J1王者・神戸で異彩を放ち続ける扇原貴宏「今季はJ1連覇しか考えてない。タイトルが選手の価値になる」

元川悦子

蛍君はセレッソ時代からの憧れの先輩。神戸で一緒に戦えて幸せ

憧れの先輩、山口蛍(左)とともに共闘する日々は扇原貴宏にとっての大きな刺激になっている 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

――そのマリノスを離れて神戸に移籍したときも多くの人々をアッと言わせました。

 当時のヴィッセルにはアンドレス(・イニエスタ=エミレーツクラブ)を筆頭に、(山口)蛍君やサコ(大迫)君、(酒井)高徳君のような海外経験のある高いレベルの選手、個性の強い選手がたくさんいました。「そういう中に自分が入ったらどういうことができるんだろう」とすごく考えましたし、「もっと成長できるんじゃないかな」とも感じた。それで決断したんです。
 加入当初は難しさを感じましたけど、諦めずに取り組んで頑張る姿を少しは見せられたと思うし、すごく真剣にサッカーと向き合うことができました。アンドレスみたいな世界のトップ選手を肌で感じるのも初めてでしたけど、隣で一緒にプレーするだけで1つ1つのレベルが全然違うと感じた。全てにおいて僕の財産になっています。

――ロンドン五輪世代の再結集も見る側にとっても魅力的に映ります。特に山口蛍選手とはアカデミー時代からのコンビですね。

 蛍君はセレッソの頃から憧れの先輩であり、常に追いかけてきた存在。今、また同じチームでボランチとしてともにプレーできるのはすごく幸せなことです。常に刺激を受け続けていますし、やっぱり僕にとっては大きな存在なんです。「自分も年齢を重ねても成長できる」と思えますし、「まだまだやれる」という気持ちがある限り、キャリアを続けたいという思いが強くなりますね。

川崎は1ミリも気を抜ける相手ではない。2月のFUJIFILM SUPER CUPのリベンジを!

2012年3月のロンドン五輪最終予選・バーレーン戦でゴールを決めた頃の扇原貴宏 【写真:アフロスポーツ】

――扇原選手たちも五輪の大舞台に立っています。今夏のパリ五輪に向けて、期待している選手はいますか?

 パリ世代で個人的に注目しているのは、FC東京の荒木遼太郎ですね。FC東京と対戦したときも確かな技術があって素晴らしい選手だなと感じたので。ゴール前で違いを作れる選手というのは数少ないですから、ああいう選手にはどうしても期待してしまいます。

――扇原選手もロンドン五輪代表だった頃、出場権を獲得した2012年3月のアジア最終予選・バーレーン戦で先制点を挙げています。その舞台は改修前の東京・国立競技場でした。

 だいぶ昔の話ですけど(苦笑)。個人的に国立はいい思い出のあるスタジアムですね。新国立になってからも最近は町田に勝ちましたし、神戸には勝率のいい場所なのかなと。ただ、今年最初のFUJIFILM SUPER CUPの(川崎)フロンターレ戦は0-1で負けているので、6月16日の国立でのゲームでは借りを返さないといけない。同じ場所でリベンジできればいいので、しっかりとヴィッセルらしく戦っていきたいと思っています。

――今季の川崎の印象は?

 フロンターレは近年のJリーグを引っ張ってきた存在。選手が入れ替わって今年は苦労している印象もありますけど、5月11日のコンサドーレ札幌戦を3-0で勝ったりと、強いチームなのは変わりない。いい選手もたくさんいるので、本当に1ミリも気を抜ける相手ではないと思います。しっかり勝って、その後の戦いに弾みをつけたいですね。

――最後に連覇に向けた意気込みをお願いします。

 今はチームとしていい練習ができていて、自信を持って試合に臨める状態。ここからは誰が出てもヴィッセルらしいサッカーをして勝ち点を積み上げていくことが大事になってきます。
 本当に今の僕には優勝しかない。そこに向かって1戦1戦戦っていくだけです。

30代に突入して円熟味を増した扇原貴宏。神戸の背番号6に注目!

 若い頃から「展開力とパスセンスに秀でたレフティ」と高く評価されていた扇原貴宏。その彼が過ごしてきた15年間のプロ生活はかなりのアップダウンの連続だった。さまざまな紆余曲折を経て30代になった今、戦術眼やリーダーシップにも磨きかかり、神戸で非常に重要な存在になったと言っていい。

 そのうえで、シーズンフル稼働でJ1連覇を果たし、まだ手にしていないアジアタイトルもつかむことができれば、彼のキャリアはより華々しいものになる。神戸の背番号6には異彩を放ち続けてほしいものである。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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