井上拓真との12年ぶりの決戦迫る堤聖也 戦ってきた相手の思いも拳に乗せ、世界奪取を誓う

船橋真二郎

石原トレーナーが堤にかける言葉

堤聖也(左)は“チームメイト”のジェーソン・モロニーを連れ、後楽園ホールで後輩を応援(2024年9月25日) 【写真:船橋真二郎】

 試合中、堤がプロデビューしたワタナベジム時代から師事する石原雄太トレーナーが「ここ」というときにかけてきた言葉があるという。誰々との試合を思い出せ――。

「それで目の色が変わったり、動きがよくなったりするのが堤なんです」

 7月の後楽園ホール。“戦友”たちの戦うリングサイドには堤の姿があった。18日には、3度目の防衛戦で激闘の末に判定で退けた増田陸(帝拳)が、堤が返上した日本王座に就いた富施郁哉(ワタナベ)に挑戦し、4回KO勝ち。新王者となった。22日、初防衛戦で9回TKO勝ちした同い年の大嶋剣心(一力)が再起2戦目を2回TKO勝ちで飾った。

「僕自身、試合をしてきたやつらには強くあってほしいと思ってるし、僕と試合をしてきた人たち、僕に負けた人たちも、同じ思いなんじゃないかなって。そう受け止めて、僕は戦ってきたし、戦ってるから」

 増田に痛烈に倒された控え室で「何も覚えていない……」と繰り返した堤のワタナベジムの後輩だった富施が「そういえば、堤さんの声がすごい聞こえた」と記憶を手繰り寄せたように、今年に入り、角海老宝石ジムからDANGANジムに移った石原トレーナーを追って練習拠点を移しても、後輩たちを応援する姿勢は変わらない。

 9月に入って、19日、20日の東日本新人王準決勝、25日の後楽園ホールにも、“チームメイト”のジェーソンを連れ、一緒に角海老宝石ジムの円陣に加わり、リングサイドから声を枯らさんばかりに後輩を叱咤激励する姿があった。

「僕だけじゃない。本気でやってるボクサーって、それぞれ思いを背負って戦っているから」

 ワタナベジムで田口良一と9度の世界戦を戦った石原トレーナーにとって、2018年5月のヘッキー・ブドラー(南アフリカ)戦以来の世界を争うリングになる。この6年あまりで世界戦まで選手を導くことの難しさを感じたのではないか、と尋ねると、その問いに応える代わりに言った。

「もともと堤がデビューする前から、ここまでは来ると思っていました。だから、ここで獲れるかどうか、ここからが本当の勝負になると思っています」

 スイッチ、変則的なタイミング、独特のリズムなど、堤のボクサーとしての特徴が、石原トレーナーが世界戦まではたどり着けると感じた一番の理由ではないという。

「自分の壁を超えていけるような練習を考えて、やり抜く気持ちの強さ」「戦ってきた相手に対する思いの深さ」。そのボクシングを支え、ここまで堤聖也というボクサーを引き上げてきたものが、そう確信させた。

「拓真にはボクシング勝負をしても勝てないんで。自分の強みに巻き込んで、どれだけ僕の時間を増やせるか、じゃないですか。難しいことですけど、獲るやつは獲るんでね。(ユーリ)阿久井(政悟)だって、全勝の強い世界チャンピオンから一発で獲ったじゃないですか。ここはベルトもリベンジも僕が全部、持っていきます」

 井上拓真との12年ぶりの決戦まで、もう間もなく。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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