シェフラーの強さは全盛期のタイガーに匹敵する 佐藤信人プロが占う今後の海外メジャーの勢力図
2位に4打差を付けマスターズを圧勝したスコッティ・シェフラー。彼の時代はしばらく続くのだろうか? 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】
スーパーショットがなくても勝てる強さ
シェフラーは決して絶好調とは言えない状態だったと見る佐藤信人プロ。それでも他の選手を圧倒できた理由とは? 【写真:ロイター/アフロ】
世界ナンバーワンの選手が、世界ナンバーワンのプレーをして、最後は他の選手を寄せつけない強さを見せつけましたね。最終日の前半までは接戦に見えましたが、8番ホールのバーディから完全にシェフラーに流れがきてバックナインに入ると他の選手が追いつける隙がまったくなかったです。2022年に優勝したときよりも、さらに強さを感じる勝利でした。
――シェフラーの強さの秘密は?
シェフラーは決して絶好調ではありませんでした。3月に2連勝したときと比較すると、距離感が合っていないショットも目立ちました。4日間のパーオン率を調べると優勝を争ったコリン・モリカワが69.4%(3位)、マックス・ホーマが70.8%(2位)なのに対してシェフラーは63.8%(11位)。平均パット数も3位と圧倒的に良かったたわけではありません。初日にローリー・マキロイが言っていた通り「スーパーショットがなくても、上がってみたらすごいスコアを出している」というのがシェフラーの強さだと思います。
――スーパーショットがなくてもスコアを伸ばせる要因は?
ゲームの流れを読む能力の高さです。攻めるところと守るところのマネージメントが素晴らしかったです。例えば最終日は8番ホールでバーディがとれたので、9番ホールはピンハイを攻めてバーディを奪った。その流れで10番もバーディを奪いました。3連続バーディでガンガン行きそうなところなのに、11番は危険を回避してボギーでOKという攻め方をしていました。そして、12番でも他の選手がトラブルになっているなか、安全に左のセンター狙いでパーセーブ。2019年に優勝したタイガー・ウッズも12番ホールは同じ攻め方をしていました。スコアを落とす選手が多い11番、12番で無理をしないことで、13番、14番ではしっかり攻めてバーディを奪った。
コースマネージメントだけではなくて彼は「エネルギーもマネージメントしている」という表現をよく使います。最終日のバックナインは、どんな選手でも緊張感があって、メンタル的に疲れてしまう。でも、シェフラーはそんなところも含めてエネルギーをうまくコントロールしていました。今年のマスターズでも追い上げる選手が終盤でスコアを落とすなか、シェフラーだけがスコアを伸ばしていました。
――ダブルボギーは4日間で1回だけでした。
メジャーで勝つためにはダブルボギーを絶対に打たないようにするというのは、タイガー・ウッズも同じ思考です。今年は優勝争いする上位選手でもダブルボギーを打つ選手が多かった。コリン・モリカワは最終日に2つもダブルボギーがありました。でもシェフラーのダブルボギーは3日目の10番だけでした。
シェフラーにとってゴルフよりも大切なこと
2年ぶり2度目の優勝を決め、キャディのテッド・スコット氏と抱き合うシェフラー 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】
チーム・シェフラーはすごく結束が強くて良いチームだと思います。キャディのテッド・スコットはかつてババ・ワトソンのキャディをしていて、キャディをやめてレッスンコーチになる予定でした。ちょうど、そのころシェフラーはキャディを探していて、キャディの条件としては自分と同じクリスチャンが良いと思っていました。PGAツアーには聖書を読む『バイブルスタディ』という会があるのですが、二人はその会で知り合ったそうです。シェフラーのクリスチャンとしての信仰心の強さも、ゴルフの結果に良い影響を与えていると思います。
――信仰心の強さが、どのようにゴルフに良い影響を与えているのでしょうか?
今年のマスターズを振り返っても、シェフラーは結果やスコアに言及することはほとんどありません。自分がやるべきことをやって、あとは神のご加護を信じている。だから、風が吹こうが不運なボギーがあろうが、常に目の前の一打に集中しています。優勝を争っている他の選手と比べても状況を達観しているような強さを感じました。
――シェフラーのメンタルが他の選手と違うところは?
おそらくシェフラーにとっては人生の中で1番大切なことがゴルフではないと思います。人生を通して、神の教えに逆らうことなく、自分がやるべきことをやる。家族を大切にして、仲間を思いやる。そういう教えを大切にしている。マスターズ期間中も奥さんが出産を控えて入院していましたが、もし出産が早まったら試合を途中棄権するだろうと言われていました。
――コーチとの付き合いも長いですね。
シェフラーは7歳の頃からランディ・スミスの指導を受けています。3日目が終わった後は、照明をつけて夜遅くまでドライビングレンジで練習している姿がすごく良い雰囲気でした。