筑波大はJ1首位・町田をどう倒したのか? 学生コーチ、選手が語る勝因とその組織
学生が支える組織
控え部員の応援も「Jクラブ並み」だった 【写真は共同】
余談だがプロ野球の工藤公康・元福岡ソフトバンクホークス監督、吉井理人・千葉ロッテマリーンズ監督も筑波の大学院で学んだ経歴を持つ。四方田修平・横浜FC監督のように学部は他大でも「院から筑波」という指導者は少なくない。蹴球部(サッカー部)はコーチ志望の院生にとって、絶好の実践の場になっている。実際に彼らの多くはJクラブに迎え入れられていく。
戸田コーチは柏レイソルU-18の出身で、大学入学後もリーグ戦出場経験がある有望選手だった。今はコーチを目指して方向を転換し、現役の学部生ながら指揮を執っている。彼はチームの組織をこう説明する。
「部員が4学年で200人います。あと『サッカーコーチング論研究室』という大学院の研究室に入ってこられる院生コーチの方々で構成されています。トップチームはスタッフが10人以上いて、コーチングスタッフも僕とテクニカルのコーチだけで3人います。フィジカルのコーチは2人いて、アナリストもトップ専任で2人います。Jでも抱えることができないような人数の、頼もしいスタッフに支えられているなと日々感じています」
上記の体制はトップチームに限定した話で、その下には茨城県社会人リーグ1部を戦う「TSCチーム」、「B1チーム」、「B2チーム」、「C1チーム」、「C2チーム」が連なっている。関東大学サッカー連盟には流通経済大、東京国際大のようにさらに人数が多いチームはあるが、筑波大は学生が大きな責任を負って、組織を切り盛りしている。
PKの分析、駆け引きは?
佐藤はPKストップで2回戦突破の立役者となった 【写真は共同】
町田の分析はこのような体制で行った。
「オープンプレーは僕が全ての試合を見て、動画は(3年生の)中村悠紀というトップ専任アナリストが作成してくれました。セットプレーはGKコーチと、もう1人の方で攻守を分担する感じで、うまくリレーションシップは取れていました」
その分析力はPKでも生かされた。延長前半のPKストップを佐藤はこう振り返る。
「選手が倒れていて、時間があったので、諏訪間にデータをもらってきてもらいました。『右に蹴る』と言ったので、もう、それを信じて、飛んで止めた感じです」
もっとも最後のPK戦にはこんな駆け引きもあった。大切な1本目を任されて成功した内野は明かす。
「相手のキーパーの方が『お前は分析済みだぞ』みたいなことを、キックの前に言ってきたんです。代表のとき、(町田所属の)平河選手とかに『PKうまいね』と言われて、『オレは左と決めています』と話して、それが伝わっているのではないかと思って……。右に蹴ろうと決めました」
筑波大は2017年の天皇杯でもY.S.C.C.横浜(J3)、ベガルタ仙台(当時J1)、アビスパ福岡(当時J2)とJクラブを3つ倒してベスト16に進んでいる。7年前のエースは現日本代表の三笘薫で、合計15名がプロに進むタレント軍団だった。
彼らはU-22世代のアマチュアだが、間違いなく今後の日本サッカーを担うエリートだ。小井土監督は述べる。
「試合の前に2017年も含めた映像をモチベーションビデオとして見て、気持ちを高めました。当時のメンバーは15人がプロになっているぞと伝えました。この試合はサッカー選手としての人生を変える可能性もある大会で、大学生にとっては非常に大きなものです。私が言うまでもなく、選手たち自身でそれを表現してくれたし、その覚悟を持ってやってくれたと思います」
「めっちゃリラックス」して臨んだPK戦
内野(左)と佐藤(右)は「次のステージ」でも期待できる人材 【写真は共同】
生活と家族を背負ったプロの選手にはない「軽さ」も彼らを利した。PK戦が始まる直前には、ベンチ前から記者席まで笑い声が聞こえてきた。内野は振り返る。
「めっちゃリラックスしていましたね。相手の方が絶対プレッシャーがかかるだろうなという感覚もありました」
守護神の佐藤は言う。
「『こういうときこそ楽しもう』と話をしていました。自分たちの目標である『天皇杯でJを撃破する』ところを、俺たちがやるぞとみんなで鼓舞しあった感じです」
筑波大は7月10日の3回戦で柏レイソルと対戦する。戸田コーチがU-18まで育った古巣で、相手の井原正巳監督は筑波のOBだ。J1からもう1勝を挙げる可能性は、間違いなくある。