真価が問われる後半戦 FC町田ゼルビアの守護神、谷晃生が初のアジア、シャーレを掴みに行く

大島和人
 J1は世界の中でも「戦力格差」が小さいリーグだ。2011年の柏レイソル、2014年のガンバ大阪のように昇格直後のクラブがシーズンを制した例もある。しかし初昇格の新参者は話が別で、過去の事例を見れば残留すら快挙と言っていい。

 だからこそ、FC町田ゼルビアの戦いは大きなサプライズだ。2024シーズン第18節終了時の戦績は12勝2分け4敗の勝ち点38で、全20クラブの首位に立っている。快進撃の理由はまず黒田剛監督のマネジメント、采配だろう。ピッチ内のキーマンを絞るのは難しいが、ゴールキーパー(GK)谷晃生は間違いなくサポーターのハートをつかんでいるひとりだ。

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リーグ首位のチームで絶対的な守護神としてプレーする谷晃生 【©️FCMZ】

 谷は2000年11月22日生まれの23歳。ガンバ大阪のアカデミー時代から将来を嘱望され、2021年の東京オリンピックは正GKとしてベスト4入りに貢献している。2020年に期限付き移籍で湘南ベルマーレに加入し、3シーズンにわたって印象的な活躍を見せていた。

 ただ2023年は挫折のシーズンだった。ガンバ大阪に復帰し、開幕からレギュラーで起用されたものの、東口順昭との定位置争いに乗り越えられなかった。同年夏にベルギー2部のFCVデンデルEHへ移籍したが、ほとんど出場機会を得られなかった。

 そこから今季は町田に移り、堅守と首位争いを牽引している。キャリアも上昇基調に戻り、6月の2026 FIFAワールドカップ・アジア2次予選では日本代表にも招集され、6月11日のシリア戦では2年ぶりの代表Aマッチ出場も果たした。今回はそんな若き守護神に特別インタビューを行い、快進撃の理由や後半戦への抱負を語ってもらっている。

 谷の町田加入とこの成績を、2023年のうちに予想していた人は誰もいないだろう。彼もこう口にする。

町田を選んだ理由として「チャレンジ」と答えた新加入会見 【©️FCMZ】

「正直に言うと、ゼルビアのことはほとんど知らなかったです。知識は大きなスポンサーがついたとか、監督を黒田さんがやっているとか、本当にそういうレベルでした。キャンプインしてからは『うまくいけば上位に食い込める』『1桁順位でシーズンを通してやっていける』と思いましたけど、(現在の順位は)まさかまさかという感じです」

 町田の強みは様々な視点から分析されているが、実は「サイドの攻防」が躍進のカギになっている。データを見るとクロスからの得点が多く、逆にクロスからの失点が少ない。第18節終了時点でクロスからの得点は「10」あるのに対し、クロスから喫した失点はまだゼロ。谷はその立役者のひとりだ。

 なぜなら彼は守備範囲が広く、ハイボールを掃除機のように「吸い込む」捕球力があるからだ。普通のGKならギリギリで処理するクロスを、さも簡単に処理してくれる。

谷の安定したクロス対応はチームのストロングポイントに 【©️FCMZ】

 本人は監督、チームメイトの貢献を強調する。

「監督が守備に重きを置いていて、クロスを上げる選手へのプレッシャーのかけ方を徹底しています。まず上げさせないことを強調して、上げさせるにしても、何かしらのストレスをかけた状態にできています。中でマークに付く選手も相手の見方、付き方の原理原則を常々言われています。それを徹底できているから、自分も安心してプレーできます」

 その上で、谷は自らのクロス対応をこう説明する。

「(クロスを蹴ろうとしている)キッカーの位置などで、ポジションを細かく修正しています。ゴールを空けず、シュートを打たれても対応できる。だけど、広い範囲を守れるギリギリのポジショニングは常に意識しています」

 谷は身体能力、技術に長けたGKだが、今季は何より判断力に冴えを見せている。
「『ディフェンスがニアを切っているから、もう少しファーを取れる』というように、周りとの連携が大切です。あとは相手のキッカーのモーション、目線を盗んでからの駆け引きもあります。出だしの1歩目が特に大事で(ボールが)高く上がったら、自分は『行けるな』と思います」

 谷は極端に言うと自陣のすべてが見えている。味方と相手の人数と位置、外のスペースでボールを持っている選手の「気配」をすべて判断材料にして、その上でプレーを選択している。当然ながら相手選手、味方選手の特徴によって動きも変わってくる。

「ストライカーがどこにいるのかを見つけられれば、それも判断材料になります。ニアに170センチの選手がひとりいて、ファーに190センチの(オ・)セフンみたいな選手がいるなら、8:2とか7:3でファーに懸けていた方が確実にボールは来ます。そこのポジショニング、狙いは誰よりも持ってやっているつもりです。情報量が一番大事かなと思います」

 谷は成功と挫折の両方を糧にして、今のキャリアと向き合っている。

 まず成功体験は経験値を上げ、自信を増すきっかけとなる。結果として谷の判断も研ぎ澄まされていく。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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