独自の言葉で振り返る、大谷翔平の2024年

今季終盤の得点圏打率は驚異の.857 それでも大谷翔平が「クラッチヒッター」ではない理由

丹羽政善

風化した大谷「チャンスに弱い」論争

9月26日のパドレス戦、七回に勝ち越しタイムリーを放ち、雄叫びをあげる大谷翔平(ドジャース) 【写真は共同】

 翌26日の試合は、七回表を終わった時点で2点のビハインド。六回までパドレスのジョー・マスグローブに抑えられ、散発4安打、無失点。重苦しい空気が流れていた。

 しかし、不振だったウィル・スミスが同点2ランを放ち、1死一、二塁で大谷が打席へ。マウンドにはこのときのために7月末、トレードで獲得したといってもいい、左のタナー・スコットがいた。

 100マイル近い真っ直ぐが特徴だが、なぜかここではスライダーを続けた。大谷は見逃せばボールかもしれない外角高めのスライダーを引っ張ると、打球はゴロで狭い一、二塁間を抜けた。大谷による二夜連続の決勝タイムリーによって、ドジャースは地区優勝を手繰り寄せたのだった。

 後述するが、この頃の大谷は神がかっていた。しかし、むしろそれまでは、“チャンスに弱い”というレッテルを貼られていた。

 3月20日の開幕から4月30日まで、走者がいないときの打率は.413だったが、走者が得点圏にいる場合は.184。8月の1カ月間は、21打数2安打で打率.095。

 デイブ・ロバーツ監督は度々「チャンスになると、なんとかしようという気持ちが強すぎるのか、ゾーンを広げてしまう傾向がある」と苦言を呈した。ボール球に手を出していることが原因だと指摘したわけだが、それは必ずしも正しいとはいえなかった。

 シーズン全体を通して、ボールを振る確率を見てみると、こういう結果になる。

走者なし 30.9%
得点圏 25.8%


 得点圏の方が5.1%も低い。ただ、得点圏での不振が顕著だった4月と8月では、こういう数字が出ている。

ボールを振る確率(開幕〜4月30日/8月)
得点圏 31.6%/31.0%
走者なし 27.0%/27.0%


 この期間に関しては、ロバーツ監督が正しかった。

 ちなみに、冒頭で紹介した2打席を含む9月19日から、ワールドシリーズ最終戦までの得点圏打率は14打数12安打で、打率.857。これはこれで異常値だが、シーズン終盤、ポストシーズンというもっとも必要とされるときに、ピークが訪れた。それはむしろ、必然だった。

10月5日に行われたパドレスとの地区シリーズ第1戦、大谷翔平(ドジャース)は二回に同点に追いつく3ランを放った 【Photo by Keith Birmingham/MediaNews Group/Pasadena Star-News via Getty Images】

 野球において勝負強い打者のことを「クラッチヒッター」と呼ぶが、その分類にはあまり意味がない。スモールサンプルの結果であり、サンプル数が多くなれば多くなるほど、キャリア平均に近づいていくことが知られている。

 4月や8月に得点圏で打ちまくっていたら、プレーオフではどうなっていたか。大谷の得点圏打率は今年、4月30日までは.184だったが、最終的には.283に落ち着いた。キャリア平均は.293なので、もはや誤差の範囲内なのである。

 さて、冒頭で触れた2本のタイムリー。さすがに静寂が訪れることはなかったが、あの瞬間、ドジャー・スタジアムの記者席にいて、足元に振動を覚えた。歓喜の雄叫びが、球場全体を揺らしたのだった。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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