“170キロ右腕”ベン・ジョイスに聞く米大学野球のリアル 佐々木麟太郎へのアドバイスは?

丹羽政善

サウス・イースタン・カンファレンスに強豪校が集まる理由

 では、なぜ、SECに強豪校が固まっているのか。それは、ピッチングニンジャにも解説してもらったが、ジョイスもこう話した。

「米国南東部には才能のある子どもたちが多くて、野球が盛んなんだ」

 “才能のある子ども”は、何段階もの選抜を経て、トップチームに上り詰めていくが、選抜そのものは、「8〜10歳ぐらいからすでに始まる」そう。

「選抜チームに選ばれた選手は、1年中試合を行っている。争いが激しいし、SECはどこもプログラムが充実しているから、みんなSECの大学に行きたがる。そうやって最高の選手が集まってくる」

 そうして進学した大学には、プロチーム並みの設備がある。

「ラプソード、トラックマン、 エジャトロニックもあるし、マウンドにはフォースプレートも埋め込んである。おそらく必要なものはすべてある」

 ラプソード、トラックマンは、投手であれば、回転数、回転方向、変化量などを計測するために利用し、打者であれば、打球初速、打球角度などを確認できる。エジャトロニックカメラは、1秒で最大5000コマ以上の撮影が可能な超高性能カメラで、ボールがどう回転しているのか、リリース時の手首の角度などが可視化出来る。フォースプレートは、地面反力を測定できる。

 よってオフは、冒頭で紹介したホーナーのように大学に戻って練習をするメジャーリーガーも少なくない。ジョイス自身、今年はアトランタにあり、スペンサー・ストライダー(ブレーブス)らも通う「メイビン・ベースボール」でトレーニングをしたそうだが、「5回ほど、大学にも足を運んだ」と話した。

 そんな環境で大学生は、野球に打ち込み、多くはドラフトを視野に入れるが、ジョイスは、「毎日が刺激だった」と振り返っている。

「秋に入学して、最初の数カ月は練習しながら絆を深めていく。シーズンが始まったらチームメートがライバルにもなる」

 彼の場合、チームメート5人と一軒家をシェアし、そこでは一生続くような関係を築いていった。

 シーズンが開幕すると、「ライバルにもなる」と口にしたが、特にシーズン序盤は多くの選手に機会が与えられ、ふるいにかけられる。同時に、大学野球の雰囲気に慣れていく時期でもあり、それはまるで、大リーグのキャンプのよう。

「テネシー大は今週、火曜と水曜に試合があった。平日は違うカンファレンスのチームが相手で、今週はノースカロライナ州立大アッシュビル校が相手だった。シーズン当初の試合には1年生とかに出場機会が与えられる。そうやって徐々に大学野球や雰囲気やレベルに慣れていく」

授業は高いハードルだが、手厚いサポートも

 ところで佐々木は、野球だけではなく、英語での授業にも慣れていく必要がある。

「自分が日本へ行って、言葉を覚えるのと同時に宿題とかをやると考えると、出来るかなと思ってしまう」とジョイスは苦笑。ただ、「チューターなど、サポートがしっかりしている」そう。「宿題の確認をしてくれる人もいる。提出期限は大丈夫かとか内容は問題ないかとか」。

 とはいえ、「自分でタイムマネージメントをする必要がある」と、時間の使い方の大切さを強調した。

「朝早く起きて宿題をしたり、試合後にやらなければいけないときもある。でも時間の使い方を学ぶことは大切で、自習室で勉強する時間を確保することも大事な要素だ」

 1日をどう使うのか。まずは、そこから、ということか。それはもっとも、すべてのことに通じることでもあり、佐々木はそのやりくりを通じて、多くを学ぶことになるのかもしれない。

 ところで、ホーナーも「授業への適応は、野球より難しいかもしれない」と頬を緩めたが、「心配ない」と話している。

「生徒をサポートする体制があるからね。どんどん頼ればいい」

 佐々木は春から英語を中心に授業を受け、サマーリーグに招待されれば、そこから米大学野球のキャリアをスタートさせることになりそうだ。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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