週刊MLBレポート2024(毎週金曜日更新)

松井秀喜さんの記録に並んだ一発に「手が震えた」 大谷翔平のホームランボールをめぐるファンの物語

丹羽政善

MLBとスポーツ賭博の現状

 ところで、今回のスキャンダルでアメリカのスポーツ賭博の現状が注目されるようになったが、もはや、日常である。

 1992年、スポーツギャンブルは連邦法によって違法とされたが、2018年に米連邦最高裁判所が解禁を認め、現在は38州で合法となっている。以来、MLBの各球団はスポーツブッキングの会社との提携を模索し、20年9月にはカブスが大手オンラインスポーツブックメーカーのドラフトキングスとスポンサー契約を結んだ。

 そのドラフトキングスの店がリグリー・フィールドの一角にあったが、ラスベガスにあるMGMリゾーツ・インターナショナルを母体とするBetMGMが、ナショナルズの球場内にスポーツバー形式の「The BetMGM Sportsbook」をオープンさせ、ダイヤモンドバックスの本拠地チェース・フィールドには、やはりラスベガスでカジノホテルを経営するシーザース・エンターテインメントによる「シーザーズ・スポーツブック」がテナントとして入っている。

カブスの本拠地・リグリーフィールドの一角にある、ドラフトキングス 【撮影:丹羽政善】

 スポーツ賭博産業が急成長する一方で、MLBとしてはワールドシリーズでの八百長事件(ブラックソックス事件)、ピート・ローズ(レッズなど)による野球賭博の過去があるため、スポーツギャンブルとの関わりには慎重だった。しかし、解禁に伴い、提携が不可欠というより、むしろ取り込んで利益を共有する道を選択した。

 実は、数年のうちに導入されるであろうロボット審判(ストライク、ボールの自動判定)は、同じ文脈にある。誤審があれば、多額のお金が裏で動いているので、主審が危険にさらされる。本来、審判にとってそこは聖域で、ビデオリプレイ制度の導入なども当初は拒絶反応があったが、いまや受け入れに積極的。誤審はもはや、野球の一部とはいえなくなっているのである。

打者・大谷の「積極性」

 さて、大谷の松井さん超えの一発は、今週末のシリーズに持ち越しになった。いまは、大谷の得点圏打率の低さが話題になっている。16日の試合を終えて、19打数1安打。打率は5分3厘。同日の試合前の監督会見でも質問が飛び、そのときは、「まだサンプルが少ない」と一蹴したロバーツ監督だったが、16日はチャンスで3打数無安打。いずれも初球打ちで、内容も悪かったことから、試合後には、「話をしなければいけない」と、監督のトーンが変わった。

 大谷の昨年の得点圏打率は.317、22年は.314、21年は.284、通算では.289。統計的に「勝負強い選手」という概念は存在しない。一定期間の切り取り、あるいは、都合の良い記憶などによって印象が操作されているケースがほとんどだ。よって大谷の得点圏打率もある程度の打席数に達すれば、2割9分前後に落ちつくと想定できるが、いまは崩れそうな相手を助ける形にもなっている。

 初球を打って凡退というのが印象を悪くしているが、15日の試合を終えた段階で初球を打った場合の打率は6割ちょうど(10打数6安打、1本塁打)。キャリア通算では.406。よって、大谷の積極性に縛りをかけるのは諸刃の剣だ。

 04年、イチローさんは同様の制限をかけられた結果、低迷。それが撤廃されると、水を得た魚のように安打を量産し始め、最終的にはシーズンの最多安打記録を更新した。

 おそらく今後も、“初球はボール気味の球”が、大谷攻略の鉄則になる。

 投手・大谷であれば、打者・大谷の積極性をどう利用するのか興味深いが、得点圏での初球打ちが話題になった翌17日、大谷は1打席目の初球、外角のボーダーラインピッチを見逃した。判定はストライクだったが、なんらかの意図が働いているように映った。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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