独自の言葉で振り返る、大谷翔平の2024年

今季終盤の得点圏打率は驚異の.857 それでも大谷翔平が「クラッチヒッター」ではない理由

丹羽政善

8月31日のダイヤモンドバックス戦、初回の打席に向かう準備をする大谷翔平(ドジャース) 【Photo by Christian Petersen/Getty Images】

 ここで大谷翔平(ドジャース)が打ったら、蜂の巣を突つくどころか、一周回って静寂が訪れるのでは、と脈の上がったシーンが今年、何度かあった。特に9月25日と26日(現地時間、以下同)のパドレス戦での打席は、試合展開、いや、シーズンの行方をも左右しかねず、あそこまでファンを熱狂させる条件が揃ったケースは、類を見ない。

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9月25日
・前日の試合。2点を追う九回、ドジャースは無死一、二塁としながら、トリプルプレーでゲームセット。大谷はネクストバッターズサークルから、しばらく動かなかった
・前日の試合で負けたことで、ドジャースとパドレスのゲーム差は「2」に縮まった
・四回、大谷の二塁打でリードしたドジャースだったが、五回に追いつかれた
・六回、再び勝ち越しの好機で大谷が打席に
・勝てば、地区優勝のマジックナンバー2

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9月26日
・前日の試合に勝ったが、この試合は六回まで無失点。0対2とリードされ、劣勢
・七回、ついに追いつき、なおも1死一、二塁という勝ち越し機で大谷が打席に
・勝てば、ドジャースは地区優勝。
・負ければ、地区優勝の行方は最終シリーズへ。

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シンカー攻めは諸刃の剣

 まずは9月25日。同点の六回、2死一、二塁で大谷が打席に入ると、パドレスは左のエイドリアン・モレホンにスイッチ。大谷は2球で追い込まれたものの、2-2からの5球目、外角高めのシンカーをセンターへ運んだ。

 駆け引きそのものにも見応えがあった。

9月25日のパドレス戦、六回に迎えた大谷翔平の第3打席 【参照:MLB.COM「Game Day」】

 相手バッテリーにとって3球目のスライダーは、追いかけてくれれば“もうけもの”程度の球。勝負球は、4球目のシンカー。ただ、これがやや外れた。

 大谷は後半に入り、左投手のボールになる外角のスライダーを振らなくなったが、一方で、外角いっぱいのシンカーを見逃す傾向があった。外角に同じような軌道で向かってきて、一方は外へ遠くはずれ、一方は中に入ってくる。大谷といえどもその見極めは容易ではく、相手はその定石をなぞった。

 果たして4球目は見逃したのか、手が出なかったのか。

 大谷に聞くと、「自分のストライクゾーンを維持できている」と話し、“見逃した”ことを示唆したが、正面から答えることはなかった。その際の詳細なやり取りは、今回のテーマから外れるので深掘りしないが、いずれにしても5球目、今度はシンカーがやや中に入り、大谷はその球を捉えた。

9月25日のパドレス戦、六回に勝ち越しタイムリーを放った大谷翔平(ドジャース) 【Robert Gauthier/Los Angeles Times via Getty Images】

 こうした攻めのパターンはすでに相手に浸透していたが、ロッキーズのオースティン・ゴンバーがこんな話をしてくれた。

「その攻めは、ミーティングでも話題になった。でも、外角いっぱいにシンカーを投げるのは簡単じゃない。曲がりすぎると、中に入ってしまう。そうしたら、捉えられる」

 モレホンからの適時打はその言葉を図らずも、証明した。

 なお、この日だけで2本の勝ち越し適時打を記録した大谷。好機でバットを振れば、全部ヒットになる感覚か? と試合後に聞かれたものの、返しはそっけなかった。

「うーん、どうなんですかね。打席に入ったらもう何も考えていないというか、本当にその打席に集中しているので、あんまり打てそうだな、打てなさそうだなっていうのも、意識はしてないですかね、いまは」

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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