プロで大成するのはどんな選手か。ジャイアンツU15ジュニアユース・片岡保幸監督が中学生に伝える「縦と横の軸」
【©中島大輔】
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指導者としてグラウンドに立つのは巨人の二軍や三軍コーチを務めた2018〜2021年以来だが、当時のスタンスとはまるで異なるという。
「プロは本当に時間がないと思ったので、徹底的にたたき込ませようとしました。原理原則がわかっていないと、いくら練習してもなかなか上達しないので。『こうなったら、こうなる』『こうなるから、こうしよう』と細かく伝えようとしました。
そうすれば理解力のある選手はついてくるけど、プロでも理解力が低い選手もいる。みんな、ちゃんと聞くんですよ。その上でやってみて、じゃあどうするのか。自分でどんどんアップデートできる選手がプロで活躍していると思います」
片岡監督の現役時代は、指導者から「やれ」と命じられるのが当たり前だった。まずはやってみた上で、自分で工夫を凝らしたことが成長につながったと振り返る。
「言われたことをとりあえずやっていたら、できてくるじゃないですか。できたから終わりではなく、『でも、他の人はこういうことをやっているのか』とわかってくる。それに何かを加えるというか、『これだけは毎日やろう』と自分で何かプラスすることでルーティンができていく。そうして試合で結果が出るようになりました。
もちろん結果が出ないこともあるけど、その後にどうするか。練習して、失敗して、できていく回数が増えてくれば、その成功が自分の元になる。僕はそうやっていました」
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坂本勇人、栗山巧の「探究心」
「プロでは負けるとクビになるので、横にいるライバルをしっかり見ながら取り組んでいました。でも、いくら頑張っても“おかわり”(西武の中村剛也の愛称)には勝てない。じゃあ自分は何で頑張るのか。バント、盗塁。そうやって方向を変えていく。周りが見えてくると、プレーも変わってくるし。
坂本勇人(巨人)や栗山巧(西武)の飽くなき探究心も見て、自分でもやってみました。そういうマインドを子どもたちにもつくってあげたい」
チームを率いながら、選手たちをどう成長させていくか。片岡監督は、サイクルの回し方は自身の経験でわかっている。
ただし、当時から子どもたちのマインドは大きく変わった。指導者が「やれ」と命じるだけでは、令和の子どもたちにはなかなか通じにくい。
そこでジャイアンツU15ジュニアユースが大事にしているのは、前編でも紹介した「楽しむ」環境だ。片岡監督が続ける。
「中学生は楽しんでやらないと、そもそも来なくなります。本来は自覚を持って取り組まないといけないけど、中学生はプロとは違うし、やっぱり楽しい環境をつくる。
『気づいたら、もうこんなに時間が経っちゃった』と感じたら、『次も来てみたい』『次はこうやってみよう』となるはずだし。絶対にうまくなる環境は整っているので、そういう気持ちがどんどん出てくるようにしたい」
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「いつか必ず勝つ」となるマインドづくり
「スイング速度と体重の関係」は縦軸がスイング速度、横軸が体重で、散布図に各選手の現在地が落とし込まれている。体重とスイング速度には相関関係があると考えられるなか、チーム全体のなかで自分の立ち位置がわかるのだ。
その上で、青のマジックでこう書かれている。
「他の選手と比べるよりも、個人の成長を確認!」
片岡監督は、選手たちによく伝えている話がある。“縦軸と横軸”だ。
「自分の軸は縦で、例えばプロになるために今、野球をやっている。そこにはライバルが絶対います。それが横の軸。ライバルを見ながらやらないといけない。だから計測を定期的に行って、スイングスピードなどを張り出しています。自分のライバルがどんな数値を出すのか。それに勝つためにやる。
縦軸と横軸を持ちながら取り組んでいけば、自然とレベルアップしていきます。そういうマインドをつくれたら、今はかなわない相手が来たときでも、『いつか必ず勝つ』と思えるはずです」
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「使ってもらえる」選手とは?
「大学や社会人、プロになると、“やらされる練習”では限界が来ます。『俺、どうすればいいんだ?』とならないためにも、そこを乗り越えられる力をつけておかないといけない」
そのために大事になるのが、武道で言われる「守破離」だ。
「僕自身がそうだったけど、指導者の話をめちゃめちゃ聞いていました。自分に言われたことはもちろん、周りが言われていることまで聞いていたから、そのとおりにできていた。中学、高校まではそれで大丈夫だと思います」
高校に進学後、壁にぶつかった。そのとき、自分で何とかしようという姿勢が芽生えたと明かす。
「壁にぶつかったときも、しっかり話を聞きました。そこから前のめりに変わって、スイッチが入って狂ったように練習しました。それは自分で考えて取り組んだ練習だから、自然と伸びますよね。結果も出ました。『自分の時間をどう使うのか』というマインドに入ると、もっと強くなりますよね」
社会人の東京ガスに進むと、再び壁にぶち当たった。
「めちゃめちゃ高い壁だから、すぐに乗り越えられなくて苦しかったです。でもスイッチが1回入っていたので、狂ったように練習しました。だからプロになれたし、プロに行っても使ってもらえる。使ってもらえないと、話にならないので。
おそらく練習でそういう気持ちが出ていたから、社会人やプロの首脳陣も『使ってやろう』と思ったんでしょうね。自分のなかに何か、面白いものがあったのかな」
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将来、大きく羽ばたかせるために
「小さい子で、なんとかならないかなという選手がいます。今は試合に使いにくいけど、守備だけでも使いたいと探しちゃいますね。でもランナーコーチャーやボール拾いに行っているので、いつもベンチにいないんです。たまにはベンチにいてほしいなと(笑)。
そういう子はチームのために動いているし、何かしら返ってくると思う。今、試合に出ている選手との差が縮まってきたとき、その子はどう行動するか。こっちがしっかり見ておかないといけない」
プロ球団であるジャイアンツがジュニアユースを保有し、片岡監督や、昨年までジャイアンツの二軍を指導した石森卓フィジカルコーチ、慶應大学野球部で助監督を務めた林卓史投手コーチ(現朝日大教授)など多くのスペシャリストが指導にあたる。
プロも使う恵まれた施設で、目指すのは将来大きく羽ばたける選手の育成だ。片岡監督が続ける。
「限られた時間のなか、スタッフが多いのでコミュニケーションを多くとれています。日本の野球界では新しい取り組みで、野球界に一石を投じているはずなので形になってくれば面白い。そういうマインドの人たちがコーチとしているので、いろいろチャレンジしていきたいです」
意識的に早熟と晩熟の中学生を半々ずつ集めたジャイアンツU15ジュニアユースは、果たしてどんな成長をたどるのか。将来が楽しみなチームだ。
(文・撮影:中島大輔)
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