なぜ巨人が中学生のジュニアユースを結成したのか。プロ球団だからできる、早熟&晩熟の“将来を見据えた”育成

Homebase
チーム・協会

【©中島大輔】

9月某日、平日の16時半頃から短パン姿の中学生が読売ジャイアンツ球場に一人、また一人やって来ると、ウォーミングアップを終えた後、思い思いの練習を始めた。

西武や巨人で活躍した片岡保幸監督にサードでステップを教わる選手もいれば、ホームベース後方のフェンスを利用してコーチとブロッキングの練習をする捕手もいる。外野では数人が頭に小さなコーンを乗せ、捕球練習を繰り返していた。

今春に発足したジャイアンツU15ジュニアユースの練習風景は、一般的な中学野球チームのそれとは明らかに異なる。
いわゆる全体練習ではなく、プロ野球選手も使用する球場の贅沢なスペースを使い、潤沢な数のコーチたちと個別練習が実施されているのだ。

「自分がやりたい練習をやって、『わからないことがあれば聞きにこい』というスタンスです。うまくなる環境は絶対にそろっているので、楽しい環境をいかにこっちがつくるか。それに限ります」

1期生として入団した24人の中学1年生を束ねる片岡監督は、ジャイアンツU15ジュニアユースの方針についてそう説明した。指導者にやらされるのではなく、選手たちがコーチを活用して自分でうまくなる環境が用意されている。

平日は月木の夕方に読売ジャイアンツ球場や室内練習場で練習を実施。施設にやって来たらホワイトボードに名前と時間を書き、2時間経った者から帰っていく。

土日は都内近郊のグラウンドで練習し、多摩川ボーイズとして日本少年野球連盟(ボーイズ)の試合に出場している。

【©中島大輔】

プロ球団が中学生をどう育てるか

球団創設90周年事業の一つとして創設されたこのチームの背景について、大森剛代表はこう話した。

「プロの球団が中学生世代のチームを保有し、サッカーのユースをモデルにしたような形で運営するのは初めてのケースだと思います。幼稚園児のアカデミー、小学6年生のジャイアンツジュニアに続き、U15を保有して階段を踏みました。
プロの球団が中学生世代をどう育てていくか。誰もやってこなかったから、我々がこれから考えていかないといけない」

ジャイアンツU15ジュニアユースが目指すゴールは3つある(※以下は公式HPより)。


(1)トップ選手養成
 =元プロの高い技術や、発育発達に応じた効果的なトレーニングなど、スポーツ科学に根差した指導と育成管理で選手をサポート。将来の日本代表、世界を舞台に戦う選手を養成します

(2)人間力形成
 =既成概念に疑問を抱く事、果敢な挑戦と失敗の経験で経た成長を最重要視します。そのプロセスからの勝利を目指します。
 自ら選択・行動できる人材を育て、野球界に限らず広く社会で活躍するリーダーの輩出を目指します

(3)社会貢献(還元)
 =良い指導方法を確立し、良い指導者を生み出します。それら育成メソッド、選手の成長の様子を日本スポーツ界に発信していきます。
 共感する方々と野球の真の楽しさ、真のスポーツマンシップを追求し、新しい価値をユーススポーツ界に創造します

【©中島大輔】

早熟の子がスーパースターになれない「悲劇」

昨秋にセレクションを実施して、興味深いのは早熟と晩熟の中学生が半々ずつ選ばれていることだ。その理由を大森代表が説明する。

「中学生でジャイアンツカップに出場してプロ野球選手になったケースはあるけれど、スーパースターになった人はいません。中学生世代のスーパースターで、いわゆる早熟と言われている子がなぜプロ野球選手になれないのか。球界にとって悲劇だと思います。
10年後、晩熟の子がどう育っていくのかはもちろん、早熟の子がどうなるか。プロ球団のジュニアユースとしてしっかり見ていかなければと思います」

今年1期生として入団した24人のうち、ジャイアンツジュニア出身が6人、ベイスターズジュニア出身が3人。いわゆる早熟系の彼らは中学1年時点でパワーはある一方、柔軟性や巧みな動きには課題があるという。では、どのように引き上げていくのか。

晩熟の子も含めて行なっているのが、動きの巧みさを身につけさせることだ。
ウォーミングアップではランニングやダッシュをただ行わせるのではなく、サッカーやドッジボール、鬼ごっこなどを取り入れて、さまざまな動きを獲得させていく。昨年まで巨人の二軍を指導した石森卓フィジカルコーチが中心となり、「他の中学チームにはないことをやっている」(大森代表)。

そうした狙いについて、大森代表が明かす。

「上記のアプローチは、小学校低学年からやっていかなければいけない要素です。巧みな動き、柔軟性のある動きはプロの一軍で絶対に必要な部分ですが、高校や大学で取り組んでも身につかない。プロになれば、もっと難しいです。今のうち、中1、中2が最終段階だと思います」

【©中島大輔】

「カオス」な状態をあえてつくる練習メニュー

プロ球団が中学生年代の育成を行う意義は、公式HPを見るとよくわかる。その一つが、「発達発育の特性」が説明されている箇所だ。
人の成長速度には個人差がある一方、年齢によって獲得できる能力やリスクに特徴があるという内容が書かれている

(※同HPの「スキャモンの発達成長曲線」などを参照)。
https://www.giants.jp/u15_junioryouth/growthanddevelopment/


巨人の運営するジャイアンツU15ジュニアユースには「球界全体に好影響を及ぼしたい」という狙いがあり、HPはもちろん、インスタグラムでも積極的に情報を発信している。
野球人口減少が進むなか、ジャイアンツの取り組みを他球団や独立リーグが追随すれば、全国各地で活性化につながり得るからだ。

では、球界の新たなモデルにふさわしい取り組みをどう進めていくのか。片岡監督が説明する。

「トップアスリートになるためには、いろんな視野を持たないといけない。だから普段の練習でも、同じような内容はさせません。しっかり脳みそを使うために、カオスな状態をつくる。それが『楽しい』というところにもつながってきます」

例えばウォーミングアップでは、2人1組で以下のメニューが行われていた。

(1)1人が宙にボールをトス
(2)もう1人が相手にボールをパス
(3)ボールが宙に浮いている間に、相手のボールをパス返し
 
文字の説明ではわかりにくいかもしれないので、ジャイアンツU15ジュニアユースのインスタグラムを参照してほしい。
https://www.instagram.com/reel/C_wE4xiMJlR/

【©中島大輔】

どうすればカッコいいチームはつくれるか?

片岡監督の言う「楽しい」とは、「夢中になる」という意味だ。中学生たちがどうすれば夢中になれるか、サポートする大人たちが練習メニューなどで工夫を凝らしている。

そのためには上位下達で命じるのではなく、自分たちで考えさせる。その一つが「ワーク」という取り組みだ。片岡監督が続ける。

「自分たちはどういうチームになりたいのか。例えば“カッコいいチーム”をつくりたいなら、『何がカッコいいのか?』と考えるワークから始まります。こちらがテーマを設定し、2人1組や4〜5人で時間内で話し合って最後に発表する。そうやって自分の意見をみんなに伝えられるようになってほしい。
教科書通りの答えではなく、自分の感じたことを話せばいいので。それがコミュニケーションや、価値観の擦り合わせにもなります」

なぜ、トップアスリートになるためには上記のような取り組みが必要なのか。片岡監督はプロ野球で成功する選手とそうでない選手の違いを見てきたからこそ、中学生たちに伝えたいことがある。


*後編に続く

(文・撮影:中島大輔)
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

「Homebase」は、全日本野球協会(BFJ)唯一の公認メディアとして、アマチュア野球に携わる選手・指導者・審判員に焦点を当て、スポーツ科学や野球科学の最新トレンド、進化し続けるスポーツテックの動向、導入事例などを包括的に網羅。独自の取材を通じて各領域で活躍するトップランナーや知識豊富な専門家の声をお届けし、「野球界のアップデート」をタイムリーに提供していきます。さらに、未来の野球を形成する情報発信基地として、野球コミュニティに最新の知見と洞察を提供していきます。

編集部ピックアップ

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着コラム

コラム一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント