卒業後にはイタリアでプロ選手としてプレーし、現在はイタリアでもトップクラブであるペルージャでプレーする。一歩ずつ自らのキャリアを切り拓いてきた石川が常々「自分にとって大きなきっかけになった」と話すのが、大学在学時のイタリア派遣だった。

 石川がいたから成り立ったというだけにとどまらず、以後、中大は継続して海外派遣を続けてきた。コロナ禍で渡航に制限がかかった数年は断念せざるを得なかったが、先駆者となった石川から昨年の笹本穏までのべ12人の学生が在学中に海を渡った。

 そして今季も新たに舛本がセリエA2のシエナへ、リベロの土井柊汰がA3のサントナへ、アウトサイドヒッターの坂本アンディ世凪がA1のヴェローナへ派遣される。在学時に得る貴重な機会を野沢憲治監督は「行く前に明確な目標を持って、現地での経験を選手、人間として成長するきっかけにしてほしい」と語る。

 この日の会見に登壇した4人の4年生のうち、ウルフドッグス名古屋に入団する澤田晶、山﨑真裕、日本製鉄堺ブレイザーズに入団する柿崎晃も大学3年時に海外派遣プロジェクトにより、イタリアに渡った経験を持つ。

 当時を振り返り、ミドルブロッカーの澤田は「本場のイタリアで実際にレベルの高いバレーを経験して、ただ高い、力が強いというだけでなく技術も長けていて、いろいろな戦術がある。日本でやっていたバレーボールとは、同じバレーボールだけれどレベルが全く違って、その経験が大学でも活かされた」と言い、同じくミドルブロッカーの山﨑も「練習前に身体のケアをする選手を見て、自己管理能力の大切さを学んだ」と語る。

 ブルーノ・レゼンデやイアルバン・ヌガペトなど世界のトップ選手が多く在籍したモデナに渡ったアウトサイドヒッターの柿崎も同様だ。イタリアのトップクラブ、トップ選手たちは「練習に対する姿勢、熱量が違った」と言い、短い期間とはいえそのレベルを体感できたことが、バレーボール選手としての成長につながり、意識を変えるきっかけにもなったと明かす。

「日本では体感できない高さやスピード、ハイレベルな環境を大学生で経験できたのは、本当にいい経験でした。これから自分も参戦するSVリーグは、どのチームにも外国籍選手がいる。そこでどれだけスパイク、レシーブが通用するかをはかる目安を自分の中で持てたと思っているので、レシーブ、スパイクもできるオールラウンダーとして、石川祐希選手のような存在になりたいです」

海外を経験し次世代にバトンを

SVリーグに挑戦する中大の4選手。左から、澤田昌、山﨑真裕、柿崎晃、山根大幸 【写真:田中夕子】

 高校から大学、そして大学からSVリーグ、さらには世界へ――。

 新たなチャレンジをするたび、常に壁もそびえるが、それこそが成長の糧になる。野沢監督はこう言う。

「海外派遣をする3選手は高校の頃から実績もある選手ですが、もっと高いレベル、世界へ飛び出せば今までの実績では通用しないし、何より言葉が通じない中でどれだけコミュニケーション能力を身につけ、壁を超えていけるか。海外を経験してSVリーグへと飛び出していく4年生たちのように、プレーだけでなく、いろいろな経験から学びを得てほしい。人間として大きく成長して帰ってくることを期待しています」

 石川が最初に飛び出した世界へ、さらなる成長を求め、多くの選手たちが後を追い、それぞれの挑戦を経て成長を遂げた。日本代表としてパリ五輪に出場した髙橋藍、甲斐優斗はまさにその象徴であり、そんな姿を見て同じ大学生だけでなく、高校生たちも「海外でプレーしたい」と口にする選手が増えた。

 身長182センチ、体格だけを見れば舛本はアウトサイドヒッターとして恵まれているわけではない。むしろ日本でも小さいと言われる部類に属する選手だ。だが今回の挑戦で殻を破り、ひと回りもふた回りもたくましい選手になって帰ってきた姿を見たら、きっとまた、次の世代に「自分もああなりたい」とバトンがつながっていく。

 イタリアでの2カ月を経て、帰国したときに3選手がどんな姿を見せるのか。そして在学中の海外経験を経てSVリーグへ挑戦する3選手、さらにはその姿を見て「自分は日本でもっと強くなる」と成長を遂げ、柿崎と共に日本製鉄堺ブレイザーズへ入団するミドルブロッカーの山根大幸も含めた中大から巣立つ選手たちがどんな未来をつくるのか。

 これからへと続く楽しみは、広がるばかりだ。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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