“170キロ右腕”ベン・ジョイスに聞く米大学野球のリアル 佐々木麟太郎へのアドバイスは?
ベン・ジョイスは大学野球時代に105.5マイル(約169.8キロ)を記録し、2022年にエンゼルスから指名を受けた 【Photo by Jayne Kamin-Oncea/Getty Images】
「日本のトッププロスペクトが、大学の見学に来る。一緒に出迎えてくれないか?」
オフは、練習施設・環境が充実している母校・スタンフォード大で練習しているホーナーにとっては、造作もないことだった。
「もちろん」
当日、日本から来たというプロスペクトが、花巻東高の佐々木麟太郎だった。
「体の大きな選手だった。それがまず第一印象。自分の話が決断に影響したかどうか分からないけど、興味深そうに話を聞いていた」
確かに、決断に影響したかどうかは分からない。そもそも佐々木にとっては、見学というよりはもはや、決断する上での最終確認という段階だったのだから。
全米でも屈指の強豪校ヴァンダービルト大の熱心な勧誘を知り、当初は、躊躇していたスタンフォード大が、グッと乗り気に。そうなると、過去にカレッジワールドシリーズを2度制し(1987,88)、過去2年はカンファレンスチャンピオンとなるなど、野球部としての実績も申し分なく、世界大学ランキングで常に上位を占める大学が、佐々木にとって魅力的に映らないはずがなかった。
短大を経由して名門大学に進むルートも
取材したのは2月下旬のことだったが、ちょうど大学野球のシーズンが始まったタイミング。母校の試合を気にしているか? と聞くと、ジョイスは「常に気にしている。見られる試合は全部見ている」と即答だった。「先週はテキサスで試合をしていたからそれを見ていた」。
3月4日時点(日本時間5日)で、テネシー大は11勝1敗で全米ランキング7位。ジョイスはそんな好スタートを予想していた。
「自分のように転校してきた選手の中にいい選手がいるんだ。だからどんなシーズンになるのか楽しみだ」
実は彼自身、短大からの転校組である。
簡単に彼の経緯を紹介すると、ジョイスは22年5月1日の試合で、大学野球では最速となる105.5マイル(約169.8キロ)を記録して、全米に名前が知られるようになった。その年の7月のドラフトでエンゼルスに指名されると、昨年5月28日、ドラフトから1年も経たないうちにメジャー昇格を果たしている。そんな彼ではあるものの、高卒時には、どの大学からも奨学金のオファーをもらえなかったという。
「いくつかの短大からオファーがあったから、ひとまずは短大に入学して、そこでプレーしているときに、(名門大学から)奨学金のオファーをもらった」
メジャーリーグで指名されるような選手は通常、佐々木のように、複数の大学から奨学金のオファーをもらう。しかし、ジョイスの場合は、身長も低く、投手としても平凡で、野球を続けるなら短大へ進学するしかなかった。
しかし、今となっては「そのルートも悪くない」とジョイスは言う。
「強い大学へ行く前に、2年間じっくり鍛えることもできる。だから自分にとっては貴重な時間になった」
実際彼は、短大1年目こそケガに苦しんだが、2年目に身長も伸びて注目されるようになると、「ヴァンダービルト大やテネシー大、テキサス工科大から連絡が来た」そうだ。子供の頃から好きだった地元のテネシー大を選んだが、1年目はトミー・ジョン手術を受け、棒に振ってしまった。しかし、復帰後に100マイル(約160.9キロ)を投げるようになると、ドラフト上位候補に躍り出た。
もちろんそれは、テネシー大が大学では最強と呼ばれるSEC(サウス・イースタン・カンファレンス)に属し、スカウト、ファン、メディアなど、常に多くの目があることと無縁ではない。