Jクラブユースへ有望株が流れる中でも… 変わることのない「高校サッカー選手権の価値」
“高校年代最強”を結果で証明した大津
高体連チームのレベルがJクラブユース勢に見劣りしないことは、今季の高円宮杯プレミアリーグWESTを圧倒的な強さで制し、初の日本一にも輝いた大津が証明する 【土屋雅史】
「プレミアリーグの監督フォーラムでも、『このリーグから日本代表が生まれるんだという自覚を持って臨みましょう』ということを必ず言われるので、僕らもそこに参加している以上は、その責任を持ってリーグ戦を戦っていきたいなと思っています。今回は優勝という形にはなりましたが、優勝を目指して戦うというよりは、1つ1つの試合に向けて準備をしていくプロセスを通して、選手とチームを育成したいというのが僕らのプレミアリーグに対する考え方ですね」
今季のプレミアリーグWESTでの大津の成績は、18勝1分け3敗、66得点・21失点。1試合平均3得点に達する攻撃力を誇り、やはり1試合平均で1失点を下回る鉄壁の守備力も有する圧倒的な強さでリーグ制覇を果たすと、ファイナルでもEAST王者の横浜FCユースに3-0と快勝。“高校年代最強”の看板に偽りなしの結果を手繰り寄せた。
1シーズンを通じた総合力を問われるリーグ戦の、しかも国内トップレベルのコンペティションで、青森山田と大津が堂々とタイトルを獲得した事実は、高体連のチームのレベルが、Jクラブユースのそれと比べて決して劣っていないことを明確に示している。
「名和田我空(神村学園)や高岡伶颯(日章学園)のような逸材もいますし、我々から見た高校サッカーの価値は以前とそんなに大きくは変わっていないと思います」
前述のJクラブスカウトは、そう明言する。実際、大津は碇明日麻(水戸ホーリーホック)、嶋本悠大(清水エスパルス入団内定)と2年続けて高卒のプロ選手を輩出しており、選手の育成や発掘という観点でも、依然として高校サッカーが担っている役割は小さくない。
スター選手だけが脚光を浴びるのではない
今大会に出場する選手でプロ入りが内定しているのは、英国へ渡る日章学園の高岡を含めてわずか7人。だが、選手権はスタープレーヤーだけのものではない 【写真は共同】
「やっぱり選手権は1年間の最後の大会なので、今までみんなでやってきたサッカーを良い形で終わらせようという想いが強いですね。そもそもプレミアリーグと比べて、どっちが盛り上がっているとか、どっちのレベルが高いとか、そういったところで比較するようなものではないのかなと思っています」
当たり前だが、すべてのプレーヤーがプロサッカー選手になれるわけではない。真剣に取り組むサッカーという意味では、選手権が最後の大会になる選手だって少なくない。だからこそ、日本中でサッカーと真摯に向き合っている高校生たちにとって、今も昔も変わらず選手権は、自分を主役として捉えられる最高の晴れ舞台であり続けているのだ。
今年の第103回大会に出場する選手の中で、来季からプロ入りする選手はイングランドのサウサンプトンに加入する高岡も含めてわずかに7人のみ(12月21日現在)。以前より“目玉選手”が少なくなったと見る向きもあるが、スタープレーヤーだけが脚光を浴びるわけではないのも、選手権の大きな魅力だ。青森山田と近江が対峙した前回大会の決勝も、両チームにJ内定選手は1人もいなかったが、5万5000人を超える観衆が“普通の高校生”のプレーに大いに沸いたことも、それを証明している。
もちろん勝負事だから、勝ち負けはある。国立競技場で行われる最後の1試合まで勝ち続けられるチームは、たった1校だけだ。だからこそ、3年生が負けた時に流す涙の価値は、彼らが3年間で積み上げてきたものに過不足なく比例する。
今年の地区予選の決勝で敗れたあるチームの3年生が、涙交じりの笑顔で話していた言葉が忘れられない。
「凄い応援の中で試合をやれて、たぶんメッチャ笑っていたと思うんですよ。もう『楽し過ぎる!』というか、本当に最高でした」
きっと彼は、高校サッカーを存分にやり切ったのだと思う。
冒頭のワッキーの話には、もう少しだけ続きがある。
「自分にとって選手権の思い出は、死ぬ時に必ず走馬灯の中に映し出されるワンシーンかなって。何だったら一番長く映し出されるような気がします。芸人生活で楽しかった日々みたいなものも、たぶんそこに映し出されるんだろうけど、それよりもやっぱり高校サッカーの3年間だなぁ」
今を生きる高校生たちも、10年後や20年後にこの言葉の意味がはっきりと理解できるはずだ。我々にできるのは、そんな彼らをとにかく温かく応援することだろう。とりわけ選手権はそれでいいと、個人的には強く思っている。
今年も多くの人の想いが込められた祭典が、間もなく幕を開ける。
(企画・編集/YOJI-GEN)