J1王者・神戸は町田をどう封じたのか? 「相手の強み」を出させて“際”を制した老練な戦い

大島和人

デュエル、帰陣で遅れを取った町田

神戸戦は藤本一輝(右)の突破など、町田の強みも出た展開だったが…… 【(C)J.LEAGUE】

 神戸の先制点は最後のシュートに至るまで4度、5度に及ぶ「デュエル」(※1対1の状況)があった。神戸がそれをすべて制したことにより、山内のシュートは生まれた。さらに言うと山内が右足を振り切るだけのスペースが空いていたことも、町田DFの分かりやすい失敗だ。本来ならば右サイドハーフが戻っているべきエリアだが、バスケス・バイロンが戻り遅れていた。

 試合後の黒田監督はこう口にしていた。

「(バスケス・)バイロンのところは、走行距離がハーフタイムもそんなに上がっていなかった印象があります。(負傷明けで)数週間ずっとやっていませんので、そういったフィット感は本人もなかったと思います。やっていくうちに、少しずつ出てくるものだと思いますので、きちっと(コーチ陣が)寄与しながら、彼のレベルを上げていきたい」

 町田は平河悠、藤尾翔太の2人がU-23日本代表の活動に参加していて、攻撃陣のやりくりが難しくなっている。神戸戦に限ればFWで起用されたナ・サンホは期待以上のプレーを見せたが、バスケスは60分で交代していて、上下動の動きに物足りなさがあった。

 そういった「小さな差」の積み上げが神戸の先制点につながり、勝敗も分けた。神戸は89分、セットプレーから武藤が決めて町田を突き放す。町田も96分にドレシェヴィッチが決めて意地を見せたが、届かなかった。

 町田にも勝機はある試合だったし、前年王者を「自分たちの土俵に乗せた」時点でその実力は証明されているのかもしれない。しかし勝負どころで自分たちの強みを出し切れなかった、町田のスタンダードを徹底できなかったという意味で、悔いの残る展開だったはずだ。

 また今後は町田に「ボールを持たせる」チームが増えるだろう。本当にJ1のトップを目指すなら、引いた相手に対して手前や内側のスペースを突き、ボールを動かして崩すようなオプションが必要になるのかもしれない。

「普通なら合わせない」

「決め切れる」ところも神戸の強みだ 【(C)J.LEAGUE】

 神戸はエースの大迫勇也を負傷で欠いた中で、難しい展開を制した。武藤はこう述べる。

「彼(大迫)のいるときの良さもありますし、逆に今日のようにフレッシュな選手たちが裏を狙う良さもあります。J1の首位にいる町田に、しっかり打ち勝てたのは1人ひとりの自信につながったと思いますし、チームとしていい競争が生まれてきます」

 町田に合わせた試合展開についてはこう述べる。

「普通なら合わせないですけど、(タッチラインの外にボールが)出たらすべてロングスローですから、合わせざるを得なかった。そこでやらせなかったら、相手が前に人数かけている分、カウンターが効いてきます。最後ジェアン(・パトリッキ)からのボールはつながらなかったですけど、あれも通っていたらもうほぼ1点でした」

 相手の強みとするプレーから逃げず、正面から立ち向かう戦いには、当然ながらリスクもある。普段やり慣れていない戦いをするのだから、リスムもつかみにくい。しかし神戸はそんな展開でも焦らずにペースを保ち、得点に直結する「際」を制した。酒井高徳、山口蛍、扇原貴宏、武藤のような経験値の高い選手たちが中心となり、若い町田の勢いを受け止めて跳ね返した。

 我慢比べに耐えて、最後まで息切れせず、集中力を保ってやり切る――。それがどれだけ難しいことなのか、サッカーファンならばよく知っているだろう。神戸の難しい流れを耐える粘り、それでも勝ち切る老練さが光った国立決戦だった。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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