MLBポストシーズンレポート2024

球場が揺れたフリーマン劇的満塁弾の裏にある、WSをめぐる忌まわしき「事件の記憶」【WS第1戦】

丹羽政善

拙攻続きの流れを変えた、大谷の一打

八回に二塁打を打ち、エラーの間に三塁まで進んだ大谷翔平(ドジャース)。この日の大谷は5打数1安打だった 【Photo by Mary DeCicco/MLB Photos via Getty Images】

 中盤以降はしかし、嫌な流れだった。

 ドジャースは五回裏、ウィル・スミスのライトへの犠牲フライで先制。しかし翌六回表、ジアンカルロ・スタントン(ヤンキース)に2ランを許し、逆転された。

 その裏ドジャースは、先頭のトミー・エドマンが二塁打で出塁。ここで打席に入った大谷は、ボテボテの遊ゴロに凡退したが、二塁走者を進塁させた。しかし、1死三塁でムーキー・ベッツ、フリーマンが凡退。

 翌七回は、無死一、二塁でキケ・ヘルナンデスがきっちりバントを決めて1死二、三塁としたものの、そこでも無得点。この日、フリーマンの本塁打が飛び出すまで、得点圏では7打数無安打と拙攻が続いていた。

 ただ、そんな流れを変えたのが、大谷だった。八回、1死走者なしで打席に立つと、痛烈なラインドライブをライトへ。トップスピンがかかりすぎて本塁打にはならなかったが、フェンス直撃の二塁打。相手のミスもあって三塁まで進むと、ベッツの犠飛で同点のホームを踏んだ。

 あの一打を振り返って大谷は、「いい打席だった。1死で三塁まで行けたのは大きかった」と話したが、実際、二塁までしか進めなかったら、どうなっていたか。延長十回に勝ち越しを許すと、再び嫌な雰囲気になったが、大谷が引き込んだ流れを手放したわけではなかった。

ギブソンの本塁打を目撃した記者の記憶

 フリーマンの満塁本塁打は、運も味方した。大谷が1死一、二塁で打席に入ると、ヤンキースは左のネストル・コルテスにスイッチした。大谷は初球を打ってレフトへのファールフライに倒れたが、アレックス・バードゥーゴが、勢い余って客席に飛び込み、ボールデッド。それぞれの走者に進塁が認められた。

 一塁が空いたことでベッツが歩かされ、フリーマンと勝負。そこで彼が、ギブソンが乗り移ったかのような一打を放ったのだった。
 
 そのギブソンのエピソードについて、聞かれたフリーマンは苦笑いしながら言った。

「自分は、1試合プレーしたけどね」

 大谷は「最高の勝ち方」と話した。

「最後、ギャビン(・ラックス)の四球からつなぐ形でいい勝ち方ができた。明日も、この流れを持っていきたい」

 7戦4勝先勝のプレーオフで、連勝したチームがそのまま勝ったのは、91回中76回(83.5%)。逆転したケースが15回あるが、その内の10回はワールドシリーズ。

 ところで、取材を終えて帰るとき、エレベーターでバリー・ブルームというベテラン記者と一緒になった。ブルーム記者は、ギブソンのサヨナラ本塁打も目撃している。

 その彼が言った。

「そうだな、あのときも記者席が揺れた」

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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