真価が問われる後半戦 FC町田ゼルビアの守護神、谷晃生が初のアジア、シャーレを掴みに行く

大島和人

首位という初めての状況にも、冷静に対応できている谷 【©️FCMZ】

「試合の中で得る情報量は、経験を積むほど増えます。自分で自分の落ち着きがどうなのかは分からないですけど、周りの方々から『落ち着きを感じる』と言ってもらうことが増えています。見えているもの、判断の質は少しずつ上がってきているのかなと思います。今はこうやって結果が出ているので、自信が自然とついてくる部分もあるでしょう」

 GKはキャリアが長く、経験とともにワインのように「熟成」していくポジション。谷はハイレベルでありつつ、発展途上の選手でもある。

「どこまでチャレンジするのか。自分の幅を広げていく部分は、まだまだ成長の過程です。リスクを排除するけれど、自分の幅は広げる作業を、今はすごく楽しくやれています」

 逆にベルギー揉まれた経験が、活きている部分もある。

 町田のセンターバック(CB)陣は元日本代表で主将の昌子源、コソボ代表のイブラヒム・ドレシェヴィッチ、韓国人のチャン・ミンギュが主力を担う多国籍な構成だ。谷はそんな仲間たちとコミュニケーションを取り、連携を構築しつつ結果を出している。

外国人としてプレーする難しさを知る谷は、守備陣にとって非常に大きな存在 【©️FCMZ】

「自分で言うのもなんですけど、ベルギーで人として成長しましたね。通訳もいなくて、英語はみんな喋りますけど、練習するときにフランス語のこともありました。練習中に『えっ?』となることが、毎日のようにありました。だから外国人の立場で、どういうコミュニケーションを取ってもらえたらありがたいのか分かります。イボ(ドレシェヴィッチ)は初めて日本に来て、ヨーロッパとは違うことを言われることも多いはずです。だけど源くん、ミンギュも含めて、僕らで上手くサポートできていると思います」

 5月下旬には、嬉しい知らせがあった。それは日本代表入りだ。

「代表は誰もが目指す場所です。僕自身も、前回のカタール大会に行きたい思いがあった中で、バックアップで終わりました。どうしても次のワールドカップを目指したい。昨シーズンは、なかなか自分の思い通りに行きませんでした。あと2年ある中で、どうこのシーズンを戦っていくか、どう代表に行くかを考えて、町田に来ました」

 今回の日本代表には前川黛也(ヴィッセル神戸)、大迫敬介(サンフレッチェ広島)も含めて3人のGKが選出された。U-23代表の鈴木彩艶(シント=トロイデンVV)も有力な候補のひとりだ。谷は厳しい競争に対して、力むことなく、自然体で臨もうとしている。

「試合に出る出ないは、自分が決めることではありません。出たときに何ができるか、そのモチベーションはすごく高く持っています。9月からは最終予選もあって、ワールドカップに向けた戦いは続いていきます。そこに自分も入りたい、入っていかなければいけないと思っています」

J1の難しさを知っているからこそ、慢心している様子はない 【©️FCMZ】

 町田にとっては6月22日のホーム・アビスパ福岡戦が前半戦ラストゲーム。6月26日の第20節から、対戦が2巡目に入る。町田は後半戦のスタートからヴィッセル神戸、ガンバ大阪、名古屋グランパス、東京ヴェルディ、そして横浜F・マリノスの順番でカードが組まれている。「上位」「近隣のライバル」を向き合う明らかに重要度の高い試合が続く。前半戦をいい形で終えつつある町田だが、快進撃の再現は決して容易でない。

 谷も厳しい認識を持っている。

「1巡目は正直『初見殺し』みたいなところもあったと思います。町田とやって面食らったチームは多かったはずです。僕はJ2でやったことがないので、言っていいのか分からないですけども、J1の分析力、修正力はまったく違うはずです。そして全チームが(好成績を挙げている)町田に対して、強いモチベーションを持って臨んでくる。ここまでの積み上げ、前半戦以上のものをどこまで発揮できるかが問われます」

 7月20日の第24節・横浜FM戦は聖地・国立でビッグクラブを迎え討つ大一番だ。6月15日のアウェイ戦を3-1で制しているとはいえ、AFCチャンピオンズリーグのファイナリストが難敵なことは間違いない。そしてこの試合が終わるとJ1は8月7日の第25節まで、17日の中断期間に入る。町田にとっては後半戦へ弾みをつけるためにも、結果が欲しい試合だ。

4月13日に国立で開催されたヴィッセル神戸戦には、クラブ史上最多となる39,080人が来場した 【©️FCMZ】

 J1初昇格の新参者に、このカテゴリーを制する資格はあるのか?横浜FM戦は、そんな問いを選手たちへ投げかける戦いになる。

 谷は芯の強さは秘めつつ、どちらかと言うとクールで、スマートなプレイヤーだ。しかし彼に後半戦へのコメントを求めると、ホットな言葉が帰ってきた。

「サポーターの方々の期待を、いい意味で裏切っていきたいです。最初に掲げた『5位以上』は達成しなければいけない目標ですが、今はそれ以上を見ている選手も多いと思います。町田はもう優勝、ACLを狙わなければいけないポジションにいて、それを目指す以外の選択肢はありません。チームとしても、もっと色々なサッカーのできるチームになっていけば、より面白く、より強くなれるはずです。ぜひ期待してください」

夏の連戦で勝ち点を積み上げられれば、ACLや優勝が近づいてくる 【©️FCMZ】

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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