五輪でのメダルラッシュ後も歩みを止めない日本フェンシング界 全日本選手権を経て芽生えた新たな道筋

田中夕子

パリ五輪のメダリストを破り全日本選手権・女子フルーレで初優勝した長瀬凛乃 【(C)日本フェンシング協会】

 パリ五輪でメダルラッシュに沸いたフェンシング。9月14日から16日に沼津市総合体育館で全日本フェンシング選手権大会が開催された。開会式で旗手を務めた女子サーブルの江村美咲が涙の優勝、東京大会の男子エペ団体金メダルに続いてパリでも団体銀メダルを獲得した山田優が貫録を見せ、江村は2年ぶり、山田は5年ぶりの王者に輝き、それぞれが強さを見せた。

 一方で、女子フルーレは団体戦で銅メダルを獲得した上野優佳、東晟良、宮脇花綸、菊池小巻が出場したが、全日本選手権を初制覇したのは日本女子体育大学1年の長瀬凛乃。決勝で敗れた東も「勢いもあったけれど、決勝まで上がってくるということはいいフェンシングをしていたということ。(決勝は)とても強かった」と感服した。

全日本選手権に出場する意義

 パリ五輪でから帰国後、メダリストとなった選手たちは所属先やそれぞれの出身校、地元でのセレモニーやテレビ出演に引っ張りだこ。東が「こんなに長い間剣を握らなかったのは初めて」というほど多忙な日々を過ごした。

 実際に今大会も男子エペ個人で金メダル、団体で銀メダルと2つのメダルを獲得した加納虹輝や男子フルーレ団体金メダリストの松山恭助、飯村一輝は欠場している。実は男子エペを制した山田に至っては、大会当日も体調不良で発熱、「38度をこえる熱があって起き上がるのもしんどかった」という。練習状況も体調も決してベストではなかったが、それでも出場する意義は何か。東が言う。

「今年から所属する共同カイテックの方々に対する感謝を示すためにも、全日本選手権という一番大きな大会に(所属先を)背負って出たい、という思いもありました。自分個人としても、(オリンピックで)メダルを獲った後だから『負けられない』という気持ちもあったし、相手からすればやっぱりオリンピックのメダリストって、1つ、ひるむと思うんです。もし私が逆の立場で、世界チャンピオンと対戦するとなればやっぱりビビったり、勝てるかなと臆する気持ちが出ると思うので、それと同じ。練習は十分ではなかったけれど、そう思わせることができれば自分にとってはチャンスだ、と思っていました」

 東は3回戦で利き手と反対の左手を負傷、「ぱっくり切れて血が止まらなかった」という痛みを薬で抑えて臨んだが、準決勝は辻すみれとの1本勝負を制し、決勝進出を果たした。これからロス五輪に向け日本代表での活躍も期待される長瀬にとって、その「東に勝った」ということは大きな自信になる。

 東だけでなく、準々決勝では「練習では手も足も出ずに負けていた」という上野に対し、15対14、一本勝負を制したことも長瀬の大きな自信になった。

「どんな試合になってもいいから、とりあえず楽しくやろうということだけ意識していました。その中で自分のフェンシングスタイルにうまくはめることができたので、今日勝てたことで、上野選手との試合に対する考え方を変えることができたのもよかったです」

 これまではジュニアやカデのカテゴリーで世界と戦って来たが、ロスを目指す戦いはさらなる猛者との対決が待っている。その第一歩となる全日本選手権でメダリストを次々倒し、長瀬にとっても「オリンピックでメダルを獲る」という目標がより明確になった。

「国内大会のシニアの大会で優勝するのは初めて。オリンピックでメダルを獲ったメンバーに勝てたことも自信になったし、また10月からは海外でのワールドカップシーズンが始まっていくので、この自信をこれからにつなげていきたいです」

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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