宮原知子が思いを込めるエキシビションの世界 スケーターのエンタメと遊び心を披露する場所

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フィギュアスケートNHK杯最終日に行われるエキシビションの魅力、楽しみ方についてプロスケーターで大会公式アンバサダーの宮原知子さんに聞いた 【写真:松尾/アフロスポーツ】

「試合にはない自分のエンターテインメント性を披露する場所」「わざと自分の枠から外れたチャレンジをするいい機会」――現在プロスケーターとして活躍する宮原知子さんは、フィギュアスケートの大会で実施されるエキシビションについて、そんな思いを明かした。

 今年は11月8日(金)~10日(日)の3日間にわたり東京・国立代々木競技場第一体育館で行われるグランプリシリーズ第4戦のNHK杯。最終日の10日には日本選手全員、メダリスト、主催者推薦のスケーターたちがエキシビションの舞台に上がり、試合とはまた一味違うフィギュアスケートとしての自由な表現、お祭りのようなエンターテインメントショーを見せてくれるだろう。

 今年も公式アンバサダーとして大会を盛り上げる宮原さんにNHK杯の裏話、世界中から絶賛された昨年のエキシビションで披露した『Paternera(パテルネラ)』の秘話、そしてエキシビションの魅力や楽しみ方について聞いた。

NHK杯で起きた、まさかのハプニング

NHK杯には6度出場し2015年大会で優勝した宮原さんに起きたまさかのハプニングとは? 【写真:アフロスポーツ】

――本日はよろしくお願いします。はじめに、宮原さんにとってNHK杯とはどのような大会だったのでしょうか?

宮原 はい。初めてシニアに上がってグランプリシリーズに出場できると決まったときにNHK杯に出場することができました。NHK杯はグランプリシリーズの中でも自国開催の大会でしたので、やっぱり自分のスケーターとしての存在をアピールできる場所でもありますし、世界と戦える場所に出られるんだという意識を強く持つことができた大会だったと思います。

 それで私はラッキーなことにNHK杯にたくさん出場することができたのですが、長くシニアにいるうちにいろいろな経験をして、大事なグランプリシリーズの中の1戦ということには変わりないのですが、同時に全日本選手権や世界選手権に向けて自分のスケートを調整していく大会の1つという位置づけにもなっていきました。NHK杯という特別感はもちろん変わらず持ち続けていましたが、一方であまり気負いすぎないようにという気持ちもだんだんと入ってきたりと、今振り返るとそういう変化があった大会だったのかなと思います。

――宮原さんはNHK杯には6度出場し、2015年に優勝しています。この中で何か思い出に残っている出来事などはありますか?

宮原 初めて出場したとき、本当にグランプリシリーズの大舞台ってこんな雰囲気なんだと肌で感じたのがすごく印象的でした。先輩方といっしょに自分が一番の年下で出場したのですが、観客の皆さんからの熱気とか会場の雰囲気にちょっと圧倒されながらも、こういう舞台に自分が立てているという嬉しさも感じながら滑ったことが一番思い出に残っています。

――舞台裏など、これまであまり表に出ていない話で何か面白かったこと、印象深かったことはありますか?

宮原 そうですね、裏側と言えるかどうかは分からないのですが、ある年のNHK杯でジャッジのパソコンにトラブルがあって、私の前で試合が中断しちゃって30分ぐらい進行が遅れてしまったんですね。フィギュアスケートにはある程度の時間、試合がストップしてしまったら6分間練習を再度できるルールがあるのですが、そのルールの時間よりもギリギリ手前で試合が再開されたので、結局6分間練習をせずに私の出番が来てしまいました。

 それで私はすごく不安だったので、選手の名前がコールされてから30秒以内にポーズを取らないと減点になるのですが、しっかりと30秒の時間を取りたくて最後の3秒ぐらいになってポーズを取ったんです。もちろん時間は見ていたので「まだ大丈夫や」と思いながらやっていたんですけど、チームの方たちはたぶん私が焦って時間に気が付いていないと思ってくださったらしく「あと5秒ーッ!」とかすっごい叫びながら(笑)、でも私は「あ、分かってます。でも、もっとアップしたいから……」って思いながら準備した出来事をすごく覚えていますね。

――周囲のハラハラをよそに宮原さんご自身は割と冷静だったわけですね(笑)。演技自体はうまくいったのでしょうか?

宮原 とにかく自分の演技をしたいという思いが強かったので、時間に関しては落ち着いていかないと、というマインドで行きました。演技もたぶん良かったのかな……実は演技のこと自体はあまり覚えていなくて(笑)。でも、終わった後にチームの方が「時間を見ていないのかと思ってハラハラしたよ」とだけ言ってくださった記憶があるので、たぶん良かったんだろうなと思います。選手をやっていてもなかなか経験しないようなハプニングでした(笑)

エキシビションはとにかく楽しんで滑る

――面白い裏話をありがとうございます(笑)。では、ここからはエキシビションについてお聞きします。宮原さんはどのような思いでエキシビションに取り組んでいましたか?

宮原 試合の後はやっぱり気持ちも解放されるので、とにかく楽しんで滑ることができたらいいなという気持ちで毎回取り組んでいました。どのグランプリシリーズでもそうなのですが、エキシビションはメダリストと上位数名まで、それプラスアルファで選ばれるという形でキャストが決まるのですが、エキシビションに選ばれるということも選手にとっては嬉しい部分でもあります。エキシビションに選ばれたから今大会に来て良かった、あるいはエキシビションに選ばれるために大会を頑張るという選手もいるくらいなので、試合にはない自分のエンターテインメント性などを披露することができる場所かなと思っています。

――これまでNHK杯に限らず、多くの大会でエキシビションを見てきた中で、印象に残っているプログラムはありますか?

宮原 なかなかこういうアイデアにたどり着かないな、すごいなと思ったのは、ジョージアのモリス・クヴィテラシヴィリ選手がアラジンの曲に合わせてジーニーの役で滑っていたのですが、顔から上半身にかけて全部を青色に塗って観客席から登場するというプログラムをやっていました。日本人ではなかなか考え付かないユニークな演技だなと思ってビックリしたのを覚えています。

――それを見て「次は私が!」と思ったことは?

宮原 さすがに私がやるのはちょっと無理やなぁと(笑)、そう思いながら見ていたんですけど、モリスのキャラクターにはピッタリと合っていて、いつも面白いエキシビションをする選手なんですね。だから、そのアラジンのプログラムを見て、またすごいレベルアップしてるなぁと思いました。

『Paternera』はトップに来るくらいお気に入り

昨年のNHK杯エキシビションで宮原さんが披露したフラメンコのプログラム『Paternera』は世界中から絶賛された 【aflo sport / JSF】

――宮原さんも昨年のNHK杯ではゲストスケーターとしてエキシビションを滑られて、世界中で大絶賛というニュースがありました。あらためて、昨年のNHK杯で披露されたエキシビションについて説明していただけますか?

宮原 フラメンコの『Paternera(パテルネラ)』という曲をステファン・ランビエールさん(2006年トリノオリンピック銀メダル、05・06年世界選手権優勝)の振り付けで滑りました。もともと難解なリズム、音楽のフラメンコを滑ってみたいなという気持ちがあってステファンにお願いしてみたところ、何曲か提案してくださって、すべてのコンセプトはもう出来上がっていたので私もすごく楽しみにしていました。曲選びはプログラムを作り始めるギリギリまで悩んでいたんですけど、最後の最後にステファンが「やっぱりこっちにしようかな」と一瞬にして決まったのが、この『Paternera』という曲です。プログラム全体としては情熱とか心の奥の強さみたいなものをテーマにして滑りました。

――準備期間はどれくらいだったのでしょうか?

宮原 このプログラムはもともと去年のNHK杯で披露する前に1年ぐらいアイスショーで滑っていたもので、自分の中でトップに来るくらいお気に入りのプログラムでしたので、突然NHK杯のエキシビションで出しても面白いんじゃないかなと思って滑ることにしたんです。ですので、準備期間で言うと去年のNHK杯の2年前に作り始めて、1年滑ったものをもう1回思い出しながら、NHK杯の数週間前から練習しました。

――『Paternera』のエキシビションに関して、宮原さんのもとにも多くの反響が届いたのではないでしょうか?

宮原 はい、いろいろな選手から動画で見たよと言っていただきました。すごく恥ずかしかったのですが(笑)、NHK杯は試合の後のエキシビションも注目度が高いんだなということをあらためて感じました。

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