事業費1千億、採用1千人の長崎スタジアムシティ 開業目前の「街ナカ施設」が持つスポーツ以上の意味
課題や「現場」へのプレッシャーも
伊藤GMは今季を「勝負に出るシーズン」と強調する 【提供:長崎ヴェルカ】
ピーススタジアムを新ホームとするV・ファーレン長崎は現在J2の上位を争っているが、来季のJ1昇格は保証されていない。例えばギラヴァンツ北九州とAC長野パルセイロは、素晴らしい新スタジアムを舞台にしつつJ3で苦しんでいる。不確実性、リスクがあるからスポーツは面白いのだが、「環境相応」の成長を求められる現場は大変だ。
長崎ヴェルカの社長、ゼネラルマネージャー(GM)を務める伊藤拓摩はこう口にする。
「ヴェルカはB3に参入した初年度から、強いだけではなく、見ている人に楽しんでもらうところも徹底していました。3年目の昨シーズンはやるからには勝ちに行きましたが、それ以上にバスケットボール業界、スポーツ業界にヴェルカの可能性、魅力を広げるシーズンでした。設立当初から4年目のシーズンが『勝負の年』だと話をしていました。優勝に値するクラブになると同時に、事業面でも街の皆さんにより楽しんでいただけるエンターテインメントを提供することが必要です。認知や人気、エンターテインメント性とすべての部分で勝負に出るシーズンとなります」
伊藤GMは2020年に長崎ヴェルカに加わり、岩下社長とともにクラブをゼロから立ち上げたメンバーだ。2021-22シーズンのB3ではヘッドコーチ、2022-23シーズンのB2はGMとしてチーム優勝・昇格に導いている。つまり彼はこれまで完璧に「ノルマ」を達成してきた。しかし2024-25シーズンはより期待値が上がった中で、オフコートの質も問われる1年だ。
「世界でも唯一無二になり得る」
アリーナは内装工事中だったが隣接するサブアリーナは既に練習で使用されていた 【提供:長崎スタジアムシティ】
だとしても長崎スタジアムシティには特大の可能性がある。例えば東京ドームシティは立派な「複合型施設」だし、神宮外苑や甲子園球場は歴史をまとったスポーツの聖地だ。
ただ街おこしの起爆剤として、スポーツが社会と良き循環を生み出すプロジェクトとして、これほどのものは日本初だろう。どんなに言葉を尽くしても、「一見」に及ばない。いざ現地に足を運び、実物を見たことで、そのスケールや新しいアイディアの導入に圧倒された。
もしかしたら「世界初」かもしれない。岩下社長はこう述べる。
「圧倒的な臨場感の中でサッカーを楽しむという概念で言うと、ヨーロッパの各スタジアムはものすごく熱狂的でした。一方でスタジアムに合わせて商業施設が組み合わさっているとか、オフィスビルがあるとか、そういった要素があるのはアメリカのボールパークです。その両者を兼ね備えた形を、長崎で確立できれば、すごく面白いと思います。サッカースタジアム、そしてアリーナ、商業施設等々を含めた一体型のコンセプトでいうと、世界でも唯一無二になり得るのではないかと思って開発しました」
プロスポーツの未来を本気で考える人ならば、日本にこういう施設が必要だと分かっていた。そして実現してほしいと願っていた――。そんな夢と思いの具現化した姿が、長崎スタジアムシティだ。