寺地拳四朗の参戦でフライ級のタイトル争いが熱を帯びる 熱戦必至のスーパーフライ級にも注目【8月のボクシング注目試合①】

船橋真二郎

亡きジムメイトに捧げるベルト

小林豪己(左)と大橋哲朗は「必ず世界チャンピオンになる」と穴口一輝さんに誓った 【写真:船橋真二郎】

 一時代を築いたファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)、井岡一翔(志成)が相次いで敗れ、世界の勢力図が書き換わったのがスーパーフライ級。WBC王者のジェシー・ロドリゲス(米)、WBA・IBF王者のフェルナンド・マルティネス(アルゼンチン)、WBO王者の田中恒成(畑中)、この3王者が統一戦に強い意欲を示し、階級最強の証明を狙う。

 今年4月、国内でも王座交代劇が演じられた。舞台は後楽園ホール。WBC、WBOでスーパーフライ級2位につけ、悲願の世界初挑戦を目指していた38歳、WBOアジアパシフィック王者の中川健太(三迫)が終盤10回TKOで新鋭に討ち取られた。

 トランクスにリング禍で亡くなった穴口一輝さんの名前を入れ、敬愛するジムメイトに捧げるタイトル奪取を果たしたのは25歳の大橋哲朗(真正/12勝3KO3敗1分)。この13日、再び神戸から東上し、同じサウスポーの川浦龍生(三迫/30歳、11勝7KO2敗)の挑戦を受ける。

「キャリアも僕の倍以上、一発で試合をひっくり返すパンチ力もあって、その中に戦い方の巧さもあるし、何度も王座に返り咲いた勝負強さも持っている」。そんな中川に対し、試合前は怖さも抱いていた。それでも「俺は絶対にやれるという自信を持って試合に臨めた」と大橋は振り返る。

 昨年12月に日本王座挑戦を控えた穴口さんのスパーリングパートナーを務めた。ベルト奪取にかける2歳下の後輩の練習も間近に見て、あらためて「ボクシングに対する熱さ」をひしひしと感じたのだという。

 2018年に無敗で全日本新人王を勝ち取ったが、以降はタイトルと無縁だった。2019年10月には現・日本王者の高山涼深(ワタナベ)とダウン応酬の熱戦の末、最終8ラウンドに沈められ、日本ユース王座を逃した。2021年12月には1階級上のWBOアジアパシフィック王座に挑戦し、現・IBF世界バンタム級王者の西田凌佑(六島)の巧さの前に大差の判定で敗れた。

「こうでなくてはいけない」と後輩の姿に自身を省み、日々の練習から自分を変えた。2月3日、穴口さんが息を引き取った翌日の後楽園ホールでは、兵庫・相生学院高の同期でもある小林豪己(真正)が3回TKO勝ちでWBOアジアパシフィック・ミニマム級王座に返り咲いた。「(勝利の瞬間)あんなに叫ぶ豪己を初めて見た」。親友の精神状態を思い、その気迫に胸を打たれた。

 穴口さんとの別れのとき、「必ず世界チャンピオンになる」と小林と2人で約束した。大橋の世界ランクは現在、WBA3位、WBO6位、IBF9位。「どういう展開になっても負けるわけにはいかない」と自分を高めることに集中してきた。強い覚悟で初防衛戦に臨む。

固い決意で2度目のタイトル挑戦へ

2度目のタイトル挑戦にかける川浦龍生(左)と丸山有二トレーナー 【写真:船橋真二郎】

 対する川浦も「ここで負けたら、次はない」と固い決意を示す。これが2度目のタイトル挑戦。一昨年12月、昨年2月と相手のケガによる2度の延期をへて、ようやくたどり着いた昨年6月の日本王座決定戦は、現王者の高山の強打に4回TKOで屈した。

 徳島市立高、中央大を通じて、アマ時代は3位が3度。高校1年のインターハイは寺地、高校2年の春の選抜は井上尚弥(大橋)、大学1年の国体は谷口将隆(ワタナベ)、プロで世界王者となる面々に決勝進出を阻まれ、タイトルに手が届かなかった。

 再起2連勝の川浦は攻撃的な姿勢を見せた。スピードとカウンターが持ち味の技巧派が課題にしてきたのが「前に出て、攻める気持ち」だった。2021年12月、初黒星を喫した久高寛之との挑戦者決定戦は、快勝ペースでリードしながらも、ベテランの老かいな技と気迫に押され、1-2の判定を落とした。「大事なところで弱気が出た」という自分を高山戦でも超えられなかった。

 2年前、「言い訳のできない環境で、後悔なくボクシングをやりきりたい」と三迫ジムに移籍。豊富な実戦練習、本格的なフィジカルトレーニングなど、厳しい練習に揉まれ、手応えを感じていたはずだった。

 高山に負けたとき、三迫貴志会長にかけられた「(成長を)証明できるのは試合だけ」の言葉が胸に響いた。ボクシングスキルの勝負では負けない自負がある。「スタミナと気持ちの勝負で負けないこと」をポイントに挙げ、「三迫ジムに来て、川浦は強くなったと証明したい」と意気込む。

 川浦にとっては「背中を見てきた」というジムの先輩のベルト奪回とリベンジをかけた戦いにもなる。日本王座決定戦は、中川が日本タイトルを返上して実現したチャンスでもあった。「今回こそは絶対に獲る」の思いはより一層強い。熱戦の予感漂うサウスポー対決は「FOD」でライブ配信される。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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