古今東西「究極のユーティリティープレーヤー」 海外の歴代No.1はフリット、では国内は?
現役ナンバー1のマルチプレーヤーは、マンCで主に偽SBとして機能するルイス(左)。ペップ(右)も賛辞を惜しまない、まだ20歳になったばかりの逸材だ 【Photo by Robbie Jay Barratt - AMA/Getty Images】
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ペップが賛辞を惜しまない逸材ルイス
とりわけ、汎用型の需要が高まったのはサイドバック(SB)だろう。攻めに回ると、大外のレーンを駆け上がってクロスを放つ旧来型(=特化型)から、まるでボランチやインサイドMFのように立ち回る最新型が標準化しつつある。いわゆる偽SBがそれだ。
また、ゴールキーパー(GK)やセンターバック(CB)の進化も目覚ましい。最後尾でカバーリンのみならず、攻めの起点にもなるリベロ・キーパーや、ビルドアップの局面でアメフトのクォーターバックのように振る舞う最新鋭のCBが続々と現れるようになった。いまやマンマーク一辺倒の特化型(=ストッパー)は絶滅危惧種と化している。現代のイレブンは《まるで○○○みたいな○○○》の集まり、と言っていい。
前置きが長くなったが、この項の目的はこれら汎用型プレーヤーの“究極形”を探ることにある。それも地理(日本と海外)と歴史(過去と現在)の二方向から迫ってみたい。
まずは海外の現役選手から。ベテラン勢で言うと、元イングランド代表のMFジェームズ・ミルナー(ブライトン)とオーストリア代表のDFダビド・アラバ(レアル・マドリー)の名前が浮かぶ。日本代表MF三笘薫の同僚でもあるミルナーは若い頃にウイングとして鳴らしたが、その後はセントラルMFやインサイドMFを担い、さらにはSBもこなすなど、実に用途の広い選手だ。一方、アラバは左SBとして頭角を現した後、セントラルMFや攻撃的MF、果てはCBまでこなす万能ぶりを示している。
ただ、現役ナンバー1を選ぶならば、伸びシロへの期待も込めてイングランド代表のリコ・ルイス(マンチェスター・シティ)を挙げたい。なにしろ、名将ペップ・グアルディオラが「彼はどんなポジションでもできる」と賛辞を惜しまぬ逸材。現在は偽SBとして縦横に立ち回っているが、ボランチやトップ下、ウイングでも十全に機能する器の持ち主だ。サイズ(169センチ)がネックにならなければ、CBもこなせる珠玉のタレントである。
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フリットは究極のトータルパッケージ
水準以上の高さ、速さ、強さの三拍子がそろっていたフリット(写真)。ファン・バステン、ライカールトとの“オランダトリオ”でミランに黄金期を築いた 【Photo by Alessandro Sabattini/Getty Images】
そもそも「君、守る人。僕、攻める人」という牧歌的な攻守分業の時代にピリオドを打ち、攻守兼業をデフォルトとする《トータルフットボール》を世に問うたのが1970年代のオランダだった。
まず、90年代から2000年代にかけて活躍したオランダ代表のフィリップ・コクーだ。若い頃には左ウイング(=左サイドMF)をこなし、最盛期には左インサイドMFやピボーテ、さらには左CBまで務めるほど用途の幅は広かった。21世紀に限れば、この人の域に迫るゼネラリスト(=万能家)は見当たらない。
ただ、20世紀なら話は別。究極のトータルパッケージがいたからだ。オランダのルート・フリット、その人である。80年代の半ばから90年代にかけて活躍し、87年にはバロンドールの受賞者となった。
全盛期には2トップの一角で自在に立ち回ったが、右ウイングや攻撃的MFもこなし、PSVアイントホーフェン在籍時には空前絶後のリベロとして伝説を残している。85-86、86-87の2シーズンで計46ゴールを量産。しかも、その多くはオープンプレーから生まれている。最後尾で敵の攻撃を防ぐだけでは飽き足らず、卓越した展開力でビルドアップの起点となり、さらに相手ゴール前まで攻め上がって、豪快にネットを揺らしたわけだ。前であれ、後ろであれ、センターのポジションを任せれば、縦横無尽にして神出鬼没の人だった。
彼が究極の”トータルフットボーラー”になり得た要因の1つが図抜けたサイズ(191センチ)と運動能力にある。優れたボールスキルに加えて、水準以上の高さ、速さ、強さの三拍子がそろっていた。つまりは空陸(空中戦と地上戦)自在でもあったわけだ。海外のバーサタイル・プレーヤーでは歴代ナンバーワンと見ていいだろう。