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プレミアリーグで“お疲れ”のイングランド代表 EURO2024を前に慢性化した不安を露呈

森昌利

ストーンズの相棒とGKのクオリティが上がれば隙がなくなるが…

戦力充実のイングランド代表で数少ない不安がGKだ。2018年W杯からレギュラーを務めるピックフォードも、他国の名手と比較するとクオリティ不足が否めない 【Photo by Rob Newell - CameraSport via Getty Images】

 レギュラーで若干の不満があるのは、GKのジョーダン・ピックフォードだ。2017年にエヴァートン移籍を果たしてから、高いセーブ能力が買われて代表にも選出されて、翌2018年からは完全にイングランド代表の正GKに定着している。しかし、近年の超一流GKの基準からすると、ビルドアップで最終ラインとの連係に参加するだけの技術とプレースピード、そして攻撃の起点となるセンスが少々足りない。

 一時はアーロン・ラムズデールの台頭に期待したが、所属するアーセナルでスペイン人のミケル・アルテタ監督の評価が今ひとつで、今季は42歳青年監督と同国人のダビド・ラヤに定位置を奪われてしまい、精彩を欠いている。

 このGKとストーンズのパートナーのクオリティが上がれば、イングランド守備陣のグレードも一気に上がり、隙のないチームになるのだが、そこはやはり代表チームならではの難しさだろう。大金をはたいて他国から有望選手を連れて来て穴を埋めることはできない。しかしそうした弱点をそのまま放置しなければならないところも、代表戦の面白さにつながる。

 と記したところで、イングランドのU-16代表でプレーしながら、両親が離婚したことで父親のウィルソン姓から母方姓に変更し、プレーする代表もイングランドからウェールズに変えたライアン・ギグスのことを思い出した。

 この代表変更により、当時は中盤フラットの4-4-2だったイングランド代表がマンチェスター・ユナイテッドの両翼を担った右のデイヴィッド・ベッカム、左のギクスという黄金のウインガーペアの片翼を永遠に失うことになった。

 現在の戦略なら、3トップの左サイドには右利きのアタッカーを入れるのが定石となっていて、当時のイングランド代表で左サイドを押しつけられたジョー・コールなどは、今なら絶好の人材だった。

 けれどもウインガーは縦抜けしてクロスを放り込むことが仕事だった1990年代から2000年代のイングランド代表では、ギグスが隣国ウェールズの選手となった時点から、不思議なことに全く左利きの有望選手が現れず、常に左のウインガー不在を嘆くことになった。

 とはいえ、こうした代表チームならではの戦力的な穴を愛国心で埋めて勝利を手にするというカタルシスもある。不完全を気力で埋めて栄光をつかむフットボールの美しさに人々は感動するものだ。

代表戦の日程と招集ルールを考え直すべき

イングランド国内で物議を醸したのが、ブラジル戦から選手が着用した新ユニホームのデザインだ。ネックの後ろ部分に施された十字のカラーリングに対して猛反発する声も 【Photo by Marc Atkins/Getty Images】

 話が少し横道に逸れたが、こうしたどの国にもある代表チームならではの人材不足に加えて、筆者がイングランド代表に抱く不安は2つある。

 まず今回のブラジル戦の直前に英メディアを騒がせた代表ユニホームに関する論争にも見られる、ピッチ外の問題だ。

 現在、イングランド代表のユニホームはナイキが製作しているが、先日発表されたEURO2024用の最新モデルの首の後ろ部分に付けられている十字が一部のイングリッシュの大ひんしゅくを買った。

 イングランドの国旗は白地に赤十字である。ところが何を思ったのかナイキは、この伝統的な赤十字に紫、ブルー、ピンクを足して、新たなシンボルを作り出してしまったのである。

 これが愛国心の強いイングリッシュを刺激した。右翼系の大衆紙『デイリー・メール』は一面で「イングランド・ファン激怒」と見出しをつけて真正面から批判した。

 しかもブラジル戦の試合前に、インタビュアーがガレス・サウスゲート監督にナイキの処置を「どう思うか?」と質問を浴びせる始末。本来なら晴れの舞台であるブラジルとの親善試合を前に余計な雑音が生じた。

 こういうところでイングランドはまたも、人気抜群でコマーシャルな要素が強く、豊富な資金を持つ反面、メディアがものすごくうるさい国であることの煩わしさを表面化させてしまった。

 そしてもうひとつの問題は冒頭のジョンのコメントに戻る。昨年10月18日に掲載された当コラムでも主張したが、やはりプレミアリーグの激しさで選手が心身ともにへとへとになってしまうことだ。それも今回のブラジル戦と続くベルギー戦は、これから今シーズンの全ての決着をつけるという、緊迫しまくった3月下旬に行われた。

 一方で、北朝鮮とのアウェー戦が中止になったこともあり、日本代表の遠藤航が今回の代表遠征で少しプレーしただけで帰って来ることにリバプール・ファンが大喜びしている。

 この現象からしても、今後はもう思い切って、3月の親善試合は10キャップ以下の選手しか呼ばない決まりにするなど、クラブと代表で主力となっている選手の消耗を鑑み、日程と招集ルールを真剣に考え直す時期にきているのではないかと思っている。

(企画・編集/YOJI-GEN)

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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