際立っていたNo.6鎌田の出足の速さ 三笘のすごさが凝縮された絶品ファーストタッチ
危険なタックルを受けたのも鎌田の出足の速さゆえ
押し込まれる時間が長かったが、攻撃面でも存在感。後半27分、クリスタルパレス最大のチャンスの起点となったのは、鎌田のパスだった 【Photo by Andrew Kearns - CameraSport via Getty Images】
サッカーセンスの塊のような選手だというふうに聞いていたが、このプレーを見て評判通りだと納得した。守ってもその能力の高さが筆者の目を引いた。試合のメモにも「動きがシャープ。踏み込みが速い」と記されている。そんな鎌田の速くてうまいクレバーな守備的プレーが相手の攻撃を止めて、反則を呼び、再三フリーキックを奪った。
そしてその出足の速さが最も顕著に表れたのが、後半18分のシーンだった。
鎌田にとっては非常に危険なプレーだった。なんと、マンチェスター・Uのアルゼンチン代表DFリサンドロ・マルティネスが鎌田に両足を揃えたタックルを見舞ったのだ。
もしもこのタックルが鎌田の足を捉えていたらと思うと、背筋が凍った。しかしこれも日本代表MFが味方のピンチで寄せの速さを発揮して、ボールに絡みまくって生まれた場面だった。
クリスタルパレス陣のペナルティエリア内での攻防。必死にゴールを狙うマンチェスター・Uの右ウインガー、アマド・ディアロが仕掛けて左足を振る。しかしこのシュートは鎌田が寄せてブロック。さらにそのこぼれ球をクリアしようと日本代表MFが素早く飛び込んだところで、焦ったマルティネスが危険なプレーを繰り出した。
幸いこの常軌を逸した両足タックルは鎌田の体に触れず、難を逃れたが、当たっていれば一発レッドカード必至の反則だった。
そしてもう一つ、鎌田の際立ったプレーを記したい。それは三笘が「いろんな人をつなぐ役割」と語った鎌田の攻撃的能力が発揮された後半27分のスルーパスだ。
これぞ、守備の場面を一瞬にして攻撃に変える渾身のパスだった。このパスが鎌田とクリスタルパレスのエース、エベレチ・エゼをつないで、この試合最大のチャンスを作った。
ハーフラインを越えた右サイドから鎌田が体を捻って右足を巻くようにして放った30メートルのパスが、最前線を走るエゼの足元にぴたりと届いた。そこから右に振って、そのリターンクロスにエゼが右足を合わせた時、セルハースト・パークを埋めたクリスタルパレス・サポーターの誰もが待ちに待った先制点の奪取を確信した。
ところがシュートは右ポストを舐めるようにして外れた。観客が揃って両手で頭を抱えた。
鎌田がお膳立てした決定機をエゼが外すと、その後試合は膠着(こうちゃく)し、目立った見せ場はなく、このままスコアレスドローで終わった。勝てなかったが、強い相手に対していいプレーをして、プレミアリーグで初めて90分フル出場した。取材ができなかったのが本当に残念だった。
賛辞に対して三笘は「そこは重要じゃない」
ゴールもアシストもなく、試合後には勝ちきれなかったことを悔やんだ三笘だが、その卓越したスキルに観客は魅了された 【(Photo by Sebastian Frej/MB Media/Getty Images】
しかしこちらは、主審の判定が性急かつ安定性を欠いたこともあり、特にブライトン・ファンにとっては非常にフラストレーションの溜まる2-2の引き分けだった。
その一方で、まあ、こう記してしまうと勝ちたかった三笘とブライトン・ファンには気が引けるが、見ているほうとしては面白い試合だった。フォレストのPK先制弾で始まり、ブライトンが前半終了間際に立て続けに2点を奪って逆転。そして後半、まさかのアウェーチームの同点弾が飛び出て、4ゴールが生まれた。さらには退場劇も生まれ、なんでもありの大荒れの試合となり、あっという間に90分間が過ぎ去った。
しかも三笘が本当に素晴らしかった。この試合で27歳アタッカーは、素晴らしいスキルを次々と見せて、観客全員が“あいつにボールを持たせてくれ”と願う選手になっていた。
全てのパフォーマンスに惚れ惚れとしたが、特にファーストタッチが素晴らしかった。 このファーストタッチこそ、フットボーラーのボールを扱うクオリティを計る一番のポイントだと常々思っているが、フォレスト戦の三笘のそれは本当にハイレベルだった。
ファーストタッチが素晴らしいから、相手に時間を与えない。どんなに強いボールが足元を襲っても、ピタッと収めてしまう。ボールが入ったその時が、相手にとっては奪い返す最大のチャンスである。ほんの少しの力加減で足元から逃げてしまうボール。そのコントロールミスが試合の流れを変えてしまうこともままある。
しかし三笘のファーストタッチは全くぶれない。だから敵にボールを奪われないし、すぐさまドリブル、もしくはスルーパスという攻撃的なプレーに円滑に移行できる。
この試合でブライトンが奪った2点は、どちらもそんな明らかに好調だった三笘が起点となったものだった。
まずは前半42分に19歳MFジャック・ヒンシェルウッドがヘディングで決めた同点弾。右サイドのやや深い位置から押し上げたセンターバックのヤン・ポール・ファン・ヘッケが放ったクロスに頭を合わせたが、それも左サイドを駆け抜けた三笘のクロスが逆サイドに流れたのがきっかけだった。
そしてそのわずか3分後の前半45分、ダニー・ウェルベックが見事な直接フリーキックを決めてブライトンが逆転に成功するが、このフリーキックを奪ったのが三笘のドリブル突破だった。突如としてスピードが切り替わるドリブルに幻惑されたフォレストDFオラ・アイナは、後方から足を引っ掛ける“故意の反則”でしか三笘を止めることができなかった。
もちろんウェルベックのキックが素晴らしかったことは間違いないが、三笘のドリブルにアシストがついてもいいブライトンの2点目だった。
ところが試合後、素晴らしいプレーの連続だったのに、三笘はつれなかった。特にファーストタッチが良かったと話しかけたが、「そこは重要じゃない」と返された。そして「最後のところでいかに仕事ができるか。シュートもほぼ打ててないですし、ゴール前にもなかなか行けてないんで。そこが大事かなと思います」と続けて、何よりも勝てなかったことを悔やんでいた。
確かに試合データを見れば、ブライトンがポゼッション70.4%とゲームを支配し、フォレストより10本多い14本のシュートを放ち、しかも試合終盤ではあったが、後半38分に相手の中盤の要、モーガン・ギブズ=ホワイトが退場して、7分のアディショナルタイムを加えたら14分間も勝ち越し点を奪う時間があった。そんな試合を引き分けで終えたらフラストレーションは溜まる。
しかし、勝ちきれなかった試合の取材を終えて外に出ると、背番号22をつけた大勢の日本人サポーターが笑顔で帰路についていた。
それはそうだ。異国の地で、あれだけ母国の代表選手が存在感を示してくれたら、「“僕は”“私は”三笘と同じ日本人です!」と大手を振って街を歩けるというものである。
かつてのグラスゴーで中村俊輔が、そしてレスターで岡崎慎司が築いたように、地元と日本人との素晴らしい絆が三笘とブライトンの間で今、さらに強く太く構築されつつある。
<企画・編集/YOJI-GEN>