大学生FW・桑山の奮闘はあったが苦境の続く町田 J1首位争いに向けて足りないもの、必要なこと

大島和人

東海大4年の桑山侃士が大一番で起用された 【(C)FCMZ】

 2024シーズンのJ1は6月26日の第20節から「2巡目」の後半戦に入っている。優勝、AFCチャンピオンズリーグ出場を懸けた上位争いは熾烈で、上位8チームは勝ち点差「8」に密集している。

 第20節は首位・FC町田ゼルビアと4位・ヴィッセル神戸、2位・鹿島アントラーズと3位・ガンバ大阪の上位対決があり、両カードとも引き分けに終わった。1位と3位の勝ち点差は「2」のままで、こちらも1試合でひっくり返る微差だ。

 町田はJ1初年度ながら快進撃を見せている。しかし6月のリーグ戦はここまで1勝2分け1敗と勝ち切れていない。26日の神戸戦も相手が昨シーズンのJ1王者とはいえ、大苦戦の末に0-0と引き分けた。

神戸戦は攻守に課題

 キャプテンの昌子源は「前半は本当によくゼロで耐えたなと思う展開だった」と口にする。

 町田が相手にボールを保持されることまでは、想定の範囲内だ。しかし26日の神戸戦は攻守それぞれに想定以上の大きな問題があった。攻撃では相手のカウンターを誘発する「危険なボールの奪われ方」が多く、守備は「プレスのかかりが悪かった」ことだ。

 後半開始と同時に仕掛けたトリックプレーは、あっさり奪われて相手に決定機を作られている。相手を混乱させるために用意したプレーが、逆に自分たちを混乱させる悪循環もあった。

 今季の町田はオ・セフン、ミッチェル・デュークといったターゲットマンを前線に配置し、彼らへのロングボールを多用する攻撃が有効だった。パワフルで直線的な攻撃には相手ディフェンス(DF)に圧をかけ、チーム全体の矢印を前に向ける効果がある。

 オ・セフン、デュークはいずれも負傷中で、15日の横浜F・マリノス戦から公式戦を欠場している。それでも横浜F・マリノス戦は「地上戦」で相手を攻略し、3-1と勝利していた。ただその後は「ターゲットマン不在バージョン」の組み立てを分析され、22日のアビスパ福岡戦と神戸戦はボールと人の動きも読まれているように見えた。

攻守で前に出られず苦しい展開に

神戸戦は町田がエリア内の「粘り」で耐えた展開だった 【(C)FCMZ】

 低調な攻撃は守備にも影響する。前への勢いが薄れれば自然とプレスも弱まり、町田の「良いカウンター」は減る。ボランチの柴戸海はこう振り返る。

「自分たちがどう前からハメていくのか、どうブロックを組んで押し出していくのかが、今日は今ひとつでした。相手は前線に一瞬で試合を決定づけるような選手残っているし、駆け引きも上手かった。自分たちはちょっと後ろに重たくなってしまって、勝負を掛ける(=前からプレスに行く)時間があって良かったのかなとは思いました」

 神戸の個は強烈で、特に武藤嘉紀、ジェアン・パトリッキの両翼に町田のDFは手を焼いていた。ボールの奪いどころを見出だせない展開だった。

 黒田剛監督は試合後に攻撃面の課題へ触れている。

「サイドまでは行くんですけども、そこでやっぱり手数をかけすぎてしまったり、ロストをしてしまったりして、カウンターを与えるシチュエーションをちょっと多く作ってしまった。それが今日の大きな反省にもなってきます」

 町田はロングスローなどのリスタートや、クロス攻撃を大きな得点源にしている。しかし神戸戦はサイドにボールが入ったあとの勢いを欠き、仕掛けに乏しいためセットプレーも取れない展開だった。スペースでボールを持った選手がいても、先回りして攻略したいスペースを消される。迷い、苦し紛れのパスを出したところを狙われるーー。神戸戦を大まかに描写するなら、そんな展開だった。

東海大4年の桑山が持ち味

黒田監督も桑山に前向きな評価を与えていた 【(C)J.LEAGUE】

 町田が勝ち点1をもぎ取れた理由はGK谷晃生を中心とした守備陣の奮闘だ。更にいうとエリア内で身体を張る、シュートを止めるといった「際」の部分に隙がなかったからだ。

 また終盤の町田は「らしさ」を取り戻した。黒田監督は76分に3枚替えを敢行し、FWにはプロ初出場の桑山侃士(くわやま・かんじ)を起用した。桑山は東海大4年に在学中の特別指定選手で、184センチ・80キロのターゲットマンタイプ。元日本代表FWの巻誠一郎を彷彿とさせるような競り合いの強さ、献身性が強みだ。

 昌子は21歳のデビュー戦についてこう述べる。

「別に何か驚きはないというか、練習にも来ていた中で『いい選手やな』と感じていました。本当に物怖じをしない、堂々とした振る舞いをします。だからあまり心配はしなかったです。でも一発目のロング(ボール)でトゥーレルに勝ったときは、さすがにちょっとびっくりして……。『おお、マジか?』って思いましたよ」

 マテウス・トゥーレルは神戸の最終ラインの核となるセンターバックで、空中戦の強さもおなじみ。桑山はファーストプレーで、そのトゥーレル相手に悠々と競り勝った。

 黒田監督はやはり前向きな評価を与えていた。

「前にどれくらい起点を作れるか、期待をしていました。彼の身体能力と高さで、神戸さんのDFが相手でも優位性を持って競り勝っていました。トレーニングもそんなに多く参加できたわけではないのですが彼の良さ、持ち味をしっかりとみんなで確認できた時間でした」

 桑山自身も手応えを口にする。

「ターゲットとしての役割を、出たらやろうと思っていました。ヘディングでまず勝つことと、守備でどう行くとかは言われていました。『どうなるかな』と思っていたんですけど、いざピッチに入ったら意外にやれたし、『楽しかった』というのが一番です」

 彼のプレーからゴールが生まれることはなかったが、「悪い流れを立て直す」ための貢献はしていた。J1首位チームの戦力として、短時間で存在感を示していた。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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