事業費1千億、採用1千人の長崎スタジアムシティ 開業目前の「街ナカ施設」が持つスポーツ以上の意味

大島和人

スタジアムはV・ファーレン長崎のホームとなる 【提供:長崎スタジアムシティ】

 日本のスポーツ界にとって、地域創生にとって、画期的な施設が長崎に登場する。それが2024年10月14日に開業する「長崎スタジアムシティ」だ。

 長崎スタジアムシティは造船所の跡地に建設された複合施設で、西九州新幹線・長崎駅から徒歩10分ほどの国道202号線沿いにある。長崎電気軌道「銭座町駅」「宝町駅」はさらに間近で、バスも頻発している街ナカの立地だ。

 7.5ヘクタールの敷地には2万席のスタジアム、6千席のアリーナが建ち、ホテルや商業施設、オフィスも併設される。スタジアムの上空を滑車で通過する「ジップライン」やバーチャルリアリティを生かした「VSスタジアム」といったアクティビティが用意されるなど、スポーツ観戦以外の楽しみも豊富だ。

 8月23日、開業を控えた「スタジアムシティホテル長崎」内で、メディア向けの発表会が行われた。長崎スタジアムシティ、Bリーグ長崎ヴェルカと、両社と協業するニューバランス社による「スポーツの力による地域活性化」をテーマとしたものだった。

スポーツ観戦もスタグルも「日常」に

スタジアムシティは「地域活性化」の決め手となる 【提供:長崎スタジアムシティ】

 長崎スタジアムシティの岩下英樹社長はこう述べた。

「長崎スタジアムシティを通して地域創生、長崎の事業をこれから展開していきます。サッカーやバスケの観戦はもしかすると非日常かもしれません。ただそれが日常であるかのようにこの街に存在する。あるいはそういうイベントがないときも、日常的にこの街を利用し楽しむことができる。子どもたちも含めて、この街で育っていく――。そんな世界観をぜひ実現したいなと思っています」

 核となる施設はJ2「V・ファーレン長崎」が使用するピーススタジアム(PEACE STADIUM Connected by SoftBank)と、B1「長崎ヴェルカ」のホームとなるハピネスアリーナ(HAPPINESS ARENA)だ。どちらも規模は「中型」だが、観客の快適性を追求した最新の仕様だ。なお両クラブとスタジアムシティは通信販売で著名な「ジャパネットグループ」の傘下にある。

 ピーススタジアムはピッチと客席の距離がわずか5メートルという臨場感が売りで、両チームのベンチはスタンドに食い込む「イングランド流」だ。サンフレッチェ広島は市街地の「ピースウイング広島」に移転したことで観客数が一気に増加し、チームも好調だ。今回のスタジアム新設はV・ファーレンに間違いなくポジティブな影響を与えるだろう。

 スタジアムのこけら落としは、全体の開業に先立つ10月6日の大分トリニータ戦となる。

 プロ野球、Jリーグの大切な楽しみは飲食だが、V・ファーレンの「スタグル」はJリーグ離れした充実ぶりを見せる。長崎名物「ちゃんぽん」はもちろんだが、豚骨ラーメンの名店、東京の話題店がコンコースに並び、ゴール裏にはビールの醸造所まで併設されている。

 しかもピーススタジアムのスタグル横丁は試合の「開催日以外」も営業をしている。スタンド内はチケットがなければ入れないが、コンコースは出入り自由で、エスカレーターや階段、デッキを介して市街地とつながっている。

 北海道日本ハムファイターズの本拠地「エスコンフィールドHOKKAIDO」など、他にも試合がない日にも人を呼ぶ狙いを持ったスポーツ施設が日本には誕生しつつある。その中でも長崎スタジアムシティはスタジアム、アリーナと街の「一体化」を実現しやすい構造が備わっている。アクセスが良く、近所の住民やオフィスワーカーがフラッと足を踏み入れられる立地だからだ。

街と一体化し、長崎を活性化させる施設

路面列車の停留所のすぐ脇にスタジアムホテルがあり、その奥にスタジアムがある 【撮影:大島和人】

 近年はあらゆるプロスポーツが、地域密着の理念を掲げている。地域を活気づけること、「シビックプライド」や住民の一体感を深めることも、プロに限らずスポーツの大切な役割だ。

 長崎スタジアムシティはスポーツによる街おこしを、パワフルに行おうとしている。総事業費は1千億円に及び、人材採用も約1千人。そのうち「3割、4割は県外からこのプロジェクトを通じて長崎に来てくれた」(岩下社長)というから、規模感は大型工場の建設と似ている。

 ここには飲食店、ショップ、オフィスだけでなく教育機関も設置されるという。岩下社長はこう述べていた。

「人口流出も含めた、街の課題に対応していく中で『子どもたちがどう育っていくのか』は大事だと思っています。(学習塾の)英進館さん等々と連携して、沢山の子どもたちがここで学びます。保育施設もできますし、英語教育も行います。さらに長崎大学さんも入ります。年齢層を問わず、子どもから大人になっていくプロセスをこのスタジアムシティの中で過ごしてもらって、また長崎に帰ってくる。そんな形にしたいなと思っています」

 老若男女が集い、そこで価値のある時間を過ごす。人を引き付け、呼び込み街を維持・成長させる「核」になる。長崎スタジアムシティはそんな存在となり得る。

 一般的に日本の行政は「スポーツの施設を市街地の外に作る」発想が強い。しかし長崎スタジアムシティはジャパネットグループが主体となった民営事業で、構造が街と一体化している。球場、スタジアムと商業施設が並んで建つ事例は他にもあるが、ここはアクセスや導線といった相乗効果を生むための条件を備えている。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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