ゴールボール男子日本代表が“2度のリベンジ”で掴んだ金メダル その先に見据える新たな目標は?

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この種目では初の金メダルを獲得した日本、(左から)萩原、鳥居、金子、宮食 【写真は共同】

「あくまでも(目標は)金メダル獲得なので。1つ越えたなっていう、そういう喜びです」

 9月4日(現地時間、以下同)に行われたパリパラリンピック・ゴールボール男子準決勝、日本(世界ランキング6位)は中国(同3位)に勝利して初のメダル獲得を決めた。試合後、選手らはコートに集結して喜びを分かち合っていたが、チーム最年長の33歳・田口侑治は心境をこう振り返った。

 金メダルを懸けた翌5日の決勝、対戦相手は1次リーグで敗れたウクライナ(同8位)だった。延長までもつれた接戦を4-3で制すと、コート上で喜びを再び爆発させた。しかし優勝の瞬間について、代表選手でもあった工藤力也ヘッドコーチ(HC)は「率直に言うと、リアルか夢かよく分からなかった」という。

 今大会、日本は1次リーグで中国、ウクライナに敗れて連敗スタート。それでも3戦目のエジプト(同18位)に勝利して、1勝2敗の3位で決勝トーナメントに進んだ。トーナメント1回戦で米国(同4位)を6-4で下すと、準決勝では中国と再戦し13-5でメダルを確定させた。そして決勝でウクライナに勝利したことで、1次リーグから2度の“リベンジ”を成功させ金メダルを獲得した。

 しかし試合後の選手たちに話を聞くと、目標であった金メダル獲得に対する喜びだけでなく、既に新しい目標を見据えていた。

「勝てそうで勝てない」中国を下した準決勝

 準決勝の相手となった中国は、日本にとって「勝てそうで勝てないチーム」と工藤HCが話したとおり、東京パラリンピック、2023年のアジアパラ大会でも敗れていた相手だ。

 それでも工藤HCは1次リーグでの中国戦について「こちらの方が内容は勝っていたので、やるべきことをやれば確実に勝てる」と感じていた。田口も「チームとして大きく変えることなく、自分たちが通用しているんだという自信を持って試合に臨みました」と話した。

 試合は開始39秒、宮食行次のゴールで日本が先制した。中国に1点を返されるも田口が「宮食の球がガンガンキレていたので、1球投げた時からこれはもう点取るな」と振り返ったとおり、宮食が次々と得点を重ねて8-2とリードして前半を終えた。

 後半に入っても日本の勢いは衰えず、金子和也が5得点を決め13-5で勝利、1度目のリベンジを果たし、ついに中国の壁を越えた。

 日本の強さを宮食は「ディフェンスからリズムを作って、しっかり攻撃にリズムを作っていく部分がやっぱり1番強い所」と説明し、ウクライナ戦へ向けては「いいボール投げてくるので、守備からリズムを作って攻撃につなげていきたい」と話した。

 工藤HCも2度目のウクライナ戦に向けて「(1次リーグでの)敗因はもうほんとに明確に分かっていて、ディフェンスで少し崩れてしまった部分があった。そこを修正できれば勝てるという自信を持っている」と意気込んだ。

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歓喜の瞬間は「勝手に体が反応」

決勝ウクライナ戦の延長前半、決勝点を挙げた佐野 【写真は共同】

 迎えたウクライナとの決勝、萩原直輝が「絶対に勝って、やり返してやろうという気持ちでいました」と語ったとおり、金子が前半2分23秒にゴール決めると、その27秒後に宮食も得点を決め、序盤からリードする展開になった。しかしウクライナに1点を返されると、8分18秒には宮食のペナルティで相手に与えたチャンスを冷静に決められ、2-2で前半を終えた。

 再び試合が動いたのは後半3分48秒、佐野優人の得点で日本が再びリードを奪う。「狙い通りに投げられた」と振り返ったように、ノータッチでゴールに吸い込まれる見事なスローイングだった。その後は一進一退、互いに得点を許さないまま試合が進んだが、9分55秒にウクライナがゴールを決めて3-3の同点に追いつくと、そのままタイムアップを迎えた。

 延長は前後半それぞれ3分のゴールデンゴール方式、“最後の1点”を両チームが目指す中、延長前半1分31秒に再び佐野が得点を決めて日本が勝利、1次リーグでの敗戦から2度目のリベンジを果たして金メダルを獲得した。

 試合後に佐野は、勝利の瞬間について「(ゴールを知らせる)笛の音は全く聞こえなかった」というが「会場の歓声で自分が決めたんだって勝手に体が反応した」と飛び跳ねて喜びを表現した。

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次の目標は金メダルを取り続けた先に

 ゴールボールはボールの音や床の振動など、視覚以外をフル活用するスポーツだ。プレーが始まる前には毎回、観客に向けて「Quiet Please(お静かにお願いします)」とアナウンスされる。それでも試合前やタイムアウトといった時間には、会場では日本を応援するファンたちの声援が響き渡り、選手たちの背中を押した。

 東京大会ではなかった歓声、佐野は「本当に力になりました」、萩原は「日本人の応援に加えて、他の地域の方々も日本を応援してくれているのがすごく伝わった」と振り返った。

 主将を務める金子は準決勝後、メダル獲得の意味をこう語っていた。

「自分たちのやってきたことを形にするというのもそうですし、こんなにも大きなご声援くださる方々や、ご支援くださる方々に形としてありがとうございましたというものも伝えられるので、大きな意味があると思います」

 しかし、金子の夢はただメダルを獲得するだけではなく「パラリンピックで金メダルを取り続けること」だという。そしてほかの選手たちも「もっともっと集客して、日本国内でゴールボールっていうワードが聞けるようになりたい」(田口)や「これがスタート、(ゴールボールの)格好良さを知ってもらって、ファンを作りたい」(佐野)と、次の目標を次々と口にした。

 パリ大会で獲得した金メダルはゴールではなく、新たな目標へのスタートになった。

(取材・文:山田遼/スポーツナビ)
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