今季終盤の得点圏打率は驚異の.857 それでも大谷翔平が「クラッチヒッター」ではない理由
風化した大谷「チャンスに弱い」論争
9月26日のパドレス戦、七回に勝ち越しタイムリーを放ち、雄叫びをあげる大谷翔平(ドジャース) 【写真は共同】
しかし、不振だったウィル・スミスが同点2ランを放ち、1死一、二塁で大谷が打席へ。マウンドにはこのときのために7月末、トレードで獲得したといってもいい、左のタナー・スコットがいた。
100マイル近い真っ直ぐが特徴だが、なぜかここではスライダーを続けた。大谷は見逃せばボールかもしれない外角高めのスライダーを引っ張ると、打球はゴロで狭い一、二塁間を抜けた。大谷による二夜連続の決勝タイムリーによって、ドジャースは地区優勝を手繰り寄せたのだった。
後述するが、この頃の大谷は神がかっていた。しかし、むしろそれまでは、“チャンスに弱い”というレッテルを貼られていた。
3月20日の開幕から4月30日まで、走者がいないときの打率は.413だったが、走者が得点圏にいる場合は.184。8月の1カ月間は、21打数2安打で打率.095。
デイブ・ロバーツ監督は度々「チャンスになると、なんとかしようという気持ちが強すぎるのか、ゾーンを広げてしまう傾向がある」と苦言を呈した。ボール球に手を出していることが原因だと指摘したわけだが、それは必ずしも正しいとはいえなかった。
シーズン全体を通して、ボールを振る確率を見てみると、こういう結果になる。
走者なし 30.9%
得点圏 25.8%
得点圏の方が5.1%も低い。ただ、得点圏での不振が顕著だった4月と8月では、こういう数字が出ている。
ボールを振る確率(開幕〜4月30日/8月)
得点圏 31.6%/31.0%
走者なし 27.0%/27.0%
この期間に関しては、ロバーツ監督が正しかった。
ちなみに、冒頭で紹介した2打席を含む9月19日から、ワールドシリーズ最終戦までの得点圏打率は14打数12安打で、打率.857。これはこれで異常値だが、シーズン終盤、ポストシーズンというもっとも必要とされるときに、ピークが訪れた。それはむしろ、必然だった。
10月5日に行われたパドレスとの地区シリーズ第1戦、大谷翔平(ドジャース)は二回に同点に追いつく3ランを放った 【Photo by Keith Birmingham/MediaNews Group/Pasadena Star-News via Getty Images】
4月や8月に得点圏で打ちまくっていたら、プレーオフではどうなっていたか。大谷の得点圏打率は今年、4月30日までは.184だったが、最終的には.283に落ち着いた。キャリア平均は.293なので、もはや誤差の範囲内なのである。
さて、冒頭で触れた2本のタイムリー。さすがに静寂が訪れることはなかったが、あの瞬間、ドジャー・スタジアムの記者席にいて、足元に振動を覚えた。歓喜の雄叫びが、球場全体を揺らしたのだった。