週刊MLBレポート2024(毎週金曜日更新)

見応えがあった大谷翔平と今永昇太の初対決 今永を完勝に導いた、注目すべき“球質”とは?

丹羽政善

4月7日のドジャース対カブス。初回、大谷を空振り三振に仕留めた今永 【写真は共同】

「こんな4月の頭に、シカゴで試合をするべきじゃないんだよ」

 4月7日、シリーズ最終戦の試合前、ドジャースのフレディ・フリーマンがクラブハウスで冗談とも本気ともつかない表情で、心の声を漏らした。最初の2試合はデーゲームとはいえ、手がかじかむほどの寒さ。最後の日はそこに雨が加わった。

 フリーマンの懸念は的中する。7日の試合前に一旦は上がった雨だったが、三回ぐらいから再び降り始め、フィールドのところどころに水が浮くほど。そしてついに四回、カブスの攻撃中に雨が強くなって中断。その後、降雨中断は2時間51分に及び、再開されたのは5時35分。さすがにほとんどのファンはもう、帰路についていた。

 再開後は、大差がついていたこともあり、淡々と最後まで試合を消化する展開となったが、中断前に実現した大谷翔平対今永昇太の対決は、見応えがあった。

 初回の1打席目。初球は内角高めに大きく外れたが、2球目は内角高めの真っすぐをファール。このとき、打ち損じというよりは、明らかに今永が押し込んでいた。

 1−1からの3球目。今永はどんな球を選択するのか。

 ここで以前、トレバー・バウアーにインタビューで話した内容を紹介したい。
こんなやり取りがあった。

「アメリカ時代は、真ん中に投げた真っすぐをバッターがファールした場合、そのバッターは振り遅れているので、同じボールをちょっと高めに投げたり、インサイドに投げればアウトに取れていた」

日本では?

「初球、真ん中の球を振り遅れてファールだった場合、日本人打者の傾向として、ストレートに狙いを定めるケースがかなり多いと感じた。最初の悪い2登板が終わった後、セ・リーグだけでなくパ・リーグの動画を20時間以上見て、そういった研究の中から、こういう反応をした場合は、この球種を投げるべきだという、日本でのピッチングスタイルを確立できた。日本のバッターの反応であったり、特徴を理解して、それに応じた球種を投げる。その球種選択の部分を捕手とも話して、調整した」


 大谷対今永の3球目。カウントは違うが、今永の高め真っ直ぐに大谷は遅れている。

 では、再び4シームで攻めるのか?

 今永の選択はしかし、2球続けてスライダーだった。

「なぜ?」の問いに、今永は「4シームにタイミングがあってないんだったら、4シームでもいいんじゃないか? っていう人もいると思います」と答えてから続けた。

「でも、あそこは嗅覚ですね。スライダーの方がいいという。外れちゃいましたけど(笑)」

 戦いの場はメジャーリーグでも、大谷は日本人ということか。「僕がどこに投げても、大谷選手は変わらず自分のスイングができるなと感じましたね」と明かしたが、大谷のスイングから、何かを感じ取ったか。

 ただ、カウントが3−1となった後、今永はチェンジアップを1球挟んで真っすぐを続けるとフルカウントに持ち込み、最後は内角高めの4シームで空振り三振を奪っている。力のこもった、真っ向勝負だった。

 なぜ、高め真っ直ぐを続けたのか。

「逆風だったので、右翼に大きな当たりを打たれても大丈夫。風があるので、ライトに大きな当たりを打たれる分にはまだリスクが低い。直球は引っ張られてもいいかなと思って、最後は高めに投げました」

 大谷も「今回は、打者目線でいうと風が厳しかった」とシリーズを通しての印象を振り返ったが、そこまで計算しての配球だった。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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