サッカーと野球~プロスポーツにおけるコンバートの意義

西武の古賀悠斗を遊撃手から捕手にした理由 高校時代の恩師・八木啓伸監督が語るコンバート論

投手向きの性格、捕手向きの性格とは?

コンバートの理由として4つ挙げた八木監督。選手の性格も見極めて決断する 【写真:山口史朗】

――古賀選手は中央大を経て2021年のドラフト3位で西武に入団。レギュラーをつかみ、昨秋(アジアプロ野球チャンピオンシップ)に続いて今秋のプレミア12でも侍ジャパンに選ばれました。コンバートは成功でした。プレーの特徴はもちろん、性格にもポジションごとの適性はあるのでしょうか?

 たとえばピッチャーは、勝負どころでスイッチが入る選手が好きですね。好きというか、ピッチャーらしくなってくるかなという。普段はのほほんとしていても、マウンドに上がるとちょっと人が変わるっていうような。

 キャッチャーはちょっとずる賢さがあるというか。いろんなことを受け流せる子。そういう感じの子がすごく合う感じはします。内野手、外野手はそんなに(向き不向きの性格は)ないとは思うんですけど。

 古賀はずる賢い一面もすごく持っていました。銀二のコントロールを活かしつつ、バッターをあざ笑うという一面もすごくありましたし。古賀はよく、「審判と仲良くなります」と言っていましたね。審判と会話をしている姿もよく見ました。

――古賀選手のほかに、コンバートがうまくいったなと記憶している選手はいますか?

 それこそ、古賀が遊撃手から捕手になったときに、空いた遊撃手に入ったのが久保田有哉という選手でした。外野からのコンバートでしたが、確か公式戦ノーエラーだったと思います。すごくうまく遊撃手をこなしてくれたっていう、良かった印象がありますね。

――何人か外野手がいるなかで、久保田選手を抜てきした理由は何だったのですか?

 気持ちの強さです。気持ちでボールを捕るというか。グラブで捕るというよりも、もう脇だろうがどこだろうが必ず捕って投げてアウトにしていました。声もよく出るし、チームを鼓舞してくれる感じで、上手い、下手よりもチームの重要なポジションにそういう気持ちの強い選手が入ることで、良い効果が出たなと。

 久保田については、先ほど2番目に挙げた「チーム構成上のコンバート」でしたけど、ある意味で古賀よりも大当たりでした。思った以上にプラスの効果が出たなと。

――単に技術だけでなく、性格的な部分も見極めてのコンバートだったわけですね。

 そうですね。そこがやっぱりすごく大事じゃないかなと。コンバートをしたことによって本人が沈むと意味があまりないので。モチベーションが上がってくれば、いろんな良い効果が出てくるかなと。

 昨年のドラフト7位でソフトバンクに入った藤田悠太郎も内野手から捕手に変わって、明確にモチベーションも上がったし、プロを目指したいという気持ちになったので。コンバートのときは「頑張ればこうなる」ということを明確に伝えてあげることは意識していますね。

山下舜平大をサードで起用したことも

八木監督は、今秋ドラフトで日本ハムから1位指名された柴田を「スケールが大きい選手」と評する。投げないときは外野やファーストで積極的に起用した 【写真は共同】

――先に挙げていただいた4つのコンバート理由のうち、「本職に付加価値を付ける」とはどんな意味ですか?

 本職を活かすために、違うポジションをさせることがあります。たとえば、投手にはよく外野をさせます。山下舜平大(現オリックス投手)にはサードをさせたりもしました。そこで足腰を鍛えたり、体全体を使って投げることを覚えさせたり。投手はわりと、④をよくやりますね。

――今秋、日本ハムからドラフト1位指名を受けた柴田獅子選手は投手と打者の「二刀流」としても注目されています。柴田投手はどんな方針で成長を促したのでしょう?

 スケールの大きい選手で、打撃がすごくよかったので、投手だけにするのはもったいないという感じでした。投げないときにベンチに置いておくのがもったいない。両方をできる限りやらせようというイメージでした。

 外野手もやらせましたし、一塁手、そして投手。外野手で体を大きく使うことも覚えるし、走ることも多くなるので。

――野手を経験したことで、どんなメリットがありましたか?

「野手の気持ち」になれることでしょう。「(投手のリズムが悪くて)守りが長いと、やっぱり野手って守りにくいんだな」とか。守っていると、「次こういうボールを投げればいいのに」と客観的に見られるというか、そういう視点が生まれてきたり。

 野手の気持ちになってほしい、考えてほしいとは常に言います。守りやすいピッチャーはすごく魅力的なので。そういうのを言葉だけで伝えるのではなく、実際に守らせて理解してもらおうと。四球がいかに野手にとってきついか、とか。打者目線で、どんなボールを投げられたら嫌かを考えなさいとも言いました。バッター心理を読むことに役に立つから、と。そういう狙いも合わせて打席に立たせていました。

――日本ハムではどんなふうに成長してくれるでしょうか。

 基本的に(どんな起用になるか)「白紙」だとうかがっています。ここから、彼が自分自身にどう色をつけていくかは非常に楽しみですね。

(企画・編集/YOJI-GEN)

八木啓伸(やぎ・ひろのぶ)

1977年8月10日生まれ。現役時代は野手で、福岡大大濠を経て立命館大でもプレー。大学卒業後は地元の福岡に戻り銀行勤めをしていたが、2004年に母校・福岡大大濠のコーチに。その後、部長を経て2010年に監督に就任した。三浦銀二(前DeNA)、古賀悠斗(西武)のバッテリーを擁した2017年のセンバツで、自身にとって甲子園初出場。2021年センバツでも甲子園を経験した。主な教え子は三浦、古賀のほかに、浜地真澄(阪神)、山下舜平大(オリックス)、今秋ドラフトで日本ハムから1位指名された柴田獅子など。

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著者プロフィール

朝日新聞東京本社スポーツ部記者。2005年に朝日新聞入社後は2年半の地方勤務を経て、08年からスポーツ部。以来、主にプロ野球、アマチュア野球を中心に取材をしている。現在は体操担当も兼務。1982年生まれ、富山県高岡市出身。自身も大学まで野球経験あり。ポジションは捕手。

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