好敵手も尊敬する、坂本花織のすべてを楽しむ強さ “勝ち続ける難しさ”乗り越えた世界選手権3連覇

沢田聡子

「もっとレベルを上げていけたら」尽きない向上心

燃え尽きた時期もあったと明かした坂本 【Photo by Jurij Kodrun - International Skating Union/International Skating Union via Getty Images】

 女子ではペギー・フレミング(アメリカ)が1966-68年に成し遂げて以来56年ぶりとなる世界選手権3連覇を果たした坂本に、一つひとつのタイトルについてストーリーを教えてほしいという質問があった。

 坂本が初優勝した世界選手権は、北京五輪の約1カ月後に行われた2022年大会(フランス・モンペリエ)だった。北京五輪の直後から始まったロシアのウクライナ侵攻を受け、ISU(国際スケート連盟)はISU主催大会へのロシア人選手の出場を認めないと決定。北京五輪で1・2・4位と好成績を残したロシア女子は世界選手権に出られなくなり、坂本は有力な優勝候補と目されて大会に臨むことになった。

「初めて優勝できた時はオリンピックシーズンで、その時の世界選手権は、やっぱり一カ月前にオリンピックがあって、かなり燃え尽きて。『オリンピックが終わってから一カ月後に世界選手権か…』という、けっこう気持ち的にはしんどい部分がたくさんあった。いろいろその間に状況が変わってしまって、『自分が勝たないといけない』という気持ちになって、なおナーバスになっていった。けれども、やっぱりその世界選手権は最後の最後まですごくやり切ったという気持ちがあったので、初めて優勝できた時が多分一番嬉しくて」

 二つ目の世界選手権金メダルは、さいたまスーパーアリーナで開催された2023年大会で獲得した。

「二回目はオリンピックシーズンが終わった後で、もうそれこそまた燃え尽きて。(グランプリ)ファイナルまではやっぱり本調子じゃなくて、けれどもやっぱり世界選手権2連覇をしたいという気持ちもあって、その葛藤を乗り越えての優勝だった。

 去年は本当に苦しい、自分が一番やりたくなかったミスをしてしまっての優勝だったので、すごく悔しさの残る優勝だったなと思いました」

 同じ会場で行われた2019年世界選手権で、坂本はショート2位と好発進。しかしフリーでは、コンビネーションのファーストジャンプとして予定していた3回転フリップが1回転の単発になり、総合5位という結果になった。

 坂本は、その痛恨のミスを取り返す意気込みで、昨季の世界選手権に挑んでいた。フリーでフリップが1回転になったのは19年と同じミスだったが、その後にきっちりと3回転トウループをつけた粘りは、4年間の成長を示すものだった。だからこそ果たせた連覇だったが、坂本には今も悔いが残っているのだろう。

「今日は、今シーズンずっと調子が良かったので、ショート4位になった時に本当に好調を維持し続ける難しさを感じて。必ずしもショート1位・フリー1位、総合1位になるわけではないんだな、というのを、この場で経験できた。常に勝ち続ける難しさを感じた優勝だったなと思いました」

 五輪のメダルを獲得した後もモチベーションを保ち続け、勝ち続けることは至難の業だ。しかし、苦しさも含めフィギュアスケートのすべてを楽しめることが、坂本の強さなのかもしれない。

 ロシア勢が試合に戻ってきても「勝ち続けたい」と坂本は言う。

「今のままじゃだめだということも分かっているし、今できることを精一杯やって、もっともっと自分自身のレベルを上げていけたらなと思っています」

 尽きない向上心をみせた後に「うふふ」と笑った坂本は、きっとこれからも楽しく勝ち続ける。

2/2ページ

著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント