盤石の陣容の王者・神戸、目立つ大阪勢の積極補強…J1リーグ全20クラブの補強診断【後編】
欧州スタンダードを体現できる選手
昨季、福岡で完全復活を遂げた井手口陽介。今季は神戸の2連覇に貢献すべく、ピッチを駆け回る 【(C)J.LEAGUE】
〈セレッソ大阪〉
補強診断:A/戦力ランキング:78点(7位)
昨シーズン:9位
監督:小菊昭雄(4年目)
【IN】
FW 山田寛人 ←仙台(J2)
MF ヴィトール・ブエノ ←アトレチコ・パラナエンセ(ブラジル)
MF ルーカス・フェルナンデス ←札幌(J1)
MF 平野佑一 ←浦和(J1)
DF 田中駿汰 ←札幌(J1)
DF 登里享平 ←川崎F(J1)
DF 奥田勇斗 ←桃山学院大(新人)
【OUT】
MF 鈴木徳真 →G大阪(J1)
MF 大迫塁 →いわき(J2)
MF 石渡ネルソン →愛媛(J3)
DF マテイ・ヨニッチ →仁川ユナイテッド(韓国)
DF 山中亮輔 →名古屋(J1)
DF 丸橋祐介 →鳥栖(J1)
GK 真木晃平 →群馬(J2)
昨季のレギュラーメンバーの流出はなく、戦力の上積みに成功。小菊昭雄監督就任4年目、初のリーグ制覇に向けて確かな陣容を整えた。悲願への鍵を握るのは10番を背負う田中駿汰だろう。札幌では3バックの右を務めていたが、C大阪では本職のアンカーを務めることになりそうだ。田中の加入によって主戦システムが4-3-3へと変更され、インサイドハーフに香川真司と清武弘嗣が並び立つ可能性が増した。
中盤にはサンパウロやアトレチコPRでレギュラーとして活躍したヴィトール・ブエノが加わった。ブラジル代表にこそ選ばれていないものの、ブラジルリーグ指折りのアタッカーは、間違いなく攻撃のオプションを増やしてくれるはず。札幌から加入したルーカス・フェルナンデスは来日6年目で、日本のサッカーへのフィットに不安なし。レンタル復帰の山田寛人はJ2の仙台で34試合に出場し、ひと回り大きくなって帰還した。川崎からやって来た登里享平はリーダーとしてだけでなく、ムードメーカーとしても貴重な存在だ。
気になるのは――例年のことだが――攻撃陣のタレントが豊富なのに対してセンターバックの選手層が薄いこと。マテイ・ヨニッチに代わる選手の獲得がなかったのが不安のタネだ。パリ五輪世代の西尾隆矢がグッと伸びてきてくれると頼もしいのだが。
〈ヴィッセル神戸〉
補強診断:B/戦力ランキング:87点(1位)
昨シーズン:優勝
監督:吉田孝行(3年目)
【IN】
FW 宮代大聖 ←川崎F(J1)
MF 井手口陽介 ←福岡(J1)
MF 櫻井辰徳 ←徳島(J2)
MF 鍬先祐弥 ←長崎(J2)
MF 山内翔 ←筑波大(新人)
DF 広瀬陸斗 ←鹿島(J1)
DF 岩波拓也 ←浦和(J1)
DF 寺阪尚悟 ←琉球(J3)
DF 本間ジャスティン ←神戸U-18(新人)
GK オビ・パウエル・オビンナ ←横浜FM(J1)
GK 新井章太 ←千葉(J2)
GK 髙山汐生 ←筑波大(新人)
【OUT】
FW 川﨑修平 →ポルティモネンセ(ポルトガル)
MF 新井瑞希 →横浜FC(J1)
MF 安達秀都 →岩手(J3)
MF ファン・マタ →未定
MF バーリント・ヴェーチェイ →未定
DF 大﨑玲央 →エミレーツ・クラブ(UAE)
DF 尾崎優成 →愛媛(J3)
DF 高橋祥平 →松本(J3)
GK 坪井湧也 →磐田(J2)
GK フェリペ・メギオラーロ →横浜FC(J1)
GK 廣永遼太郎 →未定
さすがJ1王者、痒いところに手が届く効果的な補強で、確実に戦力をアップさせた。長期離脱中の齊藤未月の穴を埋める存在として井手口陽介を獲得したのは、素晴らしいリクルーティングと言える。欧州経験の長い井手口は、大迫勇也、武藤嘉紀、酒井高徳らの欧州スタンダードを体現できる選手。アンカーでもインサイドハーフでもプレーでき、本人も日本代表復帰への意欲を見せる。
年齢的にコンディションに不安のある大迫のバックアップとしては、伸び代十分の23歳の宮代大聖を川崎Fから獲得。選手層に不安のあったセンターバックにはベテランの岩波拓也を迎え入れた。神戸のアカデミー出身で、7年ぶりの復帰となる岩波は並々ならぬ覚悟で復帰を決意したはずだ。
GKには川崎Fと横浜FMでそれぞれタイトル獲得経験のある新井章太とオビ・パウエル・オビンナが加わり、日本代表GKの前川黛也とのレベルの高いポジション争いが繰り広げられそう。サイドバックには両サイドをこなせる広瀬陸斗を鹿島から獲得し、リーグ2連覇に向けて盤石の陣容と言えるだろう。
〈サンフレッチェ広島〉
補強診断:D/戦力ランキング:85点(3位)
昨シーズン:3位
監督:ミヒャエル・スキッペ(3年目)
【IN】
FW 大橋祐紀 ←湘南(J1)
MF 小原基樹 ←水戸(J2)
MF 細谷航平 ←法政大(新人)
DF イヨハ理ヘンリー ←京都(J1)
GK 薄井覇斗 ←松本(J3)
【OUT】
FW ナッシム・ベン・カリファ →福岡(J1)
FW 棚田遼 →いわき(J2)
MF 柴﨑晃誠 →引退
DF 住吉ジェラニレショーン →清水(J2)
GK 林卓人 →引退
これまでも選手の出入りを最小限にとどめ、ピンポイント補強を敢行してきたが、強化責任者が代わった今オフもその流れに則った動きを見せた。レギュラークラスの補強は湘南で13ゴールをマークした大橋祐紀のみ。福岡に移籍したナッシム・ベン・カリファは昨季2ゴールにとどまったから、数字上では大きなプラスとなった。
とはいえ、サッカーはそう単純なものではない。1トップ2シャドーの3枠に対し、大橋、ピエロス・ソティリウ、ドウグラス・ヴィエイラ、加藤陸次樹、満田誠、マルコス・ジュニオールらをどう組み合わせるかがポイントになるだろう。
大橋を除く補強は、京都と水戸にそれぞれ武者修行に出ていたイヨハ理ヘンリーと小原基樹が復帰し、控えGKとして薄井覇斗を松本から期限付き移籍で獲得。アカデミー出身の細谷航平が法政大を経由して帰還したのみ。ミヒャエル・スキッベ監督就任後、2年続けて3位という好成績を収めているが、優勝にあと一歩届かなかったという現実もある。その“あと一歩”を埋め切れたのかどうか。昨夏、森島司が移籍した際に加藤とマルコス・ジュニオールを獲得したように、足りないピースがあれば開幕後や夏に即座に動くこともありそうだ。
〈アビスパ福岡〉
補強診断:D/戦力ランキング:77点(8位)
昨シーズン:7位
監督:長谷部茂利(5年目)
【IN】
FW ナッシム・ベン・カリファ ←広島(J1)
FW 岩崎悠人 ←鳥栖(J1)
MF 松岡大起 ←グレミオ・ノヴォリゾンチーノ(ブラジル)
MF 北島祐二 ←東京V(J2)
MF 重見柾斗 ←福岡大(新人)
GK 菅沼一晃 ←福岡大(新人)
【OUT】
FW ルキアン →湘南(J1)
FW 山岸祐也 →名古屋(J1)
MF 中村駿 →磐田(J2)
MF 井手口陽介 →神戸(J1)
MF 田邉草民 →引退
DF 三國ケネディエブス →名古屋(J1)
GK 山ノ井拓己 →金沢(J2)
ルヴァンカップを制して初タイトルを獲得し、リーグ戦でも過去最高となる7位でフィニッシュ。しかし、中堅クラブが躍進すると、資金力のあるクラブが触手を伸ばしてくるのがこの世界の常。2年連続二桁ゴールと気を吐いた山岸祐也、チームの心臓だった井手口陽介がそれぞれ名古屋、神戸に引き抜かれていった。
井手口に代わるボランチにはパリ五輪世代の松岡大起を起用する腹づもりだろう。井手口とはタイプが異なるが、ボール奪取とバランス能力に長けており、前寛之との連係にも問題はなさそうだ。また、昨季、特別指定選手として5試合に出場した重見柾斗もこのポジションの候補と思われる。
前線には広島から元スイス代表のナッシム・ベン・カリファを迎え入れた。ただし、昨季は2ゴールにとどまっており、山岸の代わりとしては心もとない。前線では5ゴールをマークしたルキアンも湘南へ移籍し、選手層自体が薄くなっているのも気がかりだ。1トップのナッシム・ベン・カリファが潰れ役をこなし、鳥栖から加入した岩崎悠人や昨季のルヴァンカップMVPの紺野和也らに積極的にゴールを狙わせる算段か。収支はややマイナスだが、これまでも巧みにチームをマネジメントしてきた長谷部茂利監督だけに、上位に進出してもサプライズではない。
〈サガン鳥栖〉
補強診断:C/戦力ランキング:73点(11位)
昨シーズン:14位
監督:川井健太(3年目)
【IN】
FW マルセロ・ヒアン ←横浜FC(J1)
FW ヴィニシウス・アラウージョ ←今治(J3)
FW 堺屋佳介 ←鳥栖U-18(新人)
MF 中原輝 ←東京V(J2)
MF 渡邉綾平 ←法政大(新人)
MF 日野翔太 ←拓殖大(新人)
DF 木村誠二 ←FC東京(J1)
DF 丸橋祐介 ←C大阪(J1)
DF キム・テヒョン ←仙台(J2)
DF 上夷克典 ←大分(J2)
DF 長澤シヴァタファリ ←関東学院大(新人)
DF 北島郁哉 ←鳥栖U-18(新人)
GK イ・ユンソン ←義政府Gスポーツサッカークラブ(韓国)
GK アルナウ ←奈良(J3)
【OUT】
FW 岩崎悠人 →福岡(J1)
FW 藤原悠汰 →愛媛(J3)
FW 河波櫻士 →岐阜(J3)
MF 小野裕二 →新潟(J1)
MF 西川潤 →いわき(J2)
MF 島川俊郎 →徳島(J2)
MF 坂井駿也 →宮崎(J3)
DF ファン・ソッコ →蔚山現代(韓国)
DF 坂本稀吏也 →山形(J2)
DF 大里皇馬 →滋賀(JFL)
DF アンソニー・アクム →未定
GK 内山圭 →藤枝(J2)
GK オム・イェフン →未定
かつてはストーブリーグでメンバーの大幅な入れ替えを余儀なくされていたが、小林祐三SD、川井健太監督体制となってから主力の大量放出は少なくなってきた。とはいえ、今オフは主力中の主力だった“偽9番”の小野裕二と快速ウイングの岩崎悠人が退団し、新たなスタイル作りが求められることになる。
注目なのは昨季、東京VのJ1昇格の立役者となった中原輝だ。突破力と高精度のクロスを備えた左利きのチャンスメーカーで、岩崎とタイプは大きく異なるが、右ウイングの有力候補だろう。21年に山形でコーチだった川井監督と1年間ともに戦っている点も大きい。泣きどころだった前線にはJリーグ経験者のマルセロ・ヒアンとヴィニシウス・アラウージョを獲得した。ヴィニシウス・アラウージョも21年に山形に在籍しており、そのポテンシャルは指揮官も知り尽くしているに違いない。
ただし、ヴィニシウス・アラウージョはJ1初挑戦、マルセロ・ヒアンは昨季、横浜FCで3ゴールしか奪えなかった。チームは昨季、いいサッカーをしていたものの、結果が付いてこなかった。今季は総力戦で結果を掴み取りたい。
(企画・編集/YOJI-GEN)