錦織圭の2024年は「ゼロに戻す1年」 35歳の新シーズンは勝負の年に

秋山英宏

9月に行われたジャパンオープンの際に、錦織は自身が感じている現状への手ごたえについて語った 【写真:REX/アフロ】

トップ10にかなわないとは思っていない

 9月に東京・有明で行われた木下グループ・ジャパンオープンでは8強入りした。この大会で、報道陣と間に印象的なやりとりがあった。

 開幕前に記者会見を開いた錦織は「トップ10には到底勝てないところにいるのかなと、ちょっと思ったりはします」と話した。大事な場面で、プレーの選択を誤ったり、つまらないエラーをしてしまったりするところがあり、それが気になる様子だった。自分がトップ10にいた頃のレベルまで試合勘が戻っていないと感じていたのだろう。

 しかし、この大会で3試合を戦ったのち、コメントを大幅に修正した。

「(トップ10のレベルに)だいぶ近づきましたね。3試合通して、かなりいいフィーリングはあった。正直、トップ10に到底かなわないとは心の中ではあんまり思ってなくて、ちょっと口に出して言っちゃいましたけど、どっかでいけるんじゃないかなとは思いながら、ああいうことを言っちゃったので、申し訳なかったです」

 同大会の1回戦で、錦織は2014年全米オープンの決勝で敗れたマリン・チリッチ(クロアチア)をフルセットで倒した。2回戦では、初戦で第3シードのカスパー・ルード(ノルウェー)を破って勝ち上がったジョーダン・トンプソン(豪州)に圧勝した。準々決勝では、敗れたものの、気鋭の若手、14位のホルガー・ルネ(デンマーク)をマッチポイントまで追い詰めた。

 ただし、その3試合で「いいフィーリング」を得たからトップ10に近づいたと感じたのではなく、大会開幕の時点で、その手応えがあったというのだ。

 大言壮語するタイプではない。「いける」という言葉を一度は自粛したくらいで、慎重に言葉を選ぶ。2回戦でも「これが続いてくれれば、トップ10に対しても戦える兆しは見えてくる。まだ1試合だけなので、油断せず、というところ」と、会心の試合にしては抑えたコメントだった。だからこそ「かなわないとは思っていない」という言葉に信憑性がある。それが本音なのだ。

 2024年12月上旬、チャリティイベントに出場した錦織は、報道陣の前でシーズンを振り返り、2025年への意気込みを語った。

「大変な1年ではあったが、なんとか終盤に、まあまあの結果も出た。100位(付近)に戻ってきて、やっとスタート地点に立ったなという思いはあります。前半は、ひざ、肩と、いろんなケガがあったが、なんとかゼロに戻ってきた。プレーも悪くないですし、来年に向けて、いい準備ができたかなと思います」

 ゼロに戻ったという表現がリアルだ。故障の不安が消えたと同時に、地固めができて、戦う体勢が整ったという意味だろう。

 2024年は「ゼロ」に戻すための1年だった。35歳で迎える新しいシーズンが、本当の勝負になる。

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著者プロフィール

テニスライターとして雑誌、新聞、通信社で執筆。国内外の大会を現地で取材する。四大大会初取材は1989年ウィンブルドン。『頂点への道』(文藝春秋)は錦織圭との共著。日本テニス協会の委嘱で広報部副部長を務める。

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