崖っぷちリーガー 徳島インディゴソックス、はぐれ者たちの再起

「お前なんか無理だ」の声に憤り、NPB入りをつかみ取った増田大輝 ドラフト会議で鳥肌が立った瞬間と妻の涙

高田博史

【写真は共同】

 徳島インディゴソックスはなぜ独立リーグの虎の穴へと躍進を遂げたのか?とび職、不動産営業マン、クビになった社会人、挫折した甲子園スター…諦めの悪い男たちの「下剋上」とは? 崖っぷちリーガー 徳島インディゴソックス、はぐれ者たちの再起(著:高田博史、編集:菊地高弘)から現在は巨人でプレーする増田大輝に関する記事を一部抜粋して公開します。

打率・209のドラフト候補

 坂口にとっても、約束の2年間が終わろうとしている。

 2年間、増田を見てきて確信したことがある。独自の確固たる世界観を持っている選手だ。すべて数字で判断されてしまうのがプロ野球の世界だが、増田は単純に数字だけでは判断できない価値を持っている。

「大輝さあ、こうしようぜ。香川の生山(生山裕人/元・ロッテ)なんか.221で行ってるし、高知の角中(勝也/ロッテ)だって.253だよ。いっそのことお前、打率1割台で初めてNPBに行った選手になれよ」
「いやいやいや! プライド的にはだいぶ違いますよ!」

 笑って受け流せるだけの強い精神力があることを知っているからこそ、坂口もそんな冗談が言えるのであって、気持ちの弱い選手なら、あっという間に自信を喪失してしまうだろう。

 坂口が事あるごとに首脳陣と話し合っていた増田の育成方針において、「打率を上げるためにバントヒットを狙うようなことはさせない」と決めていた。もちろん本人も、そんなことをしようとは考えていない。

 2年目のシーズンが終わった。成績は67試合に出場し、打率.209、14打点、1本塁打、18盗塁。41得点はリーグトップの成績である。坂口が言う。

「その41得点っていうのを見ても分かるように。要はね、1つ1つのランニングとかを、いいかげんにやらないわけですよ。確かに波はある。バッティングの好不調はあるんだけど、それを走塁に引きずったり、ボーンヘッドをしたりってことは一度もなかった」

 いいものを持っているのにスカウトに評価されない選手の特徴として、集中力のなさやミスが多いことなどが挙げられる。精神面の弱さもそうだ。ミスを引きずらない。すぐに切り替えて次に行ける。それらはNPBに進む選手に必要な、大切な資質である。

 増田には、ここぞ! という場面での集中力や、ここしかない! というところでチャンスをものにする力があった。それらはシーズンを通した数字だけを見ても、なかなか見えてこない部分だ。

 しかし、当の本人は自分の成績に全く納得していない。今年限りで野球を辞めることが、本当に現実味を帯びてきている。

 中島監督は、現役を上がろうとしている増田の決断をまだ認めていない。

「もう1年やれ! なんとかチャンスはあるから。もう1年やったら確実に行けるから」

 そう言って、決心を覆すよう言い聞かせていた。

 なぜ、野球を辞めようとする増田のことを、そこまで止めようとしたのか? それはかつて、スカウトを経験していた中島監督の勘だった。

「やっぱりね、なんか持ってるものがあるんだよ。あいつね、くせ者じゃないけど、すごくしたたかなんだよ。元木(大介/元・巨人)じゃないけど、『ここぞ!』っていうときに、なんかやってくれそうな雰囲気はあるしね」

 シーズン終了後、みやざきフェニックス・リーグに参戦する選抜メンバーに選ばれている。コンディションは良くない。宮崎に入ってから胃腸炎を発症していた。治ってからの調子は悪くなかったが、二塁手として出場した対巨人戦で大きなミスがあった。

 ボテボテのゴロにダッシュする。打者走者の足が速い! 間に合わないと判断し、ランニングスローで一塁へ送球しようとして慌てた。守備力の高さを見せたかったところで、逆に悪送球する姿をさらしてしまった。

「うわ! やらかした!」

 首脳陣から巨人が自分のことを注目してくれていると聞いていた。だからアピールしたかった。巨人はなくなったな……。そう思っている。

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