大学生FW・桑山の奮闘はあったが苦境の続く町田 J1首位争いに向けて足りないもの、必要なこと

大島和人

桑山J1デビューの背景は?

大学のスケジュールが「空いた」ことも起用の理由だった 【(C)FCMZ】

 町田が大学生FWを大一番で抜擢した背景には、苦しい台所事情がある。町田はセンターフォワードのオ・セフン、デュークがこの試合は不在で、さらにナ・サンホ、安井拓也らは長期離脱中。攻撃陣の選手層が大幅に薄くなっていて、桑山を勝負どころの「切り札」に使わざるを得なかった。

 試合後の黒田監督はこう述べている。

「多くのケガ人を抱える中で苦しい、不安を抱えた中での後半戦のスタートになりました。その中で桑山侃士は東海大学の関係者の皆様にご協力をいただきながら、今回は出していただいた。そのことにまず感謝を申し上げたい」

 現状として桑山は大学のリーグ戦、公式戦が優先で、最終学年だからコマ数が少ないとはいえ授業もある。所属する東海大がアミノバイタルカップ(総理大臣杯の予選を兼ねた関東大会)の3回戦で神奈川大に敗れたため、たまたまスケジュールが「空いて」いた。相次ぐ負傷者、アミノバイタルカップの敗戦といった巡り合わせから実現した大一番の起用でもあった。

 東海大は2023年に14年ぶりの関東大学リーグ1部復帰を果たして、今季も1部リーグを戦っている。桑山は東海大高輪台高時代にトップ下、ボランチなどMFとして起用され、横山歩夢(サガン鳥栖)と同学年だった。大学入学後にセンターフォワードとなり、プロから注目される選手となった。

 2年次、3年次と町田のキャンプに参加するなど、実力や相性の見極めはされていたとはいえ、かなり思い切った起用だったことは間違いない。

 オ・セフン、デュークが復帰すればこの2人が前線の「メインオプション」だ。また7月8日にはJリーグの第2登録期間(ウインドー)がスタートするため、新たな補強もあり得るだろう。ただ6月末の時点で、桑山は間違いなく町田の戦力だ。

首位争いへ踏みとどまるために

神戸戦は昌子も関係する「ロヴェスト神戸」の子どもたちが応援に 【(C)FCMZ】

 桑山の台頭があったとはいえ、町田は苦しい状況に追い込まれている。首位争いへ踏みとどまるためには「変化」「成長」が前提だ。

 攻撃における一つのテーマは安易なボールロストをせず、しっかりとボールを動かすビルドアップの構築だ。昌子はこう述べる。

「僕らはロングボールばかりに頼らず、下からでも組み立てるときは組み立てたい。『無理だから蹴ってしまおう』ではもう先がないし、トライはやめてはいけないと思っている。そこに関しては、このチームを成長させられるポイントです」

 守備も今以上を求める必要がある。神戸戦は結果的に引いて耐える展開となり、そもそも夏場の戦いはハイプレスの持続が難しくなる。しかし現状を是としたらチームの成長はない。試合中の駆け引き、意思統一も含めたアップデートは不可欠だ。

 献身的で成長に貪欲な選手が揃っている、誰が出てもベースが崩れないことは町田の強みだ。だからこそ隙を作らず結果にこだわる「らしさ」は残しつつ、チャレンジも必要だ。

 結果と内容の両面で妥協しない。負傷者が多いなりに、ターゲットマンがいないなりに、結果をもぎ取るーー。それが困難なことも確かだが、町田が今の戦力でJ1制覇やAFCチャンピオンズリーグ出場を目指すなら、欠かせないマインドだ。

 町田の現有戦力で、主力としてJ1の優勝争いを経験した選手は、キャプテンの昌子のみ。だからこそ昌子のリーダーシップは重要になる。勝ち点1をどう捉えるかと問われた彼は、こう強調していた。

「福岡戦もそうですけど、端から見ると負けてもおかしくない試合を、勝っていかないといけません。オウンゴールでも、ポロッっとしたゴールでも、格好悪くても、泥臭く戦って、勝ちに持っていく。相手の2センター(バック)が強いから、もうヘディングは勝てない……じゃなくて競る。それが黒田監督の求めることだし、町田が勝ってきた一つの理由です。ケガ人なんてもう言い訳で、帰ってくるまでベタ守りでやるのか?と言ったら違う。僕らはこういう試合でも、勝っていくチームにならないといけない。長年Jリーグで上にいるチームはこういう試合を勝っているんです」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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