マルクス・レーム、走り幅跳びでパラ4連覇 未開の9m超えの可能性を山本篤が解説
陸上の走り幅跳びで、マルクス・レームが8メートル13の記録で優勝。前人未到のパラリンピック4連覇を成し遂げた 【写真は共同】
陸上男子走り幅跳びT64クラスで8メートル72の世界記録を持つレームは、パラスポーツ界きってのスター選手。パラリンピック4連覇という新たな栄誉を手にし、その視線の先に見据えるのはどんな景色なのか。健常者の走り幅跳びの世界記録はマイク・パウエル氏(米国)が持つ8メートル95。レームにはこの記録以上の9メートル超えが期待されているが、実現は可能なのか。
ブレードアスリート(競技用義足のブレードを着用する選手)として、2008年北京から4大会連続でパラリンピックに出場し、計3つのメダルを獲得。2024年5月に陸上選手としての引退を発表した山本篤さんに、レームのすごさと走り幅跳びで9メートルという前人未到の記録の可能性について聞いた。
8メートル超えの跳躍で絶対王者ぶりを示したレーム
コンスタントに8メートル以上の跳躍を見せ、金メダルを獲得したレーム。12~13年にわたりトップに君臨し続けるまさにレジェンドだ 【写真は共同】
レーム選手は、試合では常に世界記録更新という記録との勝負に挑んでいるはずです。今大会は記録を狙う上では、コンディション的にちょっと厳しかったという印象でした。レーム選手は自己ベストが8メートル72なので、コンスタントに8メートル以上を跳ぶことは彼にとっては難しいことではないと思います。僕の自己ベストは6メートル75ですが、僕が6メートルの記録を出す感覚で、彼は8メートルの跳躍をしているのでしょう。
そのため、今大会は記録よりも「勝つこと」にこだわっているように思えました。パラ競技への注目がパラリンピック期間中に集中するのは、日本だけでなくドイツも同様です。パラリンピックでないと注目されない現状を踏まえ、自分が「勝つこと」の重要性を強く意識していたのだと思います。4連覇を決めた後のインタビューでは、「アンビリバボー」と5、6回は言っていました。彼もキャリアをスタートさせた時に4回も勝てるなんて思っていなかったのでしょう。12~13年にわたってトップに君臨し続けた積み重ねの重みもありますし、4連覇を心から喜んでいる様子でした。
4連覇を果たしたことで、今後の彼に期待するのはやはり“9メートル超え”ですね。2023年6月に世界記録の8メートル72を出した時の調子であれば、9メートルもいけるかなと思いました。ただ、人間には調子の波があるので、記録更新は彼自身がどこまでのモチベーションを持って挑めるかにもよります。個人的には条件が整えば、可能性は十分にあると思います。気温や風、彼のコンディションがすべてうまい具合にかみ合えば、9メートル超えは決して夢ではありません。また、彼自身も9メートルの可能性がある限り、現役を続けるでしょう。
レーム選手のカッコいいところは、障害に対してネガティブからポジティブへ考えを変換できるところですね。「義足であってもオリンピアンに勝てる」という強い気持ちで、実際に多くの偉業を成し遂げてきました。障害があることが決してネガティブなことではないと証明し続けているところが、彼の魅力です。人と違う部分をレーム選手自身の強みと捉えています。僕も常にカッコよくをテーマに競技に励んできましたから、障害者の見方を変える発信をしている面において、すごく共感できることが多いですね。