井上尚弥と河野公平の高度な駆け引きと一瞬の攻防 プロ43戦目での初めて大の字になって見つめた天井
2013年4月、井上尚弥のプロ3戦目の相手を務めた佐野友樹はそう叫んだ。
それからわずか1年半、世界王座を計27度防衛し続けてきたアルゼンチンの英雄オマール・ナルバエスは、プロアマ通じて150戦目で初めてダウンを喫し2ラウンドで敗れた。「井上と私の間に大きな差を感じたんだよ……」。
2016年、井上戦を決意した元世界王者・河野公平の妻は「井上君だけはやめて!」と夫に懇願した。
WBSS決勝でフルラウンドの死闘の末に敗れたドネアは「次は勝てる」と言って臨んだ3年後の再戦で、2ラウンドKOされて散った。
バンタム級とスーパーバンタム級で2階級4団体統一を果たし、2024年5月6日に東京ドームでルイス・ネリ戦を控えた「モンスター」の歩みを、拳を交えたボクサーたちが自らの人生を振り返りながら語る。第34回ミズノスポーツライター賞最優秀賞に輝いたスポーツノンフィクション『怪物に出会った日 井上尚弥と闘うということ』から2016年12月30日に開催された井上尚弥vs.河野公平の戦いを一部抜粋して公開します。
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【写真:ロイター/アフロ】
(ワタナベジム)
2016年12月30日 東京・有明コロシアム 6ラウンド 1分1秒 TKO
WBO世界スーパーフライ級王座4度目の防衛
井上の戦績 12戦全勝10KO
試合開始のゴングが鳴った。
まずは井上が左を突いてくる。鋭い左ジャブが止まらない。続いて威力のあるワンツーが飛んできた。河野はガードを固めながら距離を詰めようと必死に前へ出る。左を警戒していると、右アッパーが飛んでくる。
左の速さとパワーに驚いた。一方で、思ったより右を出してこない。右拳の状態が良くないのか。一瞬、頭をよぎったが、すぐに打ち消した。
「おそらくパンチの打ち終わり、カウンターを狙っているんだろうな」
河野がファーストコンタクトの印象を振り返る。
「すぐに今まで闘ってきた世界王者とは全然レベルが違うなと分かりました。ジャブが速くて強い。出てくる角度はそれぞれ違うし、まるで矢が飛んでくるような感じで伸びてくる。あれは普通の選手の左ストレートですよ。たまに出してくる右ストレートの威力はその3倍くらいありました」
さまざまな角度から次々と「矢」が飛んでくる。かいくぐり、時に被弾を覚悟しながら、距離を詰め、飛び込むしかない。
1分20秒過ぎ。
河野は左フックから右、左、右、右と横殴りのフックを放ちながら前へ出た。相手のガードの上だ。それでもいい。井上をコーナーへ追いやる。右のオーバーハンドは大きく空を切る。
セコンドの高橋は「作戦通り」と頷いた。
「見合っていてもテクニックで完封されちゃう。河野いいぞ、体は動けている」
残り50秒、右のボディーを食らった。思わず下がる、左フックを浴び、もう一歩後退した。
第1ラウンドが終わった。
河野はコーナーに戻ると言った。
「水ください、水ください」
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